【商品開発秘話-4】金型に樹脂を初めて流してみたトライの話。
前回投稿から随分と開いてしまいました。しばらく投稿していなかったので「もうこの活動やめちゃったのですか?」と思われていそうですが、ジットリと続けています。第一弾として発売したmomo Rice Plastic Plateに加え、現在(2024年10月末時点)は第二弾のovo、続けて第三弾のワークショップ、とプロジェクトが展開&変容しております。
元々お皿を作った当初では想像していなかった気づきや出会いがあり、続けるために変化し続けてきました。大体的に、というよりは、よりより尖った方向に進んでおります。
前回記事から時間が経ち、案の定忘れてしまったこともすでにたくさんありますが、思い出しながらmomo Rice Plastic Plateの商品開発秘話を再開します。
前回の記事では、新潟三条市の金型屋さん・一成モールドさんにて金型製作に着手してもらったところまでを書きました。人生で初めてのマイ金型。一般的に金型を起こすのはとにかくお金がかかる、と言われています。私もメーカー勤務時代に設計者から「金型掘ったら後戻りできないから外装デザイン上の失敗は許されない」と良くアドバイスを受けていました。修正はできるけど内容によっては膨大な修正費またはやり直しになってしまうことがあります。
今回は費用は私の持ち出しです。うまいかなかった場合の費用を考えると胃がキリキリと痛みます。が、金型屋さんを信じるしかありません。
金型が掘り終わったという連絡を受け、いよいよトライに移行することになりました。トライとは、切削加工してもらった金型に本番で使用する樹脂を流し込むテストです。今まで試作した3Dプリント品とはまるで違う、本番同様のものが出来上がってくる瞬間です。
この目で見ない訳にはいきません。造形担当のデザイナー、kj_making氏を誘って2022年8月、新潟へ向かいました。
燕三条駅から一成モールド・氏田さんの車に乗り込み、燕市内にある射出成形工場・藤田化成さんを訪問しました。
藤田化成のアトツギ、藤田さんに初対面し、まずは既にトライしてもらったサンプルを見せてもらいました。形状は全く問題なし!さすがだと感激しましたが、藤田化成さんにとってもライスレジン®︎の量産は初。普段工場でよく使っている材料とは異なるため、成形時の不具合などが起こり、様々な調整をしていただいていたようでした。
また今回の企画、momo Rice Plastic Plateは「子育て中のファミリーに気楽に使ってもらいたい」という思いがあったため、家庭用電子レンジや食洗機での使用に問題がないか事前に検証してもらいました。
電子レンジでの利用は当初から概ね問題はないだろうという見解ではありましたが悪条件が重なると不具合が起きることもわかりました。
下の写真はカボチャの天ぷらを過加熱した際のお皿の状態です。過加熱とはいわゆる加熱しすぎの状態。『500Wで1分』など食品を温める数値的な条件を大幅に超えて加熱するなどして食品自体が過加熱により美味しく食べられる範囲を超え、変質してしまった場合を指します。
天ぷら自体も衣がカチカチになり、お皿に設置していた面は焦げてお皿に張り付いてしまいました。実験の結果、油分+糖分+加熱が一定基準を超えると不具合が出ることが分かりました。普段からプラの容器を電子レンジに入れないで、という表記を他社製品でも見かけますが実際にこういうことになってしまいます。今回の実験結果をもとに製品に添付する取扱説明書にもしっかりと取扱注意を明記することが不可欠だと認識しました。
過加熱でのお皿への影響も気になりましたが、販売者である私としてはお皿の外観も気になっていました。下の写真は別の日に撮った写真。透明感もあり不思議な雰囲気があるもののどうも魅力的には感じる方向性ではない。医療用の食器みたいで、子育て中の若いファミリーが使う感じがない。このままでは「正直売れる気がしない」と感じてしまいました。環境に配慮した材料を使って、電子レンジにも入れられて、子供にとっても使いやすい造形でお皿を作りました、という機能的な価値は満たしているけれど、感性的な部分はまだ及第点に到達していない、そう思いました。
悶々とした思いを抱えたまま、藤田化成さんの工場に移動しました。工場区域内には大型の射出成形機が所狭しと並び、スタッフさんたちがひっきりなしに生産を行っていました。藤田化成さんでは普段から金属製の調理器具の一大産地にあるということもあり、おたまなどの調理器具の樹脂パーツを製造しています。
工場真ん中に置いてある年季の入った大型成形機が今回のトライ用です。藤田さんが慣れた手つきで機械を動かしていきます。毎回工場見学に訪れるたびに思うのが機械を動かす人の格好良さです。家庭にはない大型の機械を慎重にキビキビと取り扱う姿には惚れ惚れします。
成形機の熱が上がっていくとだんだんお煎餅を焼いているような香ばしい匂いが立ち込めてきました。ライスレジン®︎はお米で出来ているためそのようになる、ということは材料メーカーからも聞いていましたが実際に体感するととても不思議な感覚でした。
また機械の中でライスレジン®︎を加熱しすぎると本当にお煎餅のように焼けた濃い色に変化していきます。焼け過ぎた色を見たときに、これはこれで面白い!と興奮しましたが、工場側としては個体差も大きいため、量産性はありませんとのこと。ただ魅力的ではあったのでサンプルとして持ち帰らせていただきました。
また上の写真の右下に写っている塊はダンゴと言って(パージともいう)成形機の調整時に必ず排出されるもの。このパージもまぁまぁの数が毎回排出されます。焼けなどで変質してしまったものは基本的に廃棄するようです。これもなんだかもったいない、と思ってしまい持ち帰らせてもらうことにしました。
デザイナーは工場では普段捨てられてしまう、とか使い道がないものに異様に興味を示す傾向があります。帯同したkj_makingも同様に、端材を見て「これってこういう活用はできないのですか?」としきりに質問をしていました。工場経営者にとっては捨てた方が効率な良いものに対し、工業デザイナーは食い下がる。
私もkj_makingも工業デザイナーです。新製品は新品の材料を使います。momo Rice Plastic Plateも新品で衛生管理が行き届いた、ライスレジン®︎を使っています。
しかし、ライスレジン®︎のような環境に配慮した材料を使っていること、とそれを作り出す工程の中でロス(廃棄)が生まれることに矛盾を感じるのです。製品を作る際に廃棄物が出ないなんてことは不可能に近い、効率が悪い、合理的ではない。でも、工場を見学したことで見えたロスという存在を無視してはいかんよなぁ、と思いながら工場を後にしました。この思いはのちのmomo Rice Plastic Plate材料循環プロジェクトにもつながっていきます。
お次は三条市の金型屋さんの一成モールドに移動しました。
移動中に見た、稲の緑が風にそよぐ美しい景色に心打たれていました。この写真は私のPCのデスクトップ画像にも設定しています。とても癒されます。
真っ白な外壁の一成モールドは燕市から三条市に移転して建てられた、比較的新しい工場。主に車関連の部品や食品関連のパーツを作るための金型製作を行なっています。
初訪問時(2022年8月)の一成モールドはまだ自社製品もなく、守秘義務厳しい金型を預かるお仕事がメインだったため、工場内で写真撮影できるものはあまりありませんでした。保有機材はとても良いものが揃っており、工場内もクリーンで安心してお仕事を任せられる状態ではありましたが開発に意欲的な雰囲気はこの時点ではありませんでした。私が普段から開発型の町工場とお付き合いしているから、視点が偏っているだけなのですが。
2024年10月現在、一成モールドは自社製品開発を通じ新潟県内でも開発型メーカーとして存在感を発揮しています。また多種多様なクリエイターや事業者との共創を果たし、オープンファクトリーに参加するまでに躍進しております。一成モールドの成長ストーリーはまた後日書き綴りたいと思います。
燕三条での協力工場視察を終え、帰路につきながら、またmomo Rice Plastic Plateの外観・色味について頭の中でぐるぐる考え始めていました。しかし展示会出展は1ヶ月後に迫っています。あまり悩んでいる時間はありません。デザイナーkj_makingに頼れる時間も限られています。
「食事が美味しく見えて、かつ使用してて心地が良い色味に変えよう」
そう判断し、momo Rice Plastic Plateに食器製造用の顔料を添加することにしました。
今思えば、当初はライスレジン®︎そのままの色味で成形することにこだわり過ぎていました。環境配慮であるためには着色はNGであるという視野狭窄に陥っていました。ですが、まずは「使いたくなる製品である」ことが大事だったなと思い返し、急ピッチで色味を確定し、成形が間に合わないかもしれない状況を考慮し、展示会に向けて塗装での色味出しも同時に行いました。
協力工場の対応力に助けられ、どうにか成形品も間に合い、いよいよ初お披露目へと突入します。しかしこの後の展示会・ギフトショーでの来場者からの反応に、momo Rice Plastic Plateの販売を当面見送ることとなったのです。
続く