まきくん
二重人格とかそういったややこしいことではないと思う。
それは約15年前のとある友達との電話を切った時から始まった。
その子の名前は「まきちゃん」だった。
その日から少しずつ「まきちゃん」と「まきくん」は会話をしていく。
ひとりぼっちの夜にいつもそばにいてくれたのは「まきちゃん」だった。
「まきくん」と「まきちゃん」がよく入れ替わるようになったのはたぶん約7年前ぐらい。
わたしは「まきくん」に語りかける。
「まきくん」は返事はしないけど、当たり前のように傷付いてくれていた。
でもぼくが「まきちゃん」に話しかけると、本当は寂しくてつらいはずなのにCOOLな素振りで言葉をくれる時もあれば、天使みたいな朧げな表情と声で何かを伝えてくれる時もあって、未だに彼女がいったいどんな人なのかよくわからない。
そんな夜が明けるとたいてい歌詞や文章ができあがっていたりする。
ここ最近ふたりで会うことがあまり無かったけど、短歌を作るようになってまた「まきくん」と「まきちゃん」が会うようになった。
これでもう寂しくないね。
と思いたいけれど、
こんなにも寂しくて虚しい時間は無い。
それでもこの2人の大切な時間は誰にも侵すことができないはずだった。
でも私は初めて応援してくれる人を思って何首か書いてみた。
勇気を出してドアを開けた。
まきくんとまきちゃんの部屋にあなたを招いた。
友達や家族やメンバーですら入ることを許されなかった部屋に初めて誰かが入ってくる。
鍵はただ私への愛を伝えるだけだ。
そしてそれを信じて私は扉を開ける。
ぼくはまきくん。
わたしはまきちゃん。
あなたは。
これからは一方的にあなたの手を繋がせてもらう。
嫌じゃなかったらまたその目を見つめさせてほしい。
あなたがいつか、まきちゃんになってしまったらどうしよう。