スタートライン 21(小説)
どんな店がいいか?どんな店でありたいか?これから何をする?何をしたらもっとお客様に楽しんでいただけるのだろう?店で話し合っている話題に自然となった。このメンバーになってから何度も意見を交換してきた。それぞれの理想を語り、それを成し遂げるには何をする?と具体的な話もする。
何故こういう話をしているかというと、店が再生へと大きく舵をきっているからだ。
在籍するスタッフが自分だけを残し、全て代わった。四人がやめ、そのうちの二人が独立した。美容室みたいに担当制を採用していた為、お客様がその二人の店に移籍したり、足が遠退いたりして、その結果お客様が大幅に減ってしまった。さぞかし周囲からしたらピンチに映っていただろう。無理もない。よく通っていただいていた顧客がごっそりと独立したスタッフの所へ行ってしまったのだ。しかしこれは快く見送った。店を選ぶのはお客様だ。どこでもダイビングを続けてもらえたらいい。そりゃあ自分の店に通い続けて欲しいが、お客様には選択の自由がある。独立は認める方針で、いつかはあるだろうと考えてはいたが、二人同時というそこまでの想定は出来ていなかった。しかし、独立したいという気持ちは認めてあげたかった。自分が独立する時に嫌な経験をしていたので、同じ思いにさせたくはなかった。例え認めた結果ピンチになろうともだ。完全独立を認め、移りたいお客様も全て認めた。明らかに店のお客様が減少して売上も下がるが、店を再生させるいい機会だと考えを改めた。
売上の減少は予想を越えた。独立したスタッフの店へ行ったお客様の講習のキャンセルもあった。しかし、絶望はしなかった。苦しいが、これで良かったとさえ思った。失ったものより、今あるものに目を向けた。そして、今なら理想とする店へと再生出来ると考えていた。
理想の店とは何か?
それは、一生、一緒に楽しい時間を過ごせる場所だ。みんなの心の拠り所となる店だ。一度きりの人生で、出会えた縁を大切にしたい。ダイビングを通じてお客様と楽しい思い出を沢山作りたい。
生きていたら嫌だけど、シンドイ事あるし、悲しい事もある。みんなきっと何かしらそういう経験をしたり、いろんなものを抱えて生きている。だからこそ、心の拠り所となる場所を作りたかった。一人じゃない、みんなの場所。だからこの場所を大切に守りたい。孤独な人を救いたい。ダイビングは点数もないし、勝敗もない。みんなでキレイな景色を見たり、かわいい生き物を見たり、沈船や洞窟にはいってワクワクしたり、プカプカ浮いて癒されるスポーツであり、そういう時間をみんなで経験する遊びだ。点数もなく、勝敗もない世界。楽しいし、心地いい世界。大好きな世界。今の世界はそうではない。けど、同じ世界にこうやって僕の生きやすい世界がある。この世界をもっと知ってほしい。肯定される世界。僕はみんなを肯定したい。同じ地球の中だけど、ダイビングしないとわからない。この世界、僕は大好きだ。二十歳からずっと夢中だ。人生の軸にしてもいい!と思う世界。
ダイビングしなくても生きていけるけど、僕にとっては欠かせない存在になっている。それは海もそうだけど、やっぱりみんなの存在が大きい。ダイビングしなかったら出会えなかった人が沢山いる。この縁をずっと大切にしたい。縁って当たり前じゃない。繋がりたくても繋がる事って難しい。沢山の人がいるこの広い世界で、仲良くなれるってどれだけ奇跡なんだろう。まだまだ生きて、みんなと楽しい思い出いっぱい作りたい。僕は思う。そして、こう思えるこのダイビングを広めたい。