【映画紹介】個人的に衝撃をうけた映画作品を図にしてみた
本記事では、筆者が衝撃をうけた映画のラインナップを図内にて公開。その後、各作品のあらすじを余談とともに文章にて紹介しています。
以下より本題。
映画には衝撃の展開を含む作品が多くある。
映画のフライヤーや予告でも、そのような展開を含む作品に関しては、「衝撃のラスト」や「誰にも予測できない」「〇〇%騙される」といった謳い文句を掲げているものが多くみられ、定番化されている。
観る者の価値観や認識を揺さぶる、いわゆるどんでん返しものだ。
自分の場合、情報を入れてしまうと強い先入観をもってしまうため、上記のような謳い文句には興を削がれやすい。それでも、観るのなら衝撃のある作品をと思うことも少なくない。
今回は、筆者が個人的に衝撃をうけた46作品を一つの図にまとめてみた。
なかには衝撃のラストを飾るもの、鮮やかなどんでん返しが楽しめるものも含まれるが、単純に驚いた展開を含む作品も多くラインナップしている。
自己弁護として、
完全なる独断によるラインナップであることをご了承ください。
図には1~5までの数字がふられており、数字が大きいほどに衝撃の度合いが強くなっています(※あくまで、個人の感想です)。
そして衝撃の大きさに限らずどれもが楽しめる映画作品なので、心構えはそこそこに、ぜひリラックスしてお楽しみください。
1=軽く驚ける作品
2=感嘆をもらしたくなる作品
3=一瞬考えてじわじわくる驚きに唸る作品
4=パンチの効いた衝撃を受ける作品
5=衝撃に感情の在り処が分からなくなる作品
上から、公開日の古い順に並んでいます。
以下から、各作品のあらすじ+余談をまとめてあるため、気になる作品があった方はチェックしてみてください。
1=軽く驚ける作品
『ロジャー・ラビット』(1998年公開・洋画)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を撮ったロバート・ゼメキスが監督をする実写作品。アニメキャラクター(トゥーン)と人間が共存するハリウッドの設定で、実写にCGアニメーションを融合した画期的な作品。
トゥーンが関与していると疑われる殺人事件に、曲者探偵と映像作品のスターであるロジャー・ラビットが挑む、ブラックユーモアなテイストの作品。
『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年公開・邦画)
日本の小説家、伊坂幸太郎氏の同名小説『アヒルと鴨のコインロッカー』を原作とした映像作品。主人公の椎名(濱田岳)が越してきたアパートの隣人、河崎(瑛太)は椎名に本屋で広辞苑を盗む計画を持ち掛ける。意図のつかめない本屋襲撃は、2年前に起きたある事件と強く結びついていた。
広辞苑を盗むという一見して突拍子もない導入の面白さと、現在と過去が錯綜することで生じる謎が見事な、ヒューマンミステリーとなっている。
『パレード』(2010年公開・邦画)
日本の小説家、吉田修一氏の同名小説『パレード』を原作とした映像作品。都内にある2LDKのマンションでルームシェアをする男女五人に焦点をあてた群像劇。一見して大きな事件もなく進行していく物語でも、個々人が抱える小さな事件を発端にルームシェアという限られた世界での関係に大きな波紋をあたえていく、闇を含んだ作品となっている。映画を観た後で原作小説を読むと、五人の裏をさらに垣間見れて、映画・小説ともに違った衝撃をうける作品。
『マローンボーン家の掟』(2017年公開・洋画)
凶悪犯罪者である父から逃れるために、マローンボーン屋敷へと居住を移した母と4人の兄妹。母の死後も、母が遺した強い言いつけを守りながら、マローンボーン屋敷でひっそりと暮らす兄妹であったが、ある日事件が発生。屋敷に現れた幽霊の存在が生活を脅かすことに。平穏な生活を維持するために5つの掟を課して暮らす4人だったが、日常は崩壊へと進んでいた。セルヒオ・G・サンチェス監督のオリジナル脚本による、スリラー作品。
『帝一の國』(2017年公開・邦画)
原作は古屋 兎丸氏による同名漫画『帝一の國』。
超名門校である海帝高校。その生徒会長を務めた者は将来、内閣入りが確約されている。総理大臣を目指す赤場帝一が狙うのは生徒会長の席ただ一つであったが、それは個性的なライバルたちを相手にした、靴まで舐める所存で挑むべき熾烈な闘争への幕開けでもあった。
こんなやつが将来の総理であってたまるか!と思えるほどに強烈な個性をもったキャラクターが醜さ上等でぶつかり合うコメディ作品となっている。
頭を空にし、笑って観られる作品ではあるが、締めくくりは鮮やかで、ニヒルな笑いを味わいたい方におススメしたい。
『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』(2019年公開・洋画)
タイトルの意味が分かる方、正解です。それです。そして映画内容もタイトルを上回る下劣さ。苦手な方にはおススメできない、そんな作品。
監督はダニエルシャイナート。ハリー・ポッターでハリーを演じたダニエル・ラドクリフが屁のジェット噴射や淡水を口から吐くといった万能な機能を誇る死体役として市中引き回しに遭う怪作『スイスアーミーマン』を撮った気鋭です。『ガンズ・アキンボ』といい、ダニエル・ラドクリフは体を行き過ぎなほど張った役者になったなあと遠い目をしてしまう。ほめてます。
『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』は、売れないバンド仲間3人がバンド練習と称してバカ騒ぎをしていたある日、そのうちの1人、ディックがとある事情により死んでしまう。どうしても死因を明かしたくない残り2人が隠ぺい工作を行うが、どれも事態を悪化させるだけでうまくいかない。ディックが死んだ当日、2人が一緒にいることを知っていた人物は当然、疑いを抱きはじめ、死の原因を追究していくという作品。
下劣でも観てみたいという覚悟をお持ちの方はぜひ。
『フロッグ』(2019年公開・洋画)
少年誘拐事件が相次ぐ田舎町。事件を担当する刑事の自宅では不可解な現象も発生しており、解決を見せない事件と自宅での怪奇現象に頭を悩ませる日々。そしてある時、殺人という次なる問題が発生してしまう。
サスペンスとホラーを見事に融和した作品。どこでどう繋がっていくのかを読ませないストーリー展開は一見の価値ありです。
2=感嘆をもらしたくなる作品(前編:エクス・マキナまで)
『スクリーム』(1996年公開・洋画)
監督は初期の『エルム街の悪夢』を撮影したウェス・クレイヴン。
カルフォルニア州の架空の町を舞台にゴーストフェイスを被った謎の殺人鬼が起こす惨殺事件に迫る作品。本作の面白いところは、ストーリーはもちろん、ホラー作品の定番を踏襲した内容になっていることだろう。そのため、先の展開は比較的読みやすくもあるが、いくつかのホラー作品を観てきた人にとっては、「あるある」を想像しながら楽しめる映画にもなっている。
『バタフライ・エフェクト』(2004年公開・洋画)
タイトルのバタフライ・エフェクトは、蝶の羽ばたきが自然現象に影響を与えるか?というバタフライ効果を示している。日本の場合、風が吹けば桶屋が儲かるという言葉が、バタフライ効果と同じテーマを内包している。
本作の主人公エヴァンは短時間の記憶を保持することができない症状を抱えている。医師のすすめにより日記をつけはじめたエヴァンはある時、日記を読み返すことでその過去まで戻り、改変できる能力が備わっていることに気が付く。過去を良いものにするため行動するエヴァン。しかし、書き換えられた過去は、エヴァンの大切な人にとっての不幸な未来へとつながっていた。
過去を変える。そんな願望が叶った世界で起こる悲劇を描いた傑作です。
『ドリームハウス』(2011年公開・洋画)
007でジェームズ・ボンドとして活躍し、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』でボンド役のラストを飾った人気俳優ダニエル・クレイグが、家族を守る優しい父親として主演を務める本作。
家族との時間を大切にするため出版社をやめ、郊外に購入した家で小説を書いて生活を送ることにしたウィル。しかし引っ越してきて早々、不可解な現象が相次ぐように。実はウィルが購入したその家ではかつて、一家惨殺事件が起きており、犯人もまだ捕まっていないという。家族を巻きこまないために調査を進めるウィル。だが、危険はすぐそばまで迫りつつあった。
高校生の当時、映画館で観て号泣した作品。ポスターがとてもよく、同じ画像を使ったムビチケは今も大事に保管している。
『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』(2014年公開・洋画)
いつだってやめられるシリーズ三部作の一作目。
大学での仕事をクビになった神経生物学者ピエトロ。同棲中の恋人もいて生活も苦しいなか、現状を打開する方法を見つける。それは、ドラッグの製造。材料は安価。でも高値で売れる。経済不況で大学をクビになったほかの研究者らを仲間に、知識を活かして新たなドラッグを製造。その品質の良さが話題を呼び、瞬く間に大金持ちに。だがその裏では、ドラッグ市場を牛耳る男に目を付けられ、警察にも追われる事態になっていた。
知識は豊富にあるけれど人としてはヌケている、そんな社会の外れ者となった学者たちがギャングに転身して一発逆転を目指していくストーリーは、王道ではありながらも、一筋縄ではいかないクセの強さを発揮している。
学者だからこその知識が先行する口論は、わけがわからないのに面白い。
ひたすら笑って衝撃もある軽快な一作です。
『エクス・マキナ』(2015年公開・洋画)
監督はアレックス・ガーランド。人間を凶暴化させるウイルスが蔓延したロンドンを舞台にしたサバイバルホラー『28日後…』の脚本を手掛けている。
主演はドーナル・グリーソン。『ハリー・ポッター』にてウィーズリー家の長男、ビル・ウィーズリーを。『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』で主人公のティムを演じている。
大手インターネット会社のプログラマー、ケイレブは、社長の別荘に一週間滞在できるチャンスを得る。そこで待っていたのは、AIを搭載した女性型ロボットのエヴァ。ケイレブが別荘に招かれたのは、エヴァに対する人工知能テストを行うためだった。人間らしく対話をするエヴァ。この実験がやがて、人間とAIの境目を曖昧にしていく恐怖をはらみはじめる。
相手がロボットであると分かっていながらも、次第に人間としてのエヴァを意識しはじめ、エヴァの言葉に飲みこまれていく様がとても怖い一作。
優れていくAIの底知れなさに警鐘を鳴らすような作品でした。
2=感嘆をもらしたくなる作品(後編:ヒメアノ~ルから)
『ヒメアノ~ル』(2016年公開・邦画)
原作は古谷実氏による同名漫画『ヒメアノ~ル』。
本来なら前情報一切なしで観てほしい作品。それでもあらすじだけは気になるという方だけ、以下をお読みください。
監督は『さんかく』や『犬猿』を撮った吉田恵輔。脚本を自ら手掛ける熱量のある監督だ。本作は主演にしてサイコキラーの森田正一役をV6の森田剛さんが演じ、難しい役どころを圧倒的なサイコ感でもって好演している。
ビル清掃会社で働く岡田は同僚から、美人カフェ店員ユカとの恋を結ぶためのキューピッドになるように頼まれる。岡田が同僚とともにカフェを訪れるとそこには、高校時代のクラスメイト森田の姿があった。声をかけた森田から放たれる異様な空気感。旧友との出会い。それは、不穏な日常へと岡田を巻きこみはじめるきっかけに過ぎなかった。
ラブコメから一転する身も震えるような恐怖。一度観たら、ジャンルがスイッチしていくその瞬間が頭から離れなくなるほど。一切の容赦なく描かれるスリラー作品を堪能したい方はぜひ。
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年公開・邦画)
原作は沼田まほかる氏による同名小説『彼女がその名を知らない鳥たち』。イヤな読後感が残るミステリを得意としており、イヤミスの女王としても知られている。映像化されたほかの作品では、主演を吉高由里子さんが演じる『ユリゴコロ』がある。
監督は現在の日本映画をけん引していると言っても過言ではない白石和彌。山田孝之さんが主演をつとめる『凶悪』で日本アカデミー賞など多くの賞を受賞し注目を集める。
かつての恋人が忘れられないでいる十和子(蒼井優)はうだつの上がらない男、陣治(阿部サダヲ)と同棲し、陣治の稼いだなけなしの金を受け取りながら日々を過ごしている。もう一度逢いたいと望む過去の男を夢想しながら、日々の欲求を別の男との情事で解消する生活。だがある日かかってきた一本の電話が、十和子の日常を狂わせていく。共感できない登場人物が織りなす、まぎれもない愛の物語。
関わり合いになりたくないと思えるほどの登場人物ばかりなのに、胸がぐっと締め付けられるような感情が沸き上がる傑作です。
『ハッピー・デス・デイ』(2017年公開・洋画)
監督は2020年公開の『ザ・スイッチ』を撮ったクリストファー・B・ランドン。殺人鬼が被るベイビーフェイスのお面を制作したのは、『スクリーム』のゴーストフェイスを手掛けたトニー・ガードナーであり、力の入りようがうかがえる本作。
主人公のツリー(愛称)は傲慢な性格で他方からの恨みを買いながらも奔放に生きる女子大生。誕生日である9月18日のその日も、通常運行。その日の夜、トンネル内に置かれた怪しげなオルゴールを発見。訝しみながらも、オルゴールが放つ怪しげな気配に気を引かれてしまう。そこに姿を現したベイビーフェイスを被る謎の殺人鬼。激しい攻防の果てツリーは死んでしまった。かに思われたが、ツリーは目を覚ました。しかしなにかがおかしい。ツリーが目覚めたのは、終わったはずの誕生日。死んでは目覚める地獄のタイムループのはじまりだった。
死に戻りを繰り返すループのホラーに、ツリーの奔放な性格が生むコメディ、そして傲慢さという難があるからこその成長も見られる人間ドラマまで含んだ盛りだくさんなスリラー映画となっている。
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年公開・洋画)
本作はアメリカ合衆国の小説家、ダン・ブラウンによる人気小説ロバート・ラングドンシリーズの第四作目『インフェルノ』を出版する際に行われた、翻訳家の地下隔離をベースにしたサスペンス。流出を恐れて行われた異例の翻訳作業。実際には事件が起こらなかったが、作品内では出版元が最も恐れていた原稿流出事件が発生。冒頭の10ページがネットで公開をされたのだ。出版社社長のもとには金銭要求の脅迫メール。要求をのまなければ原稿のさらなる流出は免れない。徹底した流出防止措置を行っていたのになぜ。犯人は集まった9人のなかに存在するのか。囚われたベストセラーをめぐる、サスペンススリラー。
『テネット』(2020年公開・洋画)
監督は数多くの名作を世に送り出しているクリストファー・ノーラン。徹底的にリアルを追求した撮影が映像に迫力をもたせており、クリストファー・ノーラン監督作品の魅力でもある。本作のテネットでは倉庫に飛行機が突っ込んでいくシーンがあるが、飛行機は撮影のために監督が購入し、実際に倉庫へと激突させている。極限までCGを避けた演出により、ほかシーンにおいてもCGでは出し切れない派手な映像を楽しむことができる。そんな他に類を見ない演出が持ち味の監督作品だが、一つ評価を大きく分けている要因がある。それは、ストーリーの難解さだ。特にテネットは、監督作品のなかでもダントツに難解なストーリーをしている。
武装した集団に占領されたオペラ劇場。CIAエージェントの名もなき男はテロ鎮圧の作戦に参加していた。そこで名もなき男はテロに裏があり、すべてが仕組まれていることを感じ取る。テロリストに囚われた名もなき男は機密情報を聞き出そうとするテロリストの拷問を耐えの忍び、命を尽くして情報を守り抜く選択をする。しかし自決したはずの命は果てておらず、船の中で目を覚ました名もなき男。すべては男の信用性を確かめるテストで、本当の仕事はここからだった。船で出会った男から聞かされたミッション。それは、未来からくる敵と戦い第三次世界大戦の勃発を防ぐこと。「テネット」という謎のキーワードを頼りにミッションを進行していく名もなき男。待ち受けるのは、時間の流れが逆行する遡行世界からやってきた未来の敵だった。
ストーリーを難解にしている大きな要因が、作品の肝ともなる逆行。ストーリーが展開していくにつれ、並行世界に遡行世界が交わってくるようになる。劇中でも逆行に関して説明は行われるが、なにぶん情報量が多いため、一見して全容を掴むのは困難だ。テネットで劇中人物を演じたキャストでさえ、監督からの説明をうけても理解は難しく、分からないことが多いままクランクアップしたともインタビューでは明かされている。
今はネットで検索をかければ多くの人が考察をあげているため、初見で理解しようと気を張って臨むより、映像の迫力と矢継ぎ早に展開されていく物語のライド感に身をあずけるのが良しだろう。
3=一瞬考えてじわじわくる驚きに唸る作品(前編:セッションまで)
『フォロウィング』(1998年公開・洋画)
テネットに引き続き、クリストファー・ノーラン監督作。デビュー作であり、監督から編集までできることは全てこなしている。作品は、1940年代から作られはじめた犯罪映画(フィルムノワール)の影響を強く受けており、全編がモノクロで撮影されている。
創作のヒントを得るため通りすがる人を尾行する癖がある、作家志望のビル。ある時に尾行していた男は空き巣を行う悪党で、そんな相手にビルは、尾行がバレることになる。それでも男についていくことを決めたビルは、男とともにある女の家に侵入。部屋に置かれた写真に写る女性に興味を抱いたビルは、密かにその女の尾行をはじめるが、その行為がビルを予期しない事件へと巻きこんでいく。
デビュー作からすでに監督のこだわりが全編に見られる徹底したつくりこみ。モノクロながらも画面に飽きることはなく、あらゆるヒントを残しながらも最後まで展開を読ませない仕上がりとなっている。
『千年女優』(2001年公開・アニメーション)
監督は『PERFECT BLUE』や『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』の名作を世に出した鬼才、今敏。2010年に46歳の若さで死去。作品はすべて国内外で高く評価されており、その表現スタイルは多くの著名人に影響を与えるほど。新作がみられないことが本当に悔やまれる最高のアニメーターである。
タイトルに冠した『千年女優』は監督作のなかでも筆者がとくに好きな作品。銀映撮影所70周年を祝して、映像制作会社の社長である立花源也は、かつて一世を風靡した大女優、藤原千代子のインタビューを作ることに。カメラマンを引き連れて取材に向かった立花は、かつて千代子が撮影現場に落としていった鍵を手渡す。その鍵は、千代子がまだ幼い頃にとある男(鍵の君)から受け取った品だった。鍵の君を追いかけるために女優となった千代子。女優として活躍をすることで鍵の君が自分を見つけてくれるかもしれないという淡い期待を胸に、数々の役柄へと転身していく千代子を追った円環の物語。
この映画の面白いところは、現在の千代子が語り回想する過去にインタビュアーが助け舟として出現し、まるで千代子の過去に自分も存在していたのではと思わされることだろう。役から役へ転身していく移り変わりは、地続きになった絵巻を眺めているようで場面転換も鮮やかに繰り広げられる。そのなかで迫っていく千代子の思い。それを追ったからこそ、ラストで呟く千代子の一言に、観ているこちら側の感情がすべてのみこまれそうになるのだ。一時間半と短めの映画でもあるため、ぜひ観ていただきたい。
『プレステージ』(2006年公開・洋画)
監督はクリストファー・ノーラン。弟のジョナサン・ノーランと共同で仕上げたサスペンス映画だ。タイトルのプレステージは手品の用語であり、確認(プレッジ)展開(ターン)偉業(プレステージ)でショーを完遂するにあたっての手順を示している。このことからも分かるように、本作は奇術がテーマとなっている。
19世紀イギリス。人気マジシャンの二人、アンジャーとボーデンには確執があった。確執の原因は、脱出トリックにおいて命を左右するタネ。それをボーデンがしくじり、アンジャーの助手であり妻のジュリアを死に招いたためだった。かつて同じ師のもとで修行を積み良きライバルであった二人は、その日を境に、互いの存在を憎み合うように。お互いがお互いの奇術で観客を魅了し舞台を盛り上げている裏では、因縁のぶつかり合いが絶えずある。そんなある日、アンジャーの奇術を暴くために偵察に向かったボーデンが舞台下で見つけたのは、壇上からの落下場所に設置された水槽。そこに落ち生き絶えていくアンジャーの姿だった。アンジャー殺害の濡れ衣を着せられて捕まったボーデン。一体、誰の仕業なのか。物語は過去へと遡り、因縁が導く、奇術の大舞台が幕を開ける。
『容疑者Xの献身』(2008年公開・邦画)
監督は、フジテレビ開局50周年記念作品として巨額の製作費を投じて撮影された映画『アマルフィ 女神の報酬』を撮影した西谷弘。当時大々的な宣伝がうたれており、記憶にある方もいるのではないだろうか。
『容疑者Xの献身』は日本の小説家、東野圭吾氏の同名小説『容疑者Xの献身』を原作としたミステリ作品であり、人気ドラマガリレオシリーズの映画版(小説ではシリーズの三作目にあたる)である。本作は小説からすでに賛否を起こした作品であり、作品に触れた人の考え方や価値観によって大きく評価が分かれる一本となっている。
人をあまり手放しでは評価しない天才物理学者の湯川学。その湯川でさえも天才と評価する数学者、石神。ある時、旧江戸川で一人の男の死体が発見された。遺体の身元は富樫という人物で花岡靖子という女性の元亭主であった。容疑者に挙がった花岡靖子とその娘だったが、事件発生時のアリバイは強固で捜査は進展を見せないでいた。行き詰まる事件を解決へと導くために頼られた湯川は、帝都大学での同期だった石神が花岡母子の住むアパートの隣人であると知り、関与を疑う。富樫が死んだその日になにがあったのか。湯川は調査を開始し、天才がしかけた事件の全容を理解する。
ミステリの本格性が論争に発展した本作であるが、トリックはとても見事なものであるといえる。問題は作品のタイトルにもある『献身』だろう。作品を観終わった時この献身にどのような思いを抱くか。それによってこの映画は、究極の愛にもなれば、共感を抱けない悲劇ともなるだろう。
『ミッション:8ミニッツ』(2011年公開・洋画)
監督は『月に囚われた男』でデビューを果たしたダンカン・ジョーンズ。本作は監督の二作品目となる。テーマは擬似タイムループ。思考実験でいうところの水槽脳のように、脳を媒体に記憶というデータのなかでリアリティのある光景に触れながら擬似的にタイムループを繰り返すという複雑な設定となっている。
スティーブンスが目を覚ますとそこは列車のなかだった。しかし見るもののほとんどに覚えがなく、自分がなぜそこにいるのかも一切不明。状況が分からないまま時間だけが過ぎていき、目を覚ましてから8分が経った瞬間、列車が大爆発を起こしスティーブンスを含む乗客全員が死亡する。目を覚ました先に映るモニター。そこから話しかけてくる女性がスティーブンスに語ったのは、列車爆発はすでに起きた事件であり、被害者の一人である男の記憶とスティーブンスの意識を同期して、事件が起きるまでの8分間を追体験させているということだった。理由は、列車を爆発させた事件の犯人を見つけるため。現実での犯人はすでに次の犯行を予告しており、予断を許さない状況だった。スティーブンスは状況がのみこめないまま、爆発が起きる8分前の列車に戻る。犯人への手掛かりを探しては爆発に巻き込まれ、再び8分前の列車にて目を覚ますスティーブンス。意識を囚われた男が擬似タイムループのなかでミッションを遂行するSFスリラー。
『セッション』(2014年公開・洋画)
デイミアン・チャゼル監督による長編映画。脚本が完成した当初、完成すれば成功間違いなしの出来栄えともされた本作だったが、資金繰りが叶わず長編製作が難しい状況にあった。そこで脚本の一部を短編映画として製作。サンダンス映画祭での絶賛をうけて資金を獲得。数多くの賞を総なめにした『セッション』が世に送り出されたのであった。
映画公開前のトレーラーからすでに名作の予感を漂わせ、話題を呼んでいた本作。軽快に響くジャズのメロディーからはじまる予告は、演奏の指導者であるテレンス・フレッチャー役のJ・K・シモンズ入室とともに空気感を変える。そして始まる、フレッチャーの指導。それは、体罰を厭わず罵詈雑言が飛ぶ、究極の精神状態へと連れこまれる狂気のレッスンだった。
予告の時点から確認できる激しい指導。指揮棒が顔横を飛び、頬には複数回の張り手。それを身をもってうけるのが、生徒であるアンドリュー・ニーマンを演じたマイルズ・テラーだ。
映画を観たことがない人でも、アンドリューが気迫のこもった表情でドラムをたたき、ドラムスティックを持つ指からふき出す血が記憶に残っている方もいるのではないだろうか。
フレッチャーの指導は『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹を凌駕するほどの過酷さ。それは観ているだけで、こちらの精神までそぎ落とされるほど。だからこそ、抑圧からの解放を思わせるラストは、映画を観てこその名シーンとなっている。冒頭から終わりまで、目を背けずに、集中してみていただきたい一作。
3=一瞬考えてじわじわくる驚きに唸る作品(後編:ゴーン・ガールから)
『ゴーン・ガール』(2014年公開・洋画)
監督はデヴィッド・フィンチャー。図のなかで5の位置にラインナップした作品の多くを撮った鬼才である。デビュー作は『エイリアン3』。エイリアンシリーズのなかでもなにかと話題になる、激しい酷評をうけた作品だ。監督自身、あの作品は自分の監督作ではないと黒歴史にしているほど。『エイリアン3』での失敗により、一度は映画撮影から離れたデヴィッド・フィンチャー監督であるが、二作目がヒットを飛ばして以降、数多くの名作を生んでいる。筆者自身も、一番好きな映画監督だ。
デヴィッド・フィンチャー監督作の特徴として挙げられるのは、色彩を抑えた暗い画面。そうでありながらも、観る者を釘付けにするスタイリッシュな演出。徹底した冷徹な目線で、深くから抉り出す人間心理。憂鬱を思わせるストーリー展開でも飽きさせないエンタメ性。そして切れ味のある締めくくりだろう。
本作の『ゴーン・ガール』は「スコット・ピーターソン事件」という実在の事件をモデルとした作品。ジェンダー観により賛否を起こした問題作でもある。田舎町に住む夫のニックと妻のエイミーは他者の目から見て「理想の夫婦」にうつる似合いの関係だった。作家であるエイミーの母が出版した本をきっかけに結婚を決めた二人は当初、確かに心から愛し合っていた。だがそれも、過去の話。今の関係は冷めきっており、間もなく結婚五周年目を迎えようというのに、ニックは記念日を面倒に思っていた。記念日の当日。ニックはエイミーが姿を消していることに気が付く。部屋には荒らされた形跡。事件性を感じたニックは警察に相談をする。事情聴取をうけるなかでニックは、この五年間、エイミーのことを何も知らずにいたことに気が付く。著名であったエイミーの失踪は瞬く間に報道の餌食に。ニックは連日、非難の対象となっていった。エイミーは一体、どこにいってしまったのか。不可解な謎はやがて、恐怖の様相を呈しはじめる。
『砂上の法廷』(2015年公開・洋画)
主演を務めたのは、キアヌ・リーヴス。当初、ダニエル・クレイグが起用される予定であったが、撮影の直前に降板。代役として採用された。
ラシター家の顧問弁護士を務めるラムゼイ。ある日、ラシター家で殺人事件が発生する。被害者は、ラムゼイと師弟関係にある大物弁護士のブーン。現場検証により凶器から発見された指紋。それはブーンの息子マイクのものであった。ラムゼイは親交の深いブーンのその息子が嫌疑にかけられているとあり、無実を証明しようと意気込む。しかし圧倒的に不利な状況にあるマイク自身が証言を拒否していることで事態は難航していた。
静謐な雰囲気のなかに走る緊張感が見事な法廷ミステリー。
『カメラを止めるな!』(2017年公開・邦画)
監督は上田慎一郎。現在も活躍中で、独創的な発想力を活かした作風が持ち味の監督だ。『カメラを止めるな!』はご存知の方も多いとは思うが、当初、東京都内の劇場2館から上映をスタートしたインディーズ映画。口コミが話題を呼び観賞を希望する声が多くあがったことで全国での上映が決まった稀有な作品だ。本作のすごいところは、ほかに類をみない内容の独創性はもちろんのこと、約300万という低予算で撮られたことだろう。それ故に、作品のキーポイントともいえるゾンビ映画はB級どころかZ級のチープさではあるが、そこに捻りを加えたことで、国内外を席巻するほどの完璧な仕上がりになっている。また、作品に起用されたキャストも当時無名の新人が多く、技巧と熱量を持ち合わせた役者が発掘されたことでも評価をあげている。本作は内容の特性上、あらすじを書くことすらネタバレにつながる。金曜ロードショーでも放送されたことで観賞した方は多くいると思うが、ぜひ、コマーシャルなしで観ていただきたい一作。
『Search/サーチ』(2018年公開・洋画)
近年、全編ワンカットや全編スマホ撮影など撮影の技巧で話題を呼んでいる映画作品も少なくない。本作も映像作品ならではの演出方法で話題を呼んだ作品で、全編がパソコンの画面上で展開されていく。そのため、パソコンにて視聴をすることでより面白さが引き立つ一作ともなっている。
パソコン画面上でホームビデオを再生している、一家の父デビッド。画面にうつる妻はすでに他界しており、今は一人娘のマーゴットと暮らしている。ある日、マーゴットは友人との勉強会に参加するといい家を出たまま帰宅せず。妻の死後、関係性をうまく保てていなかった二人のため、デビットはいつものことだと不審には感じていなかった。しかし翌朝、マーゴットから複数回の着信があったことに気が付く。折り返すもつながらず、メールの返信もない。マーゴットが通っているはずのピアノ教室はデビットも知らないうちに辞めており、所在がつかめなくなってしまう。警察に相談する傍ら、デビット自身も独自に調査を開始。マーゴット失踪の真相は、SNSでのつながりのなかにあることを突き止める。
『ゴーストランドの惨劇』(2018年公開・洋画)
監督はパスカル・ロジェ。観るものの精神さえも狂わせるド畜生なスプラッター映画『マーターズ』を撮った、ゴア描写に定評のある監督。
本作の『ゴーストランドの惨劇』も、真っ当な精神ではつくれないだろうと思うほどの鬼畜仕様。拷問や折檻に悦楽を抱くサディストな精神が濃密に詰め込まれた、マインドクラッシャーな一作となっている。
母親とともに、以前叔母が住んでいたとされる郊外の古い屋敷へと引っ越した双子の姉妹。新たな生活がはじまるはずだった、引っ越しの当夜。巨漢の男と女装した男の二名が屋敷に押し入り、一家を襲う。地下に閉じこめられそうになった双子だったが、母親が刃物で立ち向かい男二名を殺害。窮地を逃れる。それから数年の歳月が経ち、双子の一人ベスは人気ホラー作家に転身していた。かつてからの夢であったホラー作家として順風満帆な人生を送るベス。ある時、自宅にかかってきた一本の電話。それは悪夢が再来するきっかけでもあった。
4=パンチの効いた衝撃を受ける作品(前編:鑑定士と顔のない依頼人まで)
『シックス・センス』(1999年公開・洋画)
監督はM・ナイト・シャラマン。2021年の現時点では、最新作『オールド』を公開したばかりの監督。特殊な環境下にある設定を活かした作風が持ち味で、『オールド』においても、一日で一生分の急速な老化現象が発生するビーチに閉じこめられた三組の家族の人間模様とその末路が描かれている。
『シックス・センス』は当時、この映画には秘密があります。観ていない人には決して話さないでください、という前置きがなされたことで話題を呼んだ、どんでん返しの王道となっている。
死者が見えるという第六感をもつ少年と少年をサポートする小児精神科医が第六感により誘われる未知の世界に触れながら、交流を深めていく話。
ストーリー自体もよく練られており素晴らしい出来だが、個人的に一番好きだったのは少女の幽霊が関わるシーン。これだけでも一本の短編映画が製作できそうなできばえとなっている。
『メメント』(2000年公開・洋画)
監督はクリストファー・ノーラン。弟のジョナサン・ノーランが書いた短編『Memento Mori』を原作とした長編映画。自分がいつか死ぬことを忘れるな、というラテン語の警句であるメメント・モリ。そしてモリが排除された今作『メメント』は「思い出せ」という意味になっている。
主人公のレナードは、かつて目の前で妻を殺害されたショックから、数分間で記憶がリセットされてしまう記憶障害を抱えるように。失われる記憶のなかでも犯人を追いかけられるように、レナードは事件につながるヒントを、タトゥーとして体に刻みこんでいた。妻を殺害した犯人を見つけ、復讐を果たせ。記憶にない自分が残したメッセージに突き動かされるように、レナードは少しずつ事件の真相へと迫っていくが…。
この物語は、モノクロとカラー、二つのシークエンスが入り混じる複雑な構成となっている。現在の時間軸から逆に進んでいくカラーシークエンス。過去の時間軸から順に進んでいくモノクロのシークエンス。これにより、記憶を失くした男と同じ立場にたって事件を追いながらも、男がどのようにして現在の境遇に至ったのかが分かるようになっている。
『ミスト』(2007年・洋画)
原作はホラー小説界のキングとも称される、スティーヴン・キングの中編小説『The Mist(邦題:霧)』。監督は、そんなスティーヴン・キングの小説を原作とする『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』を撮影したフランク・ダラボン。ヒューマンドラマがメインとなる前二作と違い、ミストはSFホラー作品となっている。
謎の深い霧に包まれはじめていたとある町。スーパーマーケットに来ていた主人公家族は、奥も見通せないほどの霧の影響で帰ることができないでいた。それはほかの客たちもおなじで、不安だけが募っていく。そんな折、外で鳴り響く救急車やパトカーのサイレン音。一体、外でなにが起きているのか。全員が不安を抱える中、鼻血を流した男が一人、スーパーへと飛びこんでくる。霧の中になにかいる。男が叫んだことで、一気に高まる緊張感。そこに一人の狂信者がハルマゲドンの到来を予見したことで、スーパーマーケット内の人々は疑心暗鬼へと陥っていく。霧は誰かが仕組んだことではないのか。店から出ることができるのか。全員が協力しなければならない状況下で、事態はすでに最悪な方向へと進みはじめていた。
ラストが賛否両論を巻き起こした、ワンシチュエーションホラー。原作者であるスティーヴン・キングは、終わり方を絶賛しており、自身の小説に使いたかったというほど。霧がたちこめる町のなか。一体どのような結末を迎えたのか。ぜひ確認してみてください。
『シャッター・アイランド』(2009年公開・洋画)
監督は映画界の巨匠の一人、マーティン・スコセッシ。デニス・ルヘインによる同名小説『Shutter Island』を原作とするミステリー映画。公開当時、映画の結末が分かったら豪華景品が当たるかもしれない「ミステリーキャンペーン」や二回視聴することでプレゼントが当たるかもしれない「二度見キャンペーン」を行っていたことでも有名。初見で見破ることはなかなか難しいこの作品。タイトルの「Shutter Island」がまず、「Truths and Lies」というアナグラムからできていることからしても、質の高さがうかがえるところ。
連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)は相棒のチャック(マーク・ラファロ)とともに、絶海の孤島に建つ精神病院を訪れる。患者を万全な体制で収容しているはずのその精神病院から、レイチェル・ソランドという女性が「4の法則」「67番目は誰?」という謎のメッセージを残して、霧のように姿を消したと言うのだ。収容された患者やそこで働く職員に取り調べを行っていくテディ。抜け出すことが難しい孤島の精神病院での行方不明からはじまった事件はやがて、精神病院に渦巻く大きな陰謀にも深く絡みはじめていた。
キャンペーンは終了しているが、まだ視聴したことがない、観たけれど忘れてしまったという方は紙とペンを手に、このミステリーに挑戦してみてはいかがだろうか。
ただ、この映画において一番の要となるのは、ミステリーではないと思っている。すべてが明かされたあと。誰もが考えつかない本当のラストにある。そこで語られる一言は、この映画を完成させる最高のセリフだと個人的には感じる。
『鑑定士と顔のない依頼人』(2013年公開・洋画)
監督は、不朽の名作『ニュー・シネマ・パラダイス』を撮ったジュゼッペ・トルナトーレ。主演を務めたのは、多くの名作映画に出演をしている人気俳優のジェフリー・ラッシュ。
美術鑑定士ヴァージルのもとに、ある日一本の電話が入る。それは、亡くなった両親が収集していた美術コレクションを競売にかけてほしいという依頼だった。美術品を確認するため、依頼人の邸宅に足を運んだヴァージル。しかし、そこに依頼人の姿がない。依頼人はどうやら邸宅の中に身を隠しているようで、顔を見せない依頼人とヴァージルは声での交流を重ねていく。互いにとあるコンプレックスを抱える二人の関係はやがて進展をみせはじめ…。
前情報はこれくらいに。あとはぜひ、観て確認をしていただきたい。
4=パンチの効いた衝撃を受ける作品(後編:ナイトクローラーから)
『ナイトクローラー』(2014年公開・洋画)
監督は『リアルスティール』や『ボーン・レガシー』『キングコング:髑髏島の巨神』などで原案や脚本を手がけるダン・ギルロイ。主演は、先に紹介をした『ミッション:8ミニッツ』でも主演を務めたジェイク・ギレンホール。
ドライブレコーダーの普及により盛んに報じられるようになった事故映像。それに限らず、被害者のある犯罪事件の撮影をする者が増え、社会問題ともなっている。そのような映像は、報道においての重要な証拠映像としてメディアに高く買い取られることもあるそう。野木亜紀子が脚本を手がけた『MIU404』でも、過激報道を動画投稿サイトにて行うナイトクローラーチャンネルというものが登場するが、それは本作が元ネタとなっている。
主人公のルイスは、工事材料を盗み売りすることでその日その日を食い繋でいた。買取交渉で培った話術に自信があるルイスはある日、事故現場を撮影して、その映像を金に変えていくカメラマンを目撃。ビジネスになることを考えつく。機材を揃え、見よう見まねで撮影した事件映像の売り込みは成功。テレビ局との信頼関係も生まれ、ルイスは過激映像の撮影にのめりこんでいく。人道に背いた過激さが問題視されるなかでも、得意の話術で金を稼いでいくルイスから徐々に、人としての良心さえも失われつつあった。
『インターステラー』(2014年公開・洋画)
クリストファー・ノーラン監督と弟のジョナサン・ノーランによる共同脚本の大作SF映画。本作は当初、スティーヴン・スピルバーグ監督とジョナサン・ノーランにより進行されていた企画。利権の兼ね合いによりスティーヴン・スピルバーグが監督を降板したことにより、クリストファー・ノーラン監督が携わることになった。
弟のジョナサン・ノーランは本作を仕上げるまでに、徹底した科学考証をおこなうため約四年の歳月をかけている。クリストファー・ノーラン自身も、完成した脚本を下地に、自身のアイデアを融合させる形で関わっている。
科学のディティールがこれでもかと詰め込まれた本作は、それゆえ、難解でもある。壮大な宇宙の物語に内包される家族愛が唯一、汲み取りやすいテーマともいえるだろう。
物語は近未来。異常気象の多発により農作物が絶え、人類滅亡の危機が迫っている地球。トウモロコシ農場を営む元宇宙飛行士のクーパーは、NASAが秘密裏に進行していたプロジェクト〈ラザロ計画〉に参加することに。その計画は、かつて創造されたワームホールを通過し人類の移住が可能な第二の地球を見つけることだった。
これまでにも多くの逸話を残してきたクリストファー・ノーラン監督。本作においても、映画撮影のために広大な土地を買い、一からトウモロコシ畑を育てたことや、テッセラクトと呼ばれる四次元超立方体を実際に組み上げて撮影をしたこと、宇宙に姿を現すブラックホールに至っては、有名な物理学者アルベルト・アインシュタインが発表した一般相対性理論の方程式〈アインシュタイン方程式〉を用いて約4万行ものコード記述をC++言語にて行い再現をしたという、書きながら自分でさえもよく分からなくなってくるほどに、とにかくスゴいということだけは強く感じ取れる熱量と技術が凝縮された一作となっている。
※〈アインシュタイン方程式〉とは、空間の歪み(曲がり具合)が、時間の経過とともにどう変化をしていくかを定式化したもの。
『プリデスティネーション』(2014年公開・洋画)
監督は、マイケル・スピエリッグとピーター・スピエリッグのスピエリッグ兄弟。『SAW(ソウ)』シリーズの完結後、以来七年ぶりとなる新作『ジグソウ:ソウ・レガシー』を撮影。推理要素を押し出した、原点回帰作となったことでも有名。
本作は、ロバート・A・ハインラインによるSF短編小説『輪廻の蛇』を原作としたSFサスペンス映画。場末の酒場にやってきた青年ジョン。雑誌に自分の身の上話を寄稿しているというジョンの話を聞いて、酒場のバーテンダーは、なにか面白い話を聞かせてほしいという。自身の身の上話を語りだすジョン。「自分が少女だったころ」という語りだしからはじまる人生談は、奇妙な生き様へとつながる導入に過ぎなかった。
思考停止間違いなしの一本です。
『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016年公開・洋画)
監督はオリオル・パウロ。本作は公開以降間もなく、リメイク作品やインスパイアをうけた作品が出るほど、よく練られた脚本が人気のサスペンス映画。恋人を殺害した嫌疑により立件されている実業家のドリアは、三時間後に出廷が命じられている。無罪を勝ち取るため、検察側の納得がいく説明を固める必要があり、派遣されてきた代理弁護士とともに事件内容を洗い直すが…。
圧倒的な重厚感で織りなされるサスペンスに翻弄される一作です。
『パラサイト 半地下の家族』(2019年公開・韓国)
監督はポン・ジュノ。『殺人の追憶』『グエルム-漢江の怪物-』『母なる証明』『オクジャ』など数多くの作品を撮り、脚本を手掛けている注目の監督。本作は、カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルム・ドール受賞を果たし、アカデミー賞においては英語ではない作品で初めて作品賞を受賞したことでも話題を呼んだ意欲作。絵コンテにより細かく定められた各描写における動きは音楽的であり、こだわりをもって作られたセットは何度見ても飽きないように工夫がこらされている。
半地下に住む4人家族のキム一家は、働き先もなく、内職をして日々を食いつないでいた。ある時、一家の息子ギウに舞い込んだ家庭教師のアルバイト。バイト先は高級住宅街にある邸宅。その家では、家政婦や運転手までも雇っていた。そして生まれる、パラサイト計画。それは雇われ主の仕事をキム一家全員でとってかわり、寄生するというものだった。
集中力を途切れさせないテンポの良さと緩急のつけ方。長編ながら無駄が一切ない名作です。
5=衝撃に感情の在り処が分からなくなる作品(前編:ゲームまで)
『スティング』(1973年公開・洋画)
監督はジョージ・ロイ・ヒル。名作『明日に向かって撃て!』の西部劇を撮っている。
本作は、一本のなかで七つのパートに分けられた犯罪コメディ映画であり、詐欺師がギャングの大物を相手取るコンゲームものとなっている。『コンフィデンスマンJP』という日本のドラマ、またそれを映画化したもので、名前を知っている方もいると思うが、コンゲームというのは信用詐欺。騙す相手の信用を獲得し、詐欺にかける手口を示している。
1936年のシカゴ。若者詐欺師が大物ギャングに一泡吹かせるため、イカサマを武器にコンゲームを仕掛けていく。
多くは語れない。それでも、綿密な脚本、気分を高揚させる音楽、皮肉の効いた掛け合い、心をくすぐる衣装やセット、画面にうつるすべてが至高でかためられた詐欺映画の金字塔です。
『セブン』(1995年公開・洋画)
監督はデヴィッド・フィンチャー。『エイリアン3』の酷評を受けて以降、映画撮影に着手できず、長い間、脚本へも手を伸ばせなかった監督が、内容に惚れ込んで撮影をしたサイコスリラー映画。監督の名を世に知らしめることになった名作である。
主演は現在も活躍中の大御所俳優、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマン。七つの大罪をモチーフにおこなわれる猟奇殺人事件を追う新人とベテラン刑事のコンビを組んでいる。
全体的にグリーンの配色を意識した仄暗いコントラストは、迫れども迫れども追いつくことのできない殺人が醸し出す暗澹とした雰囲気をより引き立たせる画面作りとなっている。
定年間近のベテラン刑事サマセットは新人刑事のミルズとともに、ある殺人現場へと急行。そこには、七つの大罪の一つ「暴食」が記されたメモがのこされており、食事の大量摂取をしたまま息絶えた肥満男の死体があった。それを始まりに起こる、連続殺人。七つの大罪が完成する前に犯人を見つけ出すことはできるのか。
『ユージュアル・サスペクツ』(1995年公開・洋画)
監督はブライアン・シンガー。ほか作品では『X-MEN』を撮っている。脚本を手掛けたのは『ミッション:インポッシブル』シリーズの5作目から7作目を脚本・監督し、日本のライトノベル『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を原作とする同名映画の脚本にも携わったクリストファー・マッカリー。本作は、今なおインスパイアをうけた映画が作られるほどの名作サスペンス映画となっている。
カルフォルニア州サンペドロ港。そこに停泊していた船が爆発し、多数の遺体が発見される。マフィアとの抗争により起きたと考えられる爆発事件の生き残り、ヴァーバル・キントは、事件の全容を知る人物として取り調べを受けることに。語られるのは爆発事件の数週間前。キントを含む犯罪者5人が顔を合わせたことからはじまった、宝石強奪にさかのぼる。寄せ集めの5人が手を染めた宝石強奪の犯罪。それは、冷酷無慈悲な伝説的ギャング、カイザー・ソゼと密接につながっていた。
事件の最終局面から導入されるこの映画からは、それだけの強気な姿勢がうかがえる。それだけに本作は、ぐぅの音も出ないほどの見事なできばえ。ぜひご堪能ください。
『ゲーム』(1997年公開・洋画)
監督はデヴィッド・フィンチャー。本作は、一部ファンから熱狂的な支持をうけるカルト的人気をほこるサスペンススリラー映画となっている。
自分の周りだけかもしれないが、本作をおいたレンタルショップがなかなか見つからず、観るのに一苦労した作品。DVDも、日本語字幕がついたもので買おうとすると多少値がはり、一度も観たことのない人には手を出しずらい一本でもある。
憎まれた性格が仇である実業家のニコラス。誕生日に弟からCRS社が提供するゲームへの招待状をプレゼントされる。仕事で関わった男性もゲームに参加したことがあるといい、そのゲームは人生を一変させるほどの素晴らしい体験を提供してくれるという。興味をひかれたニコラスがCRS社を尋ねてみるも、長々と検査や質問をされるばかりで全容がつかめない。憤りを胸に、いつもの日常に戻ったニコラス。だが、テレビキャスターが自分へと話しかけてくるという不可解な現象が、ゲームがすでにスタートしていることを告げていた。
現実へと侵入した危険なゲームが巻き起こすジェットコースター級の展開から目が離せない一作。
5=衝撃に感情の在り処が分からなくなる作品(後編:ファイト・クラブから)
『ファイト・クラブ』(1999年公開・洋画)
監督はデヴィッド・フィンチャー。チャック・パラニュークによる同名小説『ファイト・クラブ』を原作とした作品。小説のみ続編の『Fight Club2』が存在するが、現状、和訳での出版はされていない。
5で紹介をした、『セブン』『ゲーム』に続く、デヴィッド・フィンチャー監督作の四作目であり、ブラッド・ピットとは二回目のタッグ。主演は、マーベル・スタジオが権利を獲得後、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第二作目として製作された『インクレディブル・ハルク』にてハルクに変身する生物学者ブルースを演じたエドワード・ノートン。
主人公の「僕」は出張で乗った飛行機内でタイラー・ダーデンという男に出会う。タイラーは人を引き寄せる魅力ある男で、二人は意気投合。ある時、タイラーの申し出によりはじめた、殴り合い。人目のある駐車場で行っていた殴り合いにはいつしか観客がつくようになり、ほかの参加者まで現れだした。場所をある酒場の地下に移した殴り合いは、毎週土曜日の夜に行われる秘密の集まり〈ファイト・クラブ〉へと変わり、多くの人間にとって生活の一部へと変貌していく。カルト的信者を増やしたファイト・クラブはやがて、殴り合いの集会から犯罪組織へと姿を変えつつあった。
『SAW』(2004年公開・洋画)
監督は本作にて長編映画デビューとなったジェームズ・ワン。脚本は本作にて主演の一人を務めたリー・ワネル。ほぼワンシチュエーションのなか展開されていくスリラー映画で、低予算ながらも完成度の高さが話題を呼び、2021年現在でも『スパイラル:ソウ オールリセット』という『SAW』の関連作では九作目にあたる作品が公開された、長きシリーズの記念すべき第一作目。
水が張られた浴槽内で目を覚ましたアダム。そこは老朽化した広いバスルームだった。対角線にはアダム同様、片足が鎖で繋がれた男、ゴードンの姿。そして中央には頭部から血を流す一人の死体。死体の手にはテープレコーダーがあり、アダムとゴードンは、それぞれが知らぬ間に所持していたカセットテープを再生してみることに。それは、世間を騒がす殺人鬼、通称ジグソウが仕掛けたゲームの開始を告げていた。
脱出ゲームの要素も兼ねる本作は、劇中に登場するアイテムをどう使用するのか一緒に考えるのも一つの楽しみと言える。二作目以降から顕著となるデストラップは、シリーズの原点である本作において、ほか犠牲者の紹介にのみ登場するに留まっているため、ゴア描写が苦手な方でも観やすい一作となっています。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年公開・洋画)
監督はクエンティン・タランティーノ。ビデオショップ店員時代に大量の映画作品に触れ、その膨大な知識量を活かして脚本を書き上げ、監督・脚本のみならず出演までつとめた『レザボア・ドッグス』を一作目に映画界の巨匠にまで上り詰めた異例の経歴をもつ人物。かねてより、監督作を十本撮ったら映画監督を引退すると語っており、本作がそのうちの九作目。引退作ともなるであろう次回作になにを撮るのか、本当に引退をしてしまうのか注目が集まる監督でもある。作品の特徴として顕著なのが、ストーリーに一切関与しないキャラクター間の無駄話。クエンティン・タランティーノ監督作品を観るにあたって、全体の半分以上を占めるその会話を、削ってもいいとみるか、これこそが楽しいんじゃないかとみるかで、最後まで楽しめるか否かの分かれ目になるだろう。
本作にはモチーフとなった事件がある。ハリウッドの闇とも称される「シャロン・テート殺人事件」だ。事件は1969年8月9日の夜。『ローズマリーの赤ちゃん』を撮ったことで知られるロマン・ポランスキー監督の妻、シャロン・テートが友人を邸宅に招いてその夜を楽しんでいた時に起こる。当時のヒットカルチャーであるヒッピー文化に染まった若者を率いたカルト教〈マンソン・ファミリー〉のリーダー、チャールズ・マンソンに殺人を命ぜられた4人が邸宅に侵入、シャロン・テートとその友人を惨殺したのだ。
本作は史実と虚構がないまぜになっている。そのため、「シャロン・テート殺人事件」の全容を知ったのちに観賞をした方がより深みのある映画体験をできるのは間違いない。しかし事件内容がかなりの胸糞悪さであるため、調べる際には注意をしていただきたい。
下記は、ネタバレなく事件の詳細が綴られた海外ポップカルチャー専門メディア〈THE RIVER〉の記事『『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』徹底予習 ─ シャロン・テート殺人事件とチャールズ・マンソンとは』です。詳細を知って観賞をしたい方は一読してみてください。
(リンク先:https://theriver.jp/ouatih-1/)
本作はW主演となっており、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットがコンビを組んだことでも大興奮な一作。
俳優のリックと親友で専属のスタントマン・クリフは、それぞれがハリウッドでの時代の流れに取り残されつつあった。ハリウッド俳優としての限界を抱き始めるも再起を狙うリックと過去に起こした事件の影響で仕事の受け手が見つからないクリフがリックの住む邸宅へ戻ると、近くに越してきた人気映画監督のロマン・ポランスキーとその妻、シャロン・テートを目撃する。偶然が導いた隣人関係。それは1969年8月9日に向かって、それぞれの人生を動かし始めていた。
『マリグナント~狂暴な悪夢~』(2021年公開・洋画)
監督はジェームズ・ワン。『SAW』『死霊館』『インシディアス』シリーズといった多くの名作を手掛け、ホラー畑で活躍をしてきた鬼才。近年では『ワイルド・スピード/スカイミッション』や『アクアマン』といったアクション映画も手掛けている。そんなジェームズ・ワン監督が誰も観たことのないようなホラー映画を目指したと、満を持して世に送り出した本作は、あらすじを読むことすら危ぶまれるほどの問題作となっている。筆者自身も前情報なしで観賞をし、それが正解であったことを身に染みて感じた、まさにホラー映画に新風を吹かせる傑作だ。とはいえ、懐疑的な意見が聞かれるのもまた事実。好きな人は好き、苦手な人は苦手があるのはどの作品においてもいえる話だが、好きでも存分に語れて、苦手でも存分に語れるような懐の広さを本作は持ち合わせていると個人的には思っている。なぜなら賛でも否でも語り明かしたくなるほどに、あらゆるものが濃縮された一本だからだ。
本作はR18+となっているが、ゴア描写は比較的抑えられている。そのため18歳以上の方で、本作が気になっている方にはぜひ映画館での観賞をおすすめしたい。未知の体験ができること間違いなしの一作である。
以下、あらすじ。(※観賞前で情報を入れたくない方はご注意ください)
妊婦のマディソンはある日、DV夫からの暴力によって後頭部に大きな怪我を負ってしまう。数回の流産を経験していたマディソンは夫をひどく恐れ、部屋から閉め出すことに。その夜、激しい物音に目を覚ましたマディソンが部屋を出ると、そこには得体の知れぬ不気味な気配が。危険を察知し逃げ出すも、なにかに襲撃を受けたマディソンはそのまま失神。目覚めると病院のなかだった。へこんだお腹は再びの流産を意味し、悲痛に咽びなくマディソン。しかし悪夢はまだ続いていた。
まとめ
かなり長くなってしまいましたが、以上個人的に衝撃を受けた46作品の紹介でした。自分はわりとなににでも驚きやすいタイプなので、ラインナップのなかに「これそんなにか?」と思うものもあるかもしれませんが、衝撃を受けるかどうかに限らず、一つ一つが楽しめる作品でもあるので、ひとつでも気になる映画を見つけてもらえたなら幸いです。
ご精読ありがとうございました。