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マカロニ・ウエスタン

 まだマカロニ・ウエスタンなる言葉もなかったころ、「荒野の用心棒」を見ました。当時はB級映画扱いで、封切りからさほど月日はたっていないのにテレビ放映されたのです、それもゴールデンアワーではない午後3時ごろに。私は高校生だったか、クリント・イーストウッドの勇姿を母や妹と、「わあロディだロディだ」とか言って騒ぎながら見たのです。「ローハイド」の放映が終わってしばらくたっていました。それがイタリア製であることも知らなかったし、当時クロサワ映画の「用心棒」は知らなかったので、その映画が剽窃ひょうせつだと問題になったことも知りませんでした。

 その後マカロニ・ウエスタンのブームが来ました。私は映画は見なかったのですが、当時のラジオの音楽番組で、ポップスのヒット曲に交じって、マカロニ・ウエスタンの主題曲が次々に紹介されたのです。「南から来た用心棒」などという曲の題が、お笑い番組にパロって使われたりしていました。
 その中で心に残る曲がありました。「ガン・クレイジー」。張り裂けるようなトランペットの哀切なメロディーが美しかったのです。しかしその映画は話題にならなかったし、その後その曲を聴くこともありませんでした。
レコードやCDを買いあさるようになってから、中古レコード屋でその曲を探したのですが、見つけられませんでした。スマホの音楽アプリを手に入れてからも見つけられなかったのです。YouTubeでようやく見つけました。ガン・クレイジーはどうやら日本でつけた映画の題名。英語の題は「The Bounty Killer(賞金かせぎ)」、イタリア語の原題は、「El precio de un hombre(ある男の値段)」と言うのでした。
 その曲は「荒野の用心棒」の主題曲と似ていました。作曲者はステルヴィオ・チプリアーニ。それまでほとんど無名だったエンニオ・モリコーネとはちがい、数々の映画音楽の作曲者として名高かった人らしいのですが。
「荒野の用心棒」には、「さすらいの口笛」があまりに有名になったので、人々の記憶に残らなかったもう一つの主題曲があったのです。トランペットが哀愁に満ちたメロディーを奏でるものです。なんでも監督のセルジオ・レオーネが、リオ・ブラボーのような曲がほしいとエンニオ・モリコーネに注文したものだとか。
 ジョン・ウェイン主演の映画「リオ・ブラボー」の主題曲。それは真昼の決闘やローハイドの主題曲の作曲で名高い、ディミトリ―・ティオムキンが作曲したもので、「皆殺しの歌」と題されています。原題はDeguello、虐殺の意味です。テキサス独立戦争で北米と闘ったメキシコ軍の軍歌の、スペイン風のメロディーをなぞったものだということです。
 荒野の用心棒がその後のマカロニ・ウエスタンのブームを生み、エンニオ・モリコーネのそのスペイン風の曲調が、それらの主題曲を支配したのです。ガン・クレイジーもその一つにすぎないと言えば言えるのですが、とはいえ美しい曲です。
 その映画、ネットで見られる断片では、悪の主人公が賞金稼ぎの男に撃たれて、のたうち回って、文字通り「bite the dust(塵を噛んで)」死んで行くのですが(Another One Bite the Dust「地獄へ道連れ」、クイーンの曲)、口元で最後の息にかすかに塵が舞い、やがてそれがやんでその男の死を示す。そのリアルな表現がマカロニ・ウエスタンらしい。

 ところでクロサワの「用心棒」は、父親の撮りためたビデオで見たのですが、ミフネが火の見やぐらで高見の見物をする場面であっと思ったのです、この場面見たことがある!
 思い出したのは荒野の用心棒ではありませんでした。マンガ「じゃりン子チエ」の外伝、ネコの小鉄の野良猫時代のエピソードでした。九州の炭鉱町の野良猫集団と、大阪からきた野良猫集団の抗争を、小鉄が電信ばしらの上でわいわい言って見物するのです。爺さんネコが縛られて吊るされる場面もありました。あれはクロサワの「用心棒」をなぞっていたのかとようやく知ったわけです。

参照:I love bass,カバー曲シリ―ズ「ガン・クレイジー」
https://ameblo.jp/ryukibass/entry-12590249388.html

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