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63.「トゥバで会おう」というメッセージ

 はじめてトゥバ共和国に行ったのは、もう20年以上前だ。その時は第2回ホーメイ・シンポジウムが開催されていて、多くの人と知り合いになった。民族音楽の研究者であるトラン・カン・ハイ、マーク・トンゲレン、バレンチナ・スズケイ、ゾーヤ・キルギスや、口琴演奏家のロベルト・ザグレチーノフそして本当にたくさんのホーメイ歌手たち。

  この時のエポックはアメリカツアーから帰ったコンガルオール・オンダールとサンフランシスコに住む盲目のブルースシンガーのポール・ペナの共演だった。後に『チンギス・ブルース』というドキュメンタリーになった二人のデュオは、みんなの注目の的でその演奏に魅了された。満面の笑みでホーメイを歌うコンガルオールとナショナルのレゾネーターギターを弾き、大地が揺れる低音のポール・ペナは、ブルースというよりクレオールで、カーボベルデを故郷に持つ家系である。カーボベルデはアフリカの北西沖に浮かぶ島国で、15世紀からポルトガル領だったこともあり、ここの歌はどことなくファドのようである。ホーメイ、ブルース、ファドのミックスされたような彼らのデュオはとてもチャーミングだった。

 そのコンサートが終わって、劇場前で、トゥバの名優マキシム・ムンズック氏に会った。黒沢明監督の映画『デルスウザーラ』の主役デルスの役を演じた有名人である。ぼくが日本人と知って、黒沢明監督に伝言を伝えて欲しいと言う。それは「ウォークマン送ってくれると言ったのにまだ着いてない」という内容だった。

 ぼくは翌年コンガルオール・オンダールとポール・ペナを日本に招待し、神戸、大阪、東京でコンサートを開いたし、ウォークマンの件は、黒沢監督のご子息の黒沢久雄さんに伝えた。「こちらでやっておきます」という返事だったが、ちゃんとしてくれたかどうかは不明である。

 そんなふうに毎回トゥバに行くたびに、驚くような出会いがある。

 今年(2019年)は、トロントで6年前に会ったバスクラリネット奏者のArrington De Dionysoからフェイスブック上で、突然「トゥバで会おう」というメッセージが飛び込んだ。2019年8月の中旬にトゥバ共和国クズルで行われる国際ホーメイフェスティバルの海外ゲストのコンサートのフライヤーに、ぼくとアーリントンの写真がどーんと載っていたようなのである。

 フライヤーを確認すると確かに載っていた。アーリントンは、バスクラリネット奏者というより、マルチな才能の持ち主でアメリカのポートランドのガレージバンドOld Time Relijunの首謀者でもあり、ユニークな彼のドローイングはアルバムジャケットのみならず、イヴ・サンローランに起用されるなどする天才系のアーティストである。

 どんなコンサートになるのか楽しみになってきた。


巻上公一


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