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ミルク 第3話(全5話)
適齢期に婚姻関係を結ぶあたり、わたしの恋愛観を創り上げてきた音楽たちの効果なのか成果なのか。
思い出すのは幼いころ、
父の車に乗ると流れてくる音楽はサザンオールスターズが定番で鉄板。
父世代のなかでは洒落た趣味とも思う。
今でも人酔いをするほうではあるが、幼いころから乗り物酔いが大層酷く、
家族で出かける折にはわたしの特等席は父の運転する助手席だった。
後部座席できゃっきゃする家族たちとは異なる、わたしだけの特別な空間のように思えて大好きだった場所。
BGMもサビに差し掛かると、偶然にもわたしの名前を歌う歌にあわせて父が「こころから好きだよ、」とわたしに向けて歌ってくれたのをありありと思い起こせる。
そうやって、多くのひとたちと一緒にいながらもそのひとの懐に入る術を学んできたのやもしれない。
苦しい、辛い、救ってほしい、
そんなあざとさをこころに抱えながらも、
運命論者なわたしはわたしに問いかける。
どう足掻いたところで道はもう決まっているし、
恋愛に右往左往するようなわたしではいられず、
きっと収まるところに収まるのは分かっているのだ。
おおかた嘘か大口を叩いているだけと思われそうな気もするが、わたしは本気でアイドルになりたかったし、アイドルと結婚する、少なくとも付き合うと思っていた。相手も決まっていた、はずだった。声に出すとひとには冗談にしか受け止めてもらえなかったけれど、わたしはいつも真剣だった。
優秀だったはずの幼少期のわたしが見たらさぞ驚くかもしれないが、奇跡はやはりおこらず、文理の分離(突然韻を踏んでみる)甚だしく、浪漫と算盤の算盤を弾くことを許されないまま大学生となり、社会人となり、古物商となり、気づけばオトコ社会に塗れる仕事に就き、現在に至る。
ぼんやりしていると思われていたわたしが、わりと大きな声を出して挨拶回りをしたり、現場に顔を出しておじさま上司のご機嫌を伺ったり、新入社員を鼓舞したりするのだから、人生は面白い。否、人生は短く芸術は長いってそれやもしれない。
それでも、
誰かと日常を共有する人生を送ることになろうとは、やはりあの頃のわたしの運命には刻まれていなかったような気もする。
ジャイアントキリング、大番狂せである。
もちろん、いい意味で、というのも含んではいる。
つづく
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