“天才”に、15年前の私が救われた話
「皆さま~!おはようございます!天才……横山でございます!」
火曜日から金曜日の朝9時。このセリフ、この声を聴きながら仕事を始める。
最初のうちは、「天才……?」と思ったり、あまりにも毎日同じトーンとリズムで「この声って録音?」と本気で思ったりしていたが。それはまごうことなき、RCCアナウンサー・横山雄二さんの生の声だった。
平成ラヂオバラエティ『ごぜん様さま』は、2003年3月からスタートしたラジオ番組。広島のRCC中国放送から、月~金の9時~11時55分まで放送されている。
そのパーソナリティーとして火曜~金曜を担当するのが、横山さん。
パートナーとなる女性アナウンサーは3名。
火曜担当・唐澤恋花さん
水曜担当・中根夕希さん
木&金担当・渕上沙紀さん
笑いあり、
涙あり、
下ネタあり、
会社(RCC)へのガチの文句あり。(面白い)
東京ではコンプラ違反で無理です!と言われている横山さんの、愛あふれる毒舌が大好き。『ごぜん様さま』リスナーは、どんなに毎日メールを読まれる人でも平気でイジられるし、時には「バカじゃねーの!」なんて言葉もかけられる。
それでも日々メールを送り続けるのだから、ドMとしか言いようがない。それは横山さんも実際に仰っているし、リスナーも実感していると思う。
かく言う私もドM。せっせと番組へのメールを打ち込みながら、ああでもないこうでもないと試行錯誤する。読まれないときは本当に読まれないけれど、だいぶコツをつかんできたように思う。
私が『ごぜん様さま』を聴き始めたのは、2022年の夏。
番組の存在は知っていたけれど、ラジオというツールにはまだあまり馴染みがなかった。
在宅仕事のかたわら、なんとなく静けさがさみしく感じてApple Musicで音楽を聴いたり、テレビをつけたり。でも、音楽はスマホの電池が爆裂に減るし、テレビはついつい見てしまうので仕事にならない。
そんなときに夫に勧められたのが、ラジオだった。
仕事の現場でラジオを聴くことが多い夫は、たびたび『ごぜん様さま』のことを話す。radiko(ラジコ)という、ラジオ放送が聴けるスマホアプリを教えてくれたのも夫だし、番組の面白さを教えてくれたのも夫だった。
さっそくradikoをダウンロード。最初に聴いたのは『ごぜん様さま』の直前に放送している、同じくRCC中国放送の『本名正憲のおはようラジオ』という番組。なんだか、懐かしい感じ。軽快な話し口で、さまざまな新聞の記事を拾い読みしている。本名さんの声がいい、声が。
そんな『おはようラジオ』の中で、『武田鉄矢・今朝の三枚おろし』という10分間だけの番組が放送されている。ここで使われているテーマソングは、今すぐピアノで弾けるほど何度も何度も何度も聞いた曲だった。
そうだ!オカンが聴いてたんだ!
『ごぜん様さま』を聴く前に、がっしりとラジオに心をつかまれた瞬間だった。小学校6年生くらいのときの記憶がぶわーっとよみがえる。朝、出勤前にメイクをしながらドレッサーの前でオカンがラジオを聴いていたな、そういえば。そこでこの曲、かかってたわ。
そんなことを思いながら、『ごぜん様さま』を聴く。手元にはパソコン、目はしっかり画面を見ている。こうして、ラジオを聴きながら仕事をするというスタイルが始まった。
そして、冒頭のセリフ。毎日、毎日、毎日「皆さま~!おはようございます!天才……横山でございます!」を聴く。朝が始まる。
聴き始めて1か月も経たないうちに、メールを送ってみた。
ラジオネームは高校生のときのニックネームだが、今になって後悔している。平均20万人以上が聴いている(ごぜん様さまの平均聴取率は2023年8月17日の発表で4.6%、RCCの聴取率1%は約46,000人)という地元の番組で、知り合いが聴いていないわけがない。
でも、やってしまったものは仕方がない。そしてもし、万が一でもこのnoteをリスナー仲間が見たら……どうか、触れないでいただきたい。すみません。
で。
ラジオでの初メールは読まれる可能性が非常に高い。ビギナーズラックというものか。そして読まれる。浮かれた私は次の日も、また次の日もメールを送る。メールを書く番組数も増やす。1つの番組に送るメール数も増やす。
うーん、仕事にならん。
仕方がないので、プレゼントクイズに応募するメールとは別に1通だけ、というルールを作ってラジ活することにした。(現在このルールは破られている)
聴いているうちに、リスナーさんのことが少しずつわかってきた。ほぼ毎日メールが読まれる人がいる。どんな部分にも差し込みやすい文章量だったり、内容だったりするんだろう。自分のことをひけらかすように書いた私のメールが読まれる確率は、まちまちだった。
ラジオを聴き始めてからすぐ、番組のCMで「番組モニター募集」を知った。
ラジオだけではなくて、RCCのテレビ番組を含めて視聴し、感想を送るというもの。今まで何度もテレビCMでモニター募集という文字を見てきたけれど、応募しようとすら思ったことはなかった。
あ、と思ってすぐに応募した。
応募フォームには、1つの番組をピックアップして感想を送るという試験的なものがあったけど、ここで受からねば物書きの肩書が廃るなんて思ったり思わなかったりしながら、なんとか合格した。
半年間、決められた日時の番組を聴いてはレポートを提出して、1か月ごとに謝礼をもらうというモニター作業。初回のレポートを提出したときに、
と、メールをいただいた。(担当者さんスミマセン本当にそのまま載せてます)
泣いた。
半年のモニター期間、いろいろな番組を見て聴いて、書いたレポートを添削していただいて楽しかった。報酬をいただいている以上は仕事になるのかな。それでも普段やっている仕事とはまったく違う感覚で文章を書いて、添削していただいて、趣味のブログとも仕事の記事作成とも違う、今までにない感覚。
仕事のお供としてラジオを聴く、というのが当初のスタンスだったはずなのに、もはやラジオが仕事になっている。とても楽しくて、モニター期間が終わっても、朝から子どもたちが帰ってくる夕方までラジオを聴くことが習慣づいた。
そんなある日のテーマ。
『ごぜん様さま』は「ごぜん様会議」というリスナー参加型のコーナーで週間テーマが設けられるのだが、そのときは「新人奮闘記」だった。
私は、「主婦としての新人奮闘記」についてメールした。
私21歳、夫は20歳で結婚したが、それまで洗濯機のボタン一つすら押したことがない状態での結婚。まあ~~~それはそれは甘やかされて育ったし、傍から見ればおままごとのような結婚だったと思う。
揚げ物とか、頑張っちゃうじゃない。でもね、揚がったトンカツも唐揚げも、中はピンク。煮物は硬いか、醤油辛い。
食に対して大雑把すぎる私と、そうではない夫。ハタチそこそこで大黒柱になって仕事して、周りは遊んでて、疲れて帰ったらこんなメシ食わされて。自分が選んだ道とはいってもそりゃ、爆発するよね。
でも、やったことないんだしわかんないよー!って毎日半泣きになりながら、長男をお腹で育てながら、ご飯は必ず作った。お惣菜を並べてお疲れ様!って笑顔で夫を迎えられたかもしれないけど、あの当時なぜかお惣菜にはほとんど頼らなかった。
そんなことを思い出しながら、若かったな~アホだったな~って、ネタの一つだと思って『ごぜん様さま』にメールした。
横山さんはきっと、このメールを聴きながら「計画ナシに結婚するからだよ!」とか「ええ~~嫌だ~!」とか言うかなって思ったんだけど。河村さん(当時の木・金曜パーソナリティー)が私のメールを読み終わったあと、
と、横山さんが仰った。
第一声の「でもえらいねえ!」で、15年前の全私が救われた。
読まれた~!とウキウキしながら河村さんの声を聴いていた私は、横山さんの「えらいねえ」を聴いた瞬間に涙していた。たった一言を聴いて、ぼろぼろ泣いた。びっくりするくらい勝手に涙が出た。
15年近く、ほぼ毎日料理を続けていれば、否が応でもスキルアップする。今では夫や子どもたちが食べたいと言ったものは一通り作れるし、おいしい!と褒められる。
でも、あのときはそうじゃなかった。うまくいかない、おいしくない、申し訳ない、ネガティブな気持ちに苛まれてしんどい時期だった。夫が作ればいいじゃんと言われそうだけど、妊娠中とはいえ専業主婦の私は、飲食店勤めで長時間働いて帰ってくる夫に作らせるのはどうしても嫌だった。
夫は快くやってくれる。実際、妊娠後期に切迫早産になって1週間入院したとき。退院後も1か月はほぼ寝たきりの私に代わって、帰宅後に洗濯機を回し、夕飯を作り、掃除をしてくれた。
だから当時の私は、自分のおいしくない手料理を食べさせる罪悪感と、夫に家事をさせたくないという自分のワガママで、勝手にずぶずぶとネガティブな沼にはまっていた。私の悪い癖だ。
そんなもやもやした時期をなんとか乗り越えて、今に至る。10年以上前のことを人様に「えらい」と褒めていただけるなんて、思ってもみなかった。しかも、ラジオで。友達でも、家族でもない人に。
ひとりよがりだけど、どうしてもお礼が言いたくて横山さんに会いに行った。
こう書くとストーカーしたのかと思われそうだが、『ごぜん様さま』は約3時間の放送中に2回、5分間のニュースが挟まれる。その時間に、横山さんはスタジオを抜け出してRCC外の喫煙所へ行って、タバコを吸う。このわずか5分(×2回)の時間に、リスナーが横山さんを目指して会いに行く。これが『ごぜん様さま』名物「横山詣(よこやまもうで)」だ。
私も何度か横山詣に行った。日中動ける仕事でよかった。在宅仕事をやっていて感じる最大のメリットではないか。子どもが病気で学校を休んでも支障ない、そして思い立ったら横山詣にすぐ行ける。
実際に会った横山さんは、どんな人にも絶対敬語で、丁寧に接している。当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、とにかく「丁寧さ」が際立つ人だった。複数のリスナーさんがいても、必ず全員と話して、丁寧にありがとうございますと声をかけてくれる。
ちなみに、横山詣に行くとこのステッカーが1枚もらえる。日替わりで、まだ持っていないものがあるのでコンプリートしたい。なんとこのステッカー、横山さんが自費で作っている。
そして2023年末、その年最後の横山詣に行ったとき、差し入れとともに手紙を渡した。ここに書いたようなことを。2分もあれば読めるくらいの手紙。それでも、多忙な方の時間を少しでも取らせてしまうのはどうなのかと、渡すのを悩んだ。お礼って言ったって私の勝手だし、会いに行ったとき口頭で伝えれば良いのかもしれない。でも、渡した。
読んでくださったかどうかはわからない。休みなくあちこちを駆け回って人に会っている横山さんだから、数回横山詣に行ったくらいでは「○○です!」と言っても、ラジオネームや顔を覚えてもらうのは難しい。番組内ではもう何十回もメールを読んでいただいているが、手紙を渡した人物と一致しているかどうかはわからない。
でも、受け取っていただけた。そして、おそらく読んでくださっただろう。
この先、また横山詣に通って顔と名前を完璧に覚えてもらえたら、そのとき手紙のことを伝えてみようと思う。
それから今も、私は『ごぜん様さま』を聴いている。
「皆さま~!おはようございます!天才……横山でございます!」
天才の声で、朝が始まった。