1秒

この日ずっと心臓に纏わり付いていた。

バンド時代からお世話になってる黒瀬さんと撮影で入ってる留置さんにライブを見られることを少なからず意識していた。

この日カマさなきゃいけない人はもっと沢山いる。

だけどまぁそんな頓珍漢なことを考えてしまう日もある。

お客さんに性別も年齢も国籍も関係無いけど今回初めて男性より女性のお客さんが多かった。

それがどうしたと言われたら本当にどうでもいいことだしやることは変わらないけれど、周りのアイドルと比べて今くぴぽは変な場所に居るのかもしれない。

変だけどとても素敵で心地が良い空間だ。




ワンマンライブがあまり好きではなかった。

応援してくれる人を増やさなきゃいけないのに自分たちを好きな人だけが来るただの確認作業みたいなイベントに何の意味があるのだろうと。

しかしワンマンライブにしか来(れ)ない人がいることを知って、そして出会った。

何人来るかのプレッシャーが半端ないので逃げていたところも正直あったが、定期的にこういうプレッシャーを感じて乗り越えなければグループとして前に進めないことも知った。

ワンマンで何人来たかが自分たちの名刺であり寿命に繋がることも理解した。
(実際の意味で本当に名刺や寿命に繋がるのは普段の対バンライブで何人呼べるかだけどまぁそういう名刺もあるってことで)

ワンマンライブを終えて思ったのはもう少しこういうライブを増やそうということ。

単純に多くの曲ができるのは楽しいし、それをみんなが喜んでくれている実感を得れたし、制作的な負担も少ないし、何より楽しかった。

まぁワンマンは難しくてもツーマンやスリーマンの自主企画が今後増えていくと思う(先日のピューパ!!とのツーマンはとても意味のあるイベントだった)。

あの日見た景色は忘れてしまうかもしれないけど、あの日得たものは私の何処かに刻まれてこれから共に生きていくと思う。

覚えられないので名前は付けないけど誰かといつかその血が繋がればと願う。




ここ最近くぴぽは少し特殊なパフォーマンスをたまにしている。

ワンマンライブでもアンコールでそれをした。

コロナ前のくぴぽに戻ったような感想を見るが実はそうではない。

自分の中では過去と現在と未来を繋げる為の相当な覚悟が要る挑戦だった。

広島のライブからお客さんの反応を見ながら少しずつは試していた(チェキフィルム高騰によりたぶんあの曲はしばらくできなさそうだけど)。

8/12のイベントは(普段お世話になってる他所様のイベントだったので)特に相当な覚悟を持ってトライした(ご迷惑おかけするかもしれないので自主企画だけにしようと思っていた)。

自分たちにしかできないものは無いかとずっと何年も考えていた。

「くぴぽがライブ盛り上げていかんでどうするねん」とこの前友達に言われて確かにそうだなと思った。

でも気を衒(てら)うようなやり方はちょっと違う。

だからってベタなことをするのも恥ずかしい。

結局自分のルーツを遡ることで一時的な答えのようなものに触れた。




私にとってライブハウスは怖い場所だった。

暗いし汚いし五月蝿いし座れないし受付の愛想悪いしすぐに無くなるドリンクが500円するし転換長いし好きになれないバンドばっかだし、ライブハウスに居るほとんどの時間が苦痛でしか無かった。

でもだからこそ強烈な磁場を感じ、魅かれた。

ステージもフロアも関係無く縦横無尽に動き回り、少しでも高いところがあれば如何なる場所でも登り、身体を切り刻んで血塗れになったかと思えば嘔吐したり、登場して1分でギターが粉々になっていたり、全裸なんて日常茶飯事、1秒後には何が起こるかわからない緊張感の中で客は金を払い笑ったり泣いたりしていた。

私のDNAには間違いなくそれらのイズムが刻み込まれている。

友達が欲しかった。自分はお前らとは違うという確かなものが欲しかった。自分を壊す普通じゃない何かに触れていないと生きていられなかった。それが自分のアイデンティティだった。

結局退屈な夜は永遠と思えるほど永く自分の居場所なんてものは何処にも見つけられない。

それでも抑えきれない欲望を爆ぜさせるべく勇気を出して幾度も様々なステージに立ったが非日常は日常と大して変わらないほど残酷だった。

形や色を変えながらもずっと其れはそこに居た。

ただただ質量と種類と粘度が増幅していくだけのものに飲み込まれて私は視力を失った。

しかしそれでも私はまた光を求めた。

何をやっても上手くいかないのに自分が認められない訳が無いという恥ずかしげもない過剰な勘違いだけが異常な行動力の原動になっていた。

それからアイドルというものになって10年が経とうとしている。

かつての薄汚いライブハウスで育まれたDNAとそこから後天的に得たこの世界の流儀。

具体的に何をしたかは書かない。

大したことをした訳じゃないしライブで毎回する訳でも無い。

何かあればすぐにでも止(や)めるようなことだし、特にここ最近では私たち以外にも似たようなことをやってる演者は結構いる。

でもお前らとは覚悟が違うと心の中で思いたい。

当然そんな覚悟などこの世界じゃ何の役にも立たないものだ。

私はDNAに刻まれたあの夜を肯定してアイドルとして否定したい。

その場所に行くのはもう衝動という乗り物では無いかもしれない。

だけど抑えきれずに漏れてしまうこの感情をゼロ距離で浴びるのが私にとってライブだ。

1秒しか存在しない何かを観る為にライブというものが存在していてほしい。

相変わらずライブハウスはずっと怖い場所だ。

未だにここが居場所だなんて安心できるほど満たされることなんてほとんど無い。

でも君しか知らない私が必ずそこに居る。

1秒ずつ存在していく私のことを本当に知っているのは君だけだと信じている。

そんな君にいつか推してほしいから。

大量の恥と汗をかきながら毎週歌を歌って上手に踊れないダンスを踊ってライブハウスで私は待っている。

もう死んでもいいという欲望と絶対に死なせない覚悟を肌が荒れるまで自分に塗りたくる。

不完全なまま生きることだけしか選べなかった私の1秒をあなたに。

永い夜がいつか終わってしまわないように。




(ちなみにワンマンライブの撮影はYouTube用の公式ライブ動画を載せる為でしたが、私の伝達ミスでちゃんとした音で録音されてないことが判明。うぇーん。)

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