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強者どもの夢のあと/スカイビルとグラングリーン


急遽スカイビル巡礼

先日、大阪での打ち合わせ帰りに新しくオープンした都市型緑地、グラングリーンを訪れてみようとうめきたまで足を伸ばしました。

昨今、もはや何をやっても炎上しか起こらない都市開発界隈の中で、グラングリーンは珍しいことによくやった的な称賛の声も多く、まずは自分の目でみてみようと思ったわけです。

うめきたといえば学生時代から私の知る限りずっっっっと工事中で、梅田スカイビルだけが孤高の佇まいで起立としているイメージでしたが、今回の整備の一環でスカイビルの周辺も整備されて孤立しなくなったという話も聞いたので、30年かけてやっと都市に包摂されたスカイビルもついでに巡礼することにしました。

足元のオブジェ

聞けば同行のスタッフ2人はまだ梅田スカイビルに上ったことがないという建築学生にあるまじき事態。じゃここはまずは上っとかないと、ということで観光客に混じって長蛇の列に並ぶことにしました。

スカイビルはトッキトキのツインタワーの上に軽やかなリングがパチっと収まり繊細かつダイナミック、外から見るとめちゃくちゃカッコ良くてテンションMAXになるのですが、外観が繊細なだけに内部空間のスケール感が微妙に所帯じみてるというか、とくに展望台につながるエレベーターまでの動線空間は地方の公民館みたいで、そのせいかディテールのゴツさが目につき、外観でぶち上がったテンションが展望台に着くまでに徐々に下がっていく変化を楽しむのが正しい味わい方(笑)です。

並ぶことしばしの後、ガラス張りのエレベーターで35階に着き、リングの真ん中にかかる空中エスカレーターでリングの最下階に着床。ここまでは無料。貧乏な建築学生でもスカイビルのスペクタクルがタダで味わえるようになっています。良心的です。

初の空中庭園登頂

さて、ここから上の展望台へ行くには1人2000円。
たっかっ!
建築行脚というのは夜景デートではないわけです。しかも空中エレベーターはクリアしてる。そこへ来て、何なら夜景デートでも日和るレベルの課金…(以前はもっと安かった気はしますが。)
よく考えてみたら今まで何回も来ていたにも関わらず、この課金の壁のせいで私自身上の空中庭園には行ったことがありませんでした。
空中エスカレーターで上がった時点でコンプリートした気分になって、うちら建築見に来たんだし課金してまで景色見なくてもね、とここで引き返してきたのです。
が、今日は引率…2000円の壁で引き返したと思われるわけにはいかない…というわけで初めて展望台(空中庭園)に上がりました。

空中庭園は最上階と屋上の二層になっています。リングは外周もリングの内側もガラス張りですが、外からみれば繊細でも構造は相応にゴツいので、ぶっとい筋交の合間から街を見下ろす感じ。カフェがあったりアニメとコラボしてたり一応コンテンツもあり、ちょうど夜景の時間で平日でしたが人はたくさんいました。

リング見下ろし


大阪の夜景を見ながらリングに沿って歩いていると「Architecture」と書かれた小部屋がありました。
建築学生の心を掴んできた原さんの超絶カコイイ巨匠ドローイングやコンペ時の模型が展示されています。
同時に計画〜建設プロセスの動画が再生されていました。
梅田スカイビルはギリギリ昭和の1987年にコンペで原さんが最優秀となったのですが、そのコンペのプレゼンの様子が。おーロジャース先生、丹下先生も。
みんなタバコふかしながらの審査の様子も。設計会議もタバコぷかぷか。昭和ですな。。

ところで、スカイビルのあのツインタワーが空中リングでつながる状態ってどうやって建設されたかご存知ですか?
恥ずかしながら私は知りませんでした。
原さんの有名なドローイング、バブル期を象徴する指折りの国際コンペだったことなどは知っていましたが、私が建築学生になったときにはすでに完成して久しくメディアテークのようにリアルタイムではなかったし、実現した建築が十分インパクトありすぎて、建設プロセスまで言及されることは少なかったような気がします。

ツインタワーを建てた後、リングはある程度ユニットに分けてクレーンで吊り込んだのだろうな、そんな感じに思っていました。

でも考えてみれば不思議ですよね。
ユニット持ち送りだとしたらあの薄さは驚異です。あんな薄くて剛性の高いものを地上150m超の上空で現場組み立て出来るんだろうか。

で、プロセスの動画をみて驚嘆しました。

驚愕の建設プロセス

あのリングはツインタワーの上までいわば自走したのです。
地上で全部組み上げ、ほぼ完成状態のモノコックな構造体をツインタワーに挟まれたエレベーターみたいに4点ワイヤー支持で37階まで引き上げる…その建設方法もコンペ時の大きな提案でした。
いやもう驚愕。

なんならその新機軸の自走上昇システムをつくるだけでビル一棟分を超えるレベルのお金とマンパワーがかかってるはずです(実際コンペ案はタワー3棟+別棟1棟、規模は実現案の倍くらいだったのでは)。現代の大仏建立かと。

施工は竹中工務店。既存の施工方法の組み合わせで、あの薄いリングは無理でも一応ドーナツ状に穴が空いた似たようなものはできなくはないと思うのです。でもあえて、提案時の薄く軽やかなリングに、新機軸の自走方式にこだわった。莫大なマンパワーとお金をかけ、誰もやったことない、とんでもないリスクを取って。
所帯じみてるとか言ってホントにすみませんでした…。

動画では「梅田スカイビル」と書かれたリングがツインタワーの間を丸一日かけてゆっくり上がっていく様子が見れます。みんなで見たデッカい夢がタワーの間をゆっくり上っていく様子は圧巻でした。ほぼ特撮映画の世界だこれは…。

梅田スカイビル

いや、凄い。
これを考えた設計者凄いし、
やらせた施主も凄いし、
何よりリスクを承知で本当にやった施工者が凄い。
社会がまだ夢を見られたバブル期の日本半端ない。こんなの建築人生をかけた一世一代の大勝負だよ。すげぇな、かっこいいよ…これが私の憧れた建築人だな。
いまならどうだろう。上がつながってて穴が空いてればニアリーですよねって、コスパ的にこっちで、ってすぐなるだろうな。こんなリスクを取れる肝っ玉、今の日本社会にあるだろうか。

屋上から見た大阪の夜景

展望台にはさらに上があり、40階の屋上に出ることができます。360度、吹きさらしの夜景を見ながら建設時のドラマを思って胸がいっぱいで、感無量でした。

いやー2000円払って展望台に上って良かった。スタッフ2人が学生時代に行ってなくてよかった笑。彼らが行ってたらきっと登らずじまいだったし、連れてってくれてありがとう。
景色以上の収穫がありました。
スカイビル、ぜひ上に登って動画まで見ることをお勧めします。


グラングリーンとスカイビル

夜のうめきたとグラングリーン

その後地上に戻り、すっかり夜になったグラングリーンに。当初はこっちがメインのつもりだったのですが、梅田スカイビルに完全にやられて、腑抜け状態で一周しました。
大都市のど真ん中の一等地を緑地にしたのは確かに素晴らしいことで、ふわっと屋根だけかけて環境負荷もコストも軽くてリスクフリーで正しい。パーク内の緑地と商業のバランスも洗練されてるし、何より曲面だけでつくってあるのが上手い。第一線の頭脳集めて寄ってたかって最上階を自走させる梅田スカイビルのバカ騒ぎと比べたら、圧倒的に賢い。

でもなんていうのかな、良いとか悪いとかじゃなくて、これは誰かに夢を見せるのかな。これで誰か夢を見た人はいるんだろうか。
建築って正しいだけでいいのかな。
万博といい某美術館といい、とかく建築が炎上する昨今ですが、だからといってなるべく社会と摩擦を起こさないように優等生やって喉越し良い建築作ったところで…その先に何が残るんだろう。

都市のど真ん中の緑地。これ自体はすごいことだ。

梅田スカイビルの大仕掛けは30年超の時を経てなお、少なくとも私の胸を打ったし、いつか私もこういう大きな夢をみんなで見れるような建築をつくりたい、明日からまた頑張ろうって思えた。
建築ってそういうものじゃないのかな。
スカイビルの足元にはまだ及ばないけど、私も優等生とか言われないように細心の注意を払い、スケールのデカいバカをキッチリ全うするんだ。

上げ裏の演出もバッチリ

軽い気持ちで見に行って、図らずも大きな勇気をもらった、心に残るうめきた見学でした。

吉村真基
吉村真基建築計画事務所 MYAO Ltd.






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