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ホレタハレタだけで大人の視聴者は満足できるか 社会人が共感できる台詞~新旧『東京ラブストーリー』比較~2話
フジテレビ『東京ラブストーリー』2020。今作の舞台は、東京の広告代理店。1991版は、原作の漫画と同じスポーツ用品店だった。カンチとリカが仲を深めていく過程が「仕事のトラブルを一緒に解決する」というのは、前作も今作も同じ。違うのは、今作が「パワハラ・セクハラ」という会社勤めの多くの人が経験する問題をエピソードに入れているところ。
「私を悪く言うのはかまわないけど、カンチを侮辱するのは許さない」という言葉でカンチが心を動かされる場面は、1991版も2020年版も一緒。1991版は、「赤名は誰とでも寝るだらしない女」「永尾もあんなヤツの相手をして」と先輩社員が言ったことから、鈴木保奈美が中山 秀征を平手打ちする。(第3話)
一方2020年版は、プレゼンの場で石川という先輩社員のプランをリカが批判するところからはじまる。
「ターゲットは自立した女性と言うことですが、自立した女性がわざわざ休みの日に無料のノベルティをもらいにきますかね?」。ですよね。すごく納得感のある台詞。たったひとつのこの台詞を書くために、どれだけの下調べがあったでしょうか。少なくとも何冊かは本を読んだり、経験者にインタビューしたりしたのではないでしょうか。
ある日カンチが石川先輩にプランを提案しにいくと、石川先輩はいきなりブチ切れして、書類をカンチに投げつける。「予算があるのは当たり前なんだよ。五輪案件なんだから」「こっちの仕事増やすようなことしないでくれる!? あーっ」。自分のプランがリカに完敗したことでイライラしているのだ。
また別の日、仕事仲間の飲み会で隣り合った石川先輩とリカ。酔った石川先輩が「赤名さんって本当に空気読めないよね」「分からないかなあ。みんなが迷惑してるの」と絡んでいく。ここで飛び出すリカの台詞が秀逸。
「『みんなが』って言わないで、『自分が』迷惑してるって言えばいいのにぃ~♪」
「永尾もそう思うよな!?」「…くっそ、アイツなんで聞いてねえんだよ」
リカはついに石川先輩の頭にお酒をかけてしまう。この時の石川先輩の顔が最高。お酒をかけられながら大笑い。この後正気に返ってブチ切れるんですが。この石川先輩役の人、なんて役者さんなんだろう。ホント最高…。松尾英太郎さんかぁ~。飯田隆裕さんと同じ劇団スパイスガーデン所属なんだあ。この後大騒ぎになる居合わせた社員さん役のワチャワチャしたアドリブもすごくいいんだよなあ。
私も先輩や上司とエレベーターで乗り合わせた時にこれみよがしに溜息をつかれたり、間接的に「あーっ」と苛々した声を浴びせられたり、「みんなが迷惑してる」「こっちの仕事増やさないで」と言われたことなど、全部経験あるので、「あ~、パワハラの全部乗せしちゃいますかぁ~」と舌を巻きました。
経験があるといえば、セクハラも。
「今日も白いシャツが素敵だね~」と言いながら、胸元を見る取引先の男性。
「方向同じだから、乗っていきなさい」とタクシーに連れ込もうとする男性を制する伊藤健太郎くん。これはキュンと来る!
1991版は、「ファッションショーに提供するスポーツウェアを乗せた車が事故を起こして、時間までに届きそうにない」というハプニングを、リカとカンチの連携プレーで見事解決し、二人は仲を深めていくのですが、2020年版は、より「働く人のリアル」に寄り添うエピソードを散りばめているのです。
「『みんなが』って言わないで、『自分が』迷惑してるって言えばいいのにぃ~♪」。ホレタハレタのすれ違いやドタバタだけでなく、こういうみんなが共感できる台詞を入れてくるところが、2020年版の東京ラブストーリーの魅力なのです。
あ、「みんなが」って言っちゃった。