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伏線回収

ねえ、そこ、今から行ってみようよ。

穏やかな冬の日曜に発せられた恋人のことばには、正直なところ賛同しかねるものがあった。我々は朝イチで仕事をしたあとすみやかにうたた寝をし、まどろみのなか私が15年前に参加したプロジェクトの施設について話していた。仕事は人生を語るうえで定番のファクターである。私は笑いと、自負心と、ただ少しばかりの恥と後悔をもってその仕事を語っていた。厳しいスケジュールのなかでベストは尽くした、けれど後から振り返ってみればもっとできたはずだ。一酸化炭素中毒のような思いはローンチ間もない頃から私の心を曇らせ、その場所から私を遠ざからせていた。それを、恋人が見たいという。マジかよ。

完成から15年。訪れてみるとその施設はバリバリ現役であり、カップルや子どもたちがそこかしこで楽しむ姿が見られた。その風景の一部に自分が加わって、どうだったか。これまで想像をしたときは、頭に浮かぶ自分のイメージは良いものではなかった。今ならもっとこうできるのに、もっと楽しくできるのにと悔いる自分ばかりが想像された。

しかし現実はまるで違うものだった。かつての自分が作ったものを、私と恋人はーー彼の心はわからないが、少なくとも私はーー心のぜんぶを使って楽しんだのだ。15年前の私は「訪れた人に、嬉しく楽しく幸せな気持ちになってほしい」と祈りにも似た気持ちで制作に加わった。ロジックもまだ全部頭のなかにある。それでも本当に、種明かしまで全部わかっているのにもかかわらず、心からめいっぱい楽しんだのだ。手をつないで目を合わせてたくさん写真をとって、お互いの反応を見てはゲラゲラ笑い合って。あの頃からずいぶん年をとって、もうすっかり中年であるというのに。

ほんとうに大変な仕事だった。渋谷は道玄坂の裏手にあるオフィスで、毎日夜が明けゆく時間まで仕事をしていた。それを肯定する気持ちはないけれど、いや寝ろよ倒れるぞバカと思うけれど、あの頃の自分に言ってやりたい。あなたは15年後に大好きな人とそこを訪れて、笑いジワがつくくらい笑顔になるでしょう。帰りの電車でずっと楽しかったねと言い続けて、恋人を苦笑させるでしょう。「乗り気じゃなかったくせに」とツッコミを入れられて、言い訳ができずにデヘヘと笑うでしょう。あなたの未来はドチャクソいろいろあって泣いたり泣いたり泣いたり笑ったりするけれど、まとめると概ねしあわせに暮らしています。

きっと今の仕事についてもそうなのだろう。もっとできるはずだと思うこともある。それでも、今の実力以上のベストは尽くせないし尽くそうとすればおかしなことになる。それでもやるんだという気持ちが大事であってーーそして人生というものは本当に、思わぬタイミングで伏線が回収されるものだなと思ったり、するのだった。


2019年上半期の占いが本になりました。


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真木あかり
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