スタートライン 14(小説)

 ダイビングを終え、服に着替えると僕達は食事をとった。メニューは釜シラス丼。大盛にしてもらったが、おいしくて一気に全てを胃に納めた。その席には記者も同席し、食事をすますと、高木さんへのインタビューを実施し始めた。記者が様々な質問を投げ掛けるが、高木さんは一つ一つの項目に対して丁寧に答えていった。
 質問の中には「今回のダイビング、いつものダイビングインストラクターとのコンビではなかったり、講習大変だった印象があるのですが、感想としてはいかがですか?」という僕にとって耳の痛いものもあった。席は近くではなかったが、声はこちらにも届いている。内心、きっと「大変だったし、しんどかった」という言葉が出るよね、と気分が落ちながら、聞きたくないが聞かなければならないと、僕は耳をすまして続く言葉を待った。そしたら、彼の回答は予想したものではなかった。

「うーん、大変な事もありましたが、そんなのわかっています。それより、これを、この障がいがあってもダイビングが出来るというこの活動を広めてほしいので、しんどいとかはないです。これからの活躍に期待しています」
 己の耳を疑った。まさか、という言葉だった。至らない点があったのなんて十分理解しているし、それを指摘する権利を彼は有している。指摘していいし、そうした所で誰も非難などはしない。当然そうするものと僕は思っていた。けど、彼はそれをせず、こんな僕に期待してくれている。これで胸が熱くならない人間などいるのだろうか?これです。この彼の言葉が、ハンディキャップダイビングを広めたい!という僕の原動力になった。
 彼が僕の人生に影響を与えた。だから僕は色々あっても続けている。後で書くが、それはないでしょ?というようなこの活動をやめたいと思う出来事があってもやめなかったのは、この時の彼の言葉が大きい。優しくて、人間として好きなこの人の為にも頑張りたい。

 僕がこれまで出会ったハンディがある人は「出来る事」と「出来る理由」を探す人が多い。「出来ない事」と「出来ない理由」を探す時期もあったかもしれないが、「楽しい事」や「好きな事」をした方が楽しいからという理由、僕もそうだから完全同意しています。どっちを探してもいいし、目を向けてもいいですが、出来る事と出来る理由を探す人が好きです。だからこそ、そういう人たちを受け入れる場所の1つでありたい。
 パラリンピックが認知されてきているから、障がいのある人もスポーツを出来る所はどんどん増えてきているのでは?と思っていたが、まだまだそうはないらしい。ダイビングも、まだ関西では僕の店しか受け入れていない事実がある様に、他のスポーツもまだまだそういう場所は少ないらしい。だからこそ、尚更続けたいと思っている。

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