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特別な人 ~新旧『東京ラブストーリー』比較~5話
フジテレビ『東京ラブストーリー』2020。アマゾンプライムで5話から8話まで一気に鑑賞。意外にも今作で一番共感したのは、三上のクラスメイト、長崎尚子でした。
高田里穂さん! 知的美人。
1991版では千堂あきほが演じていました。(平成版の俳優さんは大御所なので呼び捨てです。あしからず)。
1991版は、こんな流れ。三上が尚子に医学講義のノートを借りるのに、自分の部屋まで届けてほしいと頼み、そこでさとみと鉢合わせする。→大学病院のカフェテリアで三上と尚子が一緒に勉強して妙な雰囲気になっているところをさとみが目撃する。→尚子は三上とバーで飲んだ後、「親の決めた婚約者と結婚なんてしたくない。誰かがさらってくれるのをずっと待ってた。王子様なんていないのにね…」と言い、三上は尚子をそっと抱きしめる。それをさとみが目撃する。→さとみと三上は別れる。なんだか、可愛くて少女漫画みたいですね。
2020年版は、もっとオトナな展開。三上はノートを借りたお礼にと、尚子をお寿司デートに誘い、その晩に関係を持ってしまう。→さとみが盲腸で入院している時に、三上は尚子とバーで飲み、酔いつぶれた尚子をホテルで介抱する。その時のホテルのレシートが三上のズボンのポケットに入ったままで、洗濯しようとしたさとみがレシートを見つけてしまう。→ゼミの会食があるからとさとみに嘘をついて、三上は尚子とレストランで食事をする。そこで尚子の婚約者をわざと見せつけられ、憤慨した三上は家に帰り、そのイライラをぶつけるように、さとみを押し倒して無理矢理抱いてしまう。→さとみは「あの時の私はただの捌け口だった。特別でもなんでもなかった」と言い、カンチの腕の中で泣きじゃくる。→さとみは三上のマンションを出て、二度と帰らない決意をする。こうして見ると、2020年版は、三上がけっこう最低なんです。
それでも、それでも尚子にとっては、三上は特別な人なのです。それは、医大を出て、5年は他の病院で修行を積んで、家の病院を継ぐという親の敷いたレールの上を忠実に歩んできた尚子にとって、三上がはじめて辛辣な意見を投げつけて来た人だったからです。「なんでも親の言う通りにするんだな」と。
だから、尚子が酔いつぶれて「結婚なんてしたくないの。ねえ、したくないの!」と大声で泣きじゃくるシーンは、胸に迫るものがありました。
いつも本心とは逆のことを言う、澄ました表情の尚子が、三上の前ではじめて感情を爆発させる場面です。必見。
尚子にとって三上は、他人に対しても、自分に対しても閉ざしていた心の奥深くに、はじめて入ってきてくれた人だったのです。それなのに、三上にはさとみという彼女がいて…。もちろん、そんな事は一言もいいません。でも、この場面だけで尚子の気持ちが全て分かるのです。圧巻。もしかすると、今作で一番必死なのは尚子なのかもしれません。だから、私は一番彼女に心が動かされました。異性としての魅力だけではなく、自分の人生に影響を与えてくれた人を、人は特別に思うのでしょう。
そういう意味では、原作の同級生3人組は、鮮烈な思い出で結びついています。さとみは自死したクラスメイトに対して、誰も言わないような意見を言って不評を買うが、実はクラスメイトの死を誰よりも悲しんでいたのはさとみだった。同じ意見だったカンチと三上は特別な友情で結ばれるー。
さすがに、いまの時代では自死について科学的な見地が普及しているので、原作のエピソードをドラマにそのまま使うことはできないでしょう。
それでは2020年版では、カンチと三上、三上とさとみの間にどんな特別な結びつきがあったのでしょう? 三上が中学生の頃、万引きして父親に殴られていた時にさとみが「三上くんはそんなことをする人じゃない」とかばいにきた。だから「こいつだけは何があっても俺の味方だと自惚れてしまった」と三上が語る場面があるのですが、それだけではちょっと弱いのではないかなと思いました。
三上はさとみへの言動を反省し、「自分にとって、やっぱりさとみは特別だった」と言って婚姻届けを渡そうとするのですが、さとみはきっぱりと断ります。令和のさとみは悪女でもヤバイ女でもなく、自分を大切にしてくれないDV男とは別れて、自分をもっと愛そうと前を向く、とってもとっても素直でいい子でした。時代の進化という観点で見るならば、リカよりもさとみの方が、「令和」らしいなと私は思いました。