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プシュ! 至福のひととき……そして猫

「プシュ!」
この音が大好きだ。缶ビールのプルタブを開ける音である。
ほんとうにいい音だと思う。これを聞いただけで、すでにウマい。
炭酸が入ったビールという飲み物を発明した人に、時空を越えて感謝したいと思う瞬間だ。

そんなに酒飲みという訳ではないが、人並みに酒は好きだ。
気のおけない仲間と居酒屋で飲むハイボールも、しゃれたバーでしっとりと飲むウイスキーも、休日のテラス席で青空を見上げて飲むワインも、すべからく美味しいと思う。

でも、いちばん美味しいと思うのは……
仕事がとびきり忙しかったり、職場で嫌なことがあったりした日の夜、へこんだ気分で駅を降りて、駅前のコンビニで500mlのロング缶を買い、家に帰って、一人で飲むビールだ。

暖房の効いた、居心地のいいリビング。
いつも座っている、テーブルの自分の席。
いそいそとビール用の小さめのコップと箸を出し、小皿に、コンビニでビールと一緒に買ったきんぴらごぼうか卯の花を盛る。
録画しておいた、お笑いのテレビ番組を再生。
準備万端、整ったところで、例の「プシュ」だ。
もうたまらん。
脳内に快感物質が溢れ出し、全身にイバラのように幾重にも絡み付いていた疲労感やイライラが、すーっとほどけていく。
ずっしりしたロング缶を手にとって傾けると、透明な黄金色に輝く液体が、真っ白で柔らかな泡をまとって、コップを満たしていく。
泡が落ち着くのを待って、グッと一息に。
………………くはーっ!

とん、とグラスを置く。
さっそく心と身体の強ばりが取れて、ふにゃふにゃしてきたのが分かる。
にへら。
笑っちゃうな、こりゃ。
……その辺りで、ふと視線を感じるのだ。
足下に目を落とすと、目が合ったのは、グリーンのつぶらな瞳でこちらを見上げる、我が家の猫。
「来るか?」
膝をポンポンと叩くと、遠慮がちにピョンと飛び乗ってきて、丸まり、そして目を閉じる。
僕はそれを確認すると、つまみを一口食べ、二杯目のビールを煽り、太ももに猫の温かな体温を感じながら、その小さな頭を撫でる。

これが、幸せってことだ。


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