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78.テルミン100年を記念して
テルミンを演奏して何年になるだろう。
シンセサイザーの生みの親であるボブ・モーグ博士が、1996年にEtherwaveという名で、コンパクトで存分な性能を備えたテルミンをbig Briarブランドから発売したのを聞きつけた。注文したのは、翌年あたりだろうか。製造番号は50番だった。
テルミンは、ソビエトのテルミン博士が100年前に発明した世界初の電子楽器である。当時ニューヨークでも話題となり、クララ・ロックモアの素晴らしい演奏で、数々の映画音楽に使われている。
1954年にボブ・モーグは、父親とともにテルミンを作り、販売をはじめた。おそらくいい売り上げだったのだろう。その資金をもとに1963年に最初のMOOGシンセサイザーを発明した。
そのお礼の意味で、モーグは、テルミンへの恩返しのようにEtherwave thereminの販売をはじめたのだと思う。
ぼくは家で演奏してみて、あまりの難しさにお手上げだった。音程がゆらゆらふわふわと、可愛くないレベルでふらついた。とても演奏会に持っていくことはできない。
1994年くらいからそっと使いはじめ、ある時、佐藤正治に呼ばれて参加した南青山のイベントに満を辞して持参した。
リハーサルで正治に渡されたメロディ譜をなぞるように演奏していた。すると正治が、「うーん、そこのメロディは、演奏なくていいです」という。そりゃそうだ。こんな不安定なのじゃ、せっかく書いたメロディが台無しだ。
「わかった。そこは黙ってる」
とは言ったものの、本番になってみると、どういう自信が生まれるのか、ひょっとしてうまくいくんじゃないか、という根拠ない力が湧いてきて、思いっきり弾いてしまったのだ。もちろん音程はひどいものだった。
「ごめんね、マサ。弾いちゃった」と謝ったものの、本番で演奏していかないといっこうに上手くならないという、思いもあった。
するとお客さんが、「その楽器なんですか? いいですね」と褒めてくれた。
正治は苦笑いをしていた。
はじめてレコーディングに使ったのは、クラフトワークのトリビュートで、「放射能」をカバーした時だった。間奏のところで、ぐああんと出てくる。この時は、まだスタンドにも立ててなくて、机の上に置いて演奏していた。
ヒカシューで使いはじめたのは、清水一登が加入してからだ。清水くんは、ピアノがメインなので、どこか不安定なテルミンで電子風味を加えたかったからだ。
テルミン生誕100年を記念して、新しくクララ・ロックモアモデルが発売になるという。なんて楽しみなんだろう。
2021.2.24
何かをするにあたって、
魂の中で音楽が必要になる。
もちろん勇気も必要です。
テルミンを演奏することは、
安全ネットなしの空中ブランコ乗りになったも同然。
着地が正しいか正しくないかに関わらず、
危険を冒して 飛び込むのです 。
クララ・ロックモア
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