『青空と逃げる』を読む
辻村深月の作品を、
読み続けている。
辻村深月(2018).『青空と逃げる』.中央公論新社
いままでの辻村作品のなかでいちばん好きな作品になった。
母と息子
まず、母と息子。
お互いを想い、労わりあいながらも、生じるさまざまな戸惑いやすれ違い。でも、ともにいるふたり。読み進めながら、ふたりを応援している自分に気づく。
息子の想いも、母の想いも。なんて繊細に描かれているんだろう。
日本国内を転々と
ある理由から、母と息子は逃げる。
家島や別府、そして仙台へ。
その土地で出会う人や起こることがらは、おそらくなんてことない日常を切り取っているようで、とても価値のあることとして描かれていることが心地よかった。
何気ない毎日のなかに、大切にしたいドラマはたくさん眠っているということを改めて感じさせてくれる。それが、ほんとうに心地よかった。
成長の物語
母と子が積み重ねていく逃避行の日々が、行動としては逃げているのに、成長の物語としても読み取れる。
何気ない毎日が突然、信じられない状況に転じることがある。しかし極限に置かれれば置かれるほど、自分が本来すべきことにだけ集中できるようにも思えた。
息子は学校に行けてないけど、ものすごい学びの日々を過ごしている。彼の学校に行けない日々は、しっかりと価値づけられているようで嬉しかった。
背負っているものがある人は強い
この作品のなかで、母が逃げている先で出会った人に言われたことばだ。小学生の息子を抱えて、逃げ続けることにかかる圧力を思い、胸が苦しくなった。
こどもが生まれた時から、いやお腹に命を宿した時から、母はその命を背負っている。おそらく、母であることは、わたしをも強くたくましくしてきただろう。
一方で、ずっと背負ってきたその命が、自分の力で飛び立っていった空の巣にいるわたしの今。
ひなを見送った親鳥なわたしのもとに、理屈では処理しきれないいろいろな感情が押し寄せてくるのも仕方ない。それだけ自分が、本気で息子と過ごしてきたということか。
何を見ても、何を読んでも、まだまだふと襲ってくる空虚でからっぽな気持ちと、今日も向き合う。