どうしようもなくでんぱ組.incが好きだった。

2024年2月22日、STU48の福田朱里ちゃん主催の『フクフェスVol.2』に出演した。

何故くぴぽがSTU48の主催イベントに?と思われるのも無理は無い。

主催である福田朱里ちゃんはメジャーアイドルの中では珍しいロックを聴いて育ってきた女の子で、その中でもTHE ラブ人間が好きだったことからVo.金田康平が作ってくれたくぴぽの「しゃぼん玉ホリデー」の存在を知りライブへ何回か観に来てくれていた48グループの中でもなかなか熱い魂を持った子なのである。

そんな魂を具現化すべくフェスを開催したいという思いに至ったようで、有り難いことに毎度呼んでいただいている。

昨今の「フェス」という言葉に対して個人的に「それ、ただの対バンライブでは?フェスとは?」と疑問を抱くことが多い。

でも彼女のイベントはちゃんとフェスだと思う。

あくまで感覚としか言いようが無いので明確な説明はできないけど。

アイドルだけでもフェスだし、夏じゃなくてもフェスだし、野外じゃなくてもフェス。

特別感とかそういう類(たぐい)のものかと思うけど、まぁフェスの定義についてはまた後日。

そんなこんなで2回目のお誘いを受けた会場はくぴぽ史上最大規模であるEX THEATER ROPPONGI。

前回のくぴぽ史上最大規模の会場もフクフェスだった。

最大規模ということはもちろん最大のアウェイということ。

ステージに出た瞬間の緊張と興奮と恐怖と覚悟が混じり合った、まるでRPGのボスと対峙する時のようなあの感覚。

今回は約1500人ものSTU48のファンが我々を観ている。

フロアに降りることは禁止されていたのでライブ中にステージでチェキを撮ってそれを会場のお客さんに投げてプレゼントする等、賛否両論を肌で感じながらも福田朱里ちゃんと「しゃぼん玉ホリデー」のコラボをした事もあり、ライブはそれなりにくぴぽらしくよくやれたと思う。

見たことのない色をした約3000もの瞳。

いつものライブハウスでは絶対に見ることの無い数字のバミリが並んでいる広大なステージ。

THE 地上というべき豪華なケータリング。

ライブを観て好きになったと言ってくれた明らかに未成年の純情可憐なSTU48の女の子が2人(名前を知りたいが思い出せない)。

それでもこの日の個人的、いや私だけではなく主催の福田朱里や他の出演者や関係者、ひょっとしたらお客さんのほとんども頭に描いていたかもしれない特別なトピックが1つあった。

出演者に「でんぱ組.inc」の名前があるということ。




くぴぽ誕生に関して色んな場所で話してきて冗談と思われるのだが、くぴぽはでんぱ組.incがいなければ存在していなかった。

バンドから始まった初期メンバー3人の共通して好きだった音楽はブレイクコア、ノイズ、でんぱ組.incの3つ。

音楽を作る経験や知識や情熱が少し薄かった我々はバンドをすることへすぐに見切りを付けて、「うちらはでんぱ組.incになろう!」と決意した。

アイドルにはそんなに詳しくなかったはずの私は当時でんぱ組.incにとてもハマっていた。

Perfume→ももクロ→でんぱ組という今思えば典型的なサブカル的アイドル好きの流れだったかもしれない。

友達にお寿司のアルバム(1st ALBUM『ねぇきいて?宇宙を救うのは、きっとお寿司…ではなく、でんぱ組.inc』)を薦められて衝撃が走るほど好きになったのにも関わらず、誘ってくれたインストアイベントへ無理をしてでも一緒に行かなかったことを未だに後悔している。

とにかく当時このお寿司のアルバムを聴きまくっていた。

1番好きな曲は『kiss+kissで終わらない』。

推しは『夢眠ねむ』だった。

ねむきゅんの声が大好きだった。

見た目も何だか好きだった。

でもその後すぐ、りさちーも好きになったし、もがちゃんも好きになって、えいたそも好きになって、みりんちゃんも好きになって、ピンキーも好きになって、
メンバー全員が好きになった。

初めてライブを観たのは阿倍野ロックタウン。

確かW.W.Dのツアーだったと思う。

あんなに好きになっても、いざアイドルのライブに行くというハードルはなかなか高くて、友達に誘ってもらったことで何とか行けた私は帰りに買った水色のグッズTシャツをその後ビリビリになるまで何年も着ていた。

この日CDを何枚か買ったらチェキを撮れるらしいという情報を聞いたが何故かその時はその仕組みが受け入れられず、これも今ではとてつもなく後悔している。

未だに何故会場がロックタウンだったのか不思議なぐらい当時のでんぱ組はどんどん売れていっていた。

くぴぽが忙しくなってライブに行くことから遠のいていたもののそれ以降のでんぱ組の音源はちゃんとチェックしていた。

好きだけどお寿司のアルバムが余りに自分の中で大き過ぎて、だんだん曲の感じもメジャーっぽい感じになっていったことからほんの少しだけ心が離れていった。

もがちゃんが辞めても音源はチェックしていたがやはり音楽的にあんまり好きになれず、ねむきゅんが辞めたことで少しずつ頭の中からでんぱ組が自分の中で小さくなってしまっていた。(でも、ねもぺろはめちゃくちゃ好きだった。)




今や色んなレジェンドや憧れてた先輩方と対バンする事やお話する機会が増えた私だが結構緊張しないタイプだと思う。

相手が恐縮し過ぎない程度にリスペクトを伝えながら明るく接することを心がけていて、憧れは憧れのままというよりは何だったら友達になりたいって気持ちがあるんだと思う。

ただ、この日でんぱ組.incに挨拶をする時、私はくぴぽを初めて1番と言ってもいいぐらい緊張していた。

ベタに「本物だ…」と思ってしまうほど私はこの人たちの顔を長年ずっと何かしらの画面越しに応援して見ていたからだ。

しかし、とあるメンバーの人がグループの中に男の私がいることに気付き「あれ?あ…、まぁ多様性の時代だもんね〜」と言った時に、何故か急にマグマが込み上げてくるようにスイッチが入った。

「お前らにも絶対に負けないからな。」

言われた言葉に対してヘラヘラしている自分にも何故か憤りを感じた。

いやいやどう考えても優しさで言ってくれているのに。

極度の緊張で感情がおかしくなっていたと推測できる。

でも、自分はちゃんとアイドルとして認めてほしかったのかもしれない。

色物に見えるかもしれないけど、それでも純粋にあなたたちに憧れてここまで10年かけて『マイナスからのスタート舐めんな!』って気持ちでやってきたから。

それぐらいこのイベントを思い出作りの場にしてはいけないと思っていたのかもしれない。




でんぱ組のお客さんは会場のキャパに対して思った以上に少なくて、正直自分たちと変わらないぐらいアウェイだったように見えた。

しかしそれでも全力でエンターテインメントを体現する姿に私は感動した。

どんなアウェイにも打ち勝って結果を出してきたかつてのあのでんぱ組.incと遜色無い(むしろそれ以上に)素晴らしいライブだった。

このタイミングでそれを観ることができて、アイドルを続けてきて良かったと心の底から思った。

やっぱり私はどうしようもなくでんぱ組.incが好きだった。

でんぱ組も自分も、時を経てあの頃とは変わってしまった。

でも変わらないものがここにある。

ゆっくり体全体で、心全体で噛み締めるように、大好きなライブを、大好きな歌を、大好きなダンスを、大好きなメンバーを、大好きなでんぱ組.incを味わった。

今まで何度心が折れただろう。

今まで何度折れた心を立て直しただろう。

いつも私に勇気をくれるのは先輩の背中だった。

彼らは決して私を抱きしめてはくれない。

それでも付いてこいと私に背中で道を示す。




ライブ後、廊下でたまたますれ違ったでんぱ組のメンバー「りさちー(相沢梨紗)」に申し訳ないと思いつつもこんな機会は二度と無いかもしれないと、思いの丈を話した。

ライブの感想。自分にとってのでんぱ組.inc。10年やってきたくぴぽというアイドルのこと。

彼女は私のしどろもどろな言葉を「嬉しいー。ありがとうね。」「そうだよねー。」「続けるって大変だもんね。」「長くやってると色々あるよねー。」と優しく包み込むように、1つ1つ掬(すく)いとってくれた。

彼女の言葉はありきたりだったのかもしれない。

優しい聖母のようなあの表情がどんな感情なのかも読み取れないほど私の心はぐるぐると忙しかった。

こんな存在の自分がライブ後の時間を奪ってるだけでなく気を遣わせる発言を引き出させてしまって申し訳ないなと思いながらも、
『でも、お願い、ちょっとだけ話聞いてほしい、本当にごめん、だってりさちーにしか、言えないから、周りに、アイドルの先輩も、同世代も、居ないから、今まで誰にもこんなこと、言えなくて、早く楽屋に帰りたかったら本当にごめん、マジでごめん、でもあとちょっとでいいから、弱音吐かせてほしい、甘えさせてほしい、優しい言葉欲しい、ずっと心がボロボロで折れそうだった、でもやっぱり続けたくて、でんぱみたいになりたくて、だってもうでんぱ組.incとは二度と共演できないかもしれないから。』

我に返った私は「忙しいのに本当にごめんね!あ!写真撮りたい!ありがとう!また一緒にやろーね!」と言ってその場を後にした。

もっと頑張ろう。

頑張れる。

もっと続けよう。

続けれる。

でんぱ組みたいに。

それから数ヶ月後、でんぱ組.incはエンディングを迎えることを発表した。




ねむきゅんが結婚を発表した時、私はショックを受けて数日間上の空だった。

その後のねむきゅんの活動やインタビューもできる限り追っていたが、きっとねむきゅんにアイドルを求めてる今の私はねむきゅんにとって嫌な存在だろうなと思った。

でも好きな気持ちが消えることはなかったから少しずつねむきゅんをアイドルとして見ないように訓練を重ねて(?)、何とか昔好きだった元アイドルの本屋さんとして見ることができるようになった。

そんな折、ねむきゅんともがちゃんが吉田豪さんのトークライブに出演されることが発表された。

今だったら大丈夫だと思い、配信アーカイブを買った。

2人のことはどんなパーソナリティーかは何となく知っていたつもりだったけど、楽しみにしていた以上に2人の関係性が終始ピースフルに満ちていて2人に対して感じていたモヤモヤの全てがどうでもよくなった。

そして、繊細で自意識過剰で甘えん坊なもがちゃんを「はいはい!わかったわかった!」といなすねむきゅんを観て、私は自分が何故夢眠ねむ推しだったのか久しぶりに理解した。

ストイックであの頃より少し強くなったようにも見えていた最上もがが今も変わらず自分を始めとした繊細でめんどくさい人たちの等身大として存在していたことに心の底から安心した。

(ねむきゅんの子供が芸人になりたいと言ったらどうする?の問いに旦那さんの才能の凄さを引き合いに出し話してた部分は不覚にもめちゃくちゃ笑った。)

会場に来て笑ってる2人を推してる人たちは今幸せだろうなと思った。

少なくとも配信アーカイブを見た私は久しぶりに幸せな清々しい気分に満ちていた。

推すということ。
尊いということ。
支えるということ。
応援するということ。
許すということ。
好きになるということ。
恋をするということ。
愛を知るということ。

推しって何なんだろう。




あの時りさちーは何を思って私を包み込んでくれたんだろうか。

なんて残酷なことを私はしてしまったんだろうかと頭を過(よ)ぎったが、私が触れた彼女はそんな弱い人じゃないような気がした。

あの時私が勇気で満たされたのは彼女が立派なアイドルとしてずっと私よりも戦い続けてるからだ。

その背中が星空のように大きくて眩しかったからだ。




どんなに好きだったアーティストでも活動が終わると聞くと途端に興味を無くしてしまうタイプの私だが、でんぱ組.incの最後のライブは観に行きたいかもしれないと思った。

初期のメンバーや過去のメンバーのことばかり書いてはいるが、折角なら最後に今のでんぱ組.incを心から応援したいとも。

しかしそんな風に迷ってるうちにチケットはソールドアウトしてしまった。

「どうして解散するんですか?」

そんな風に無邪気に思えるほどもう子供ではない。

「解散しないでくださいよ。」

ライブに来ない人が言うこれって自分が言われて1番嫌なやつだ。

「今までありがとう。」

そんな言葉よりも本当はズルいよと思っている。

適切な言葉が見つからない。

きっと2025/01/05を迎えても。

それでもこの気持ちは何年経っても変わらないだろう。




どうしようもなくでんぱ組.incが好きだ。



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