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「あのバカは荒野をめざす」がやけに沁みる
藤子・F・不二雄先生の「あのバカは荒野をめざす」
今までは、ホームレスに落ちぶれた御曹司が若い頃の選択を後悔している話、と思っていたが、この間読み返したところ、やけに沁みる。
ここだ。
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あれ、頼子がものわかりがいい、しおらしい、ちゃんといい人。
それまで預言者のように振る舞っていた53歳の御曹司。
頼子と歩む選択を、繰り返し繰り返し後悔してきた彼も、
今まで知らなかったであろうこの時の頼子のまごころ。
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愛も情熱も、苦い記憶に変わっている彼だが、忘れていることもある。
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熱い。この情熱と愛で突き進もうとする世界は
ワクワクドキドキ、楽しかったと思う。
たとえ彼と頼子が同じ破局を迎えるとしても。
いまは全てを失い、後悔の日々を生きているとしても。
26歳の彼の選択があながち間違っているわけじゃなく、
53歳の彼が考える過去の選択が正しいわけじゃない。
「あのバカは荒野をめざす」は、単なる後悔の物語ではない。
人生の機微や愛の多様性、そして前進し続けることの大切さを教えてくれる、
深遠な人生讃歌。
そして彼は再び荒野をめざす。
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