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四国歩き遍路日記 31日目 44番~45番
3月23日
4時20分に起き、NHKの「小さな旅」を見ながら支度をする。青森の十三湖の話だ。黒いダイヤと言われるしじみがブランド化したおかげで、男たちは出稼ぎに行かなくてよくなったらしい。
5時40分出発。今旅初の5時台出発である。宿を出ると、まだ空は暗くそして寒い。津軽の寒さはこんなもんじゃねーと思いながら歩いていく。
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昨日歩いた道を1キロほど戻り、県道42号に入る。
三島神社を過ぎ、山道を登っていく。このあたりは畦々(うねうね)という地名みたいだ。どういう由来なんだろう。途中、軽トラに載ったおっちゃんからいよかんをいただいた。
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下坂場峠を越え、今度は下りになる。ここで調子こいてどんどん下っていったら久しぶりに右膝が痛みだしてしまった。やはり自重しなければならない。
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集落を抜け、また峠道に入っていく。今度は鴇田(ひわだ)峠だ。途中、四国、秩父、西国、坂東の満願を記念した石碑が建てられていた。大正2年に、四国の人がこれだけの霊場を回ることは確かにすごいことだ。自分は秩父は達成済みだが、さすがに西国、坂東まではまわる気になれない。
なんとかかんとか鴇田峠を越え、10時前に久万高原に到着。出発してから4時間なのでだいたい予定通りである。
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当初の計画ではまず今日泊まる宿に荷物を置いて、その後44番と45番をまわる予定だったが、地図で見ると44番が思ったより近そうだったので先に寄っていくことにした。
しかしこの判断が失敗で、44番まではずっと登り道だったので、登って下りた分けっこうな時間と体力がムダになってしまった。
44番大宝寺の納経所は悪い評判で有名みたいだが、俺が行った時もわざわざ喧嘩売ってるのかと思わせるくらいの酷さだった。あんな横柄な態度でも、八十八ヶ所の一つというだけでいくらでも人は来るのだからいい御身分なものだ。
そして、宿に荷物をおいて今度は45番を目指す。この辺り、先の件も含めちょっとした嫌なことが重なって、テンションはだだ下がっていた。車がぶっとばしてくるのに歩道がない嫌な道もそれに拍車をかける。
その上、これから往復5時間なのである。ただただかったるいと思いながら歩いていく。
途中から遍路道に入り、いよいよ難所と言われている八丁坂へ。
確かに最初はキツイ登りで、ひいひい言いながら登っていったが、後半は歩きやすく気持ちいい山道になっていく。
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そして、静かな山道を降り積もった落ち葉をサクサク踏みしめながら歩いていると、さっきまでのクサクサした感情は消え去って、いつのまにか晴れやかな気持ちになっていた。なんだか峠道に自分の感情を救われた気分だった。
俺は今までこうした峠越えの遍路道を嫌っていて、トンネルがあるのになんでわざわざ体力を消耗させる選択をしなきゃいけないんだよと思ってきた。1300キロも歩かないといけないのに、本や口コミで、景色がいいとか雰囲気がいいとかハイキング的なノリでいちいち峠道を推奨してくることに反発さえ覚えていた(まあそもそも歩き遍路なんてこと自体が壮大な非効率なのだが)。
しかし、ここにきてようやく、そういった自分の中の変な意地と和解できた気がした。
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そして、とうとう45番岩屋寺に到着。山門の手前にでかい木と岩肌があり、パワースポット的な趣である。逼割(せりわり)禅定という巨大な岩の裂け目があって、昔の修行僧はここを登っていたらしい。つーか、今でも寺に言えば鍵を貸してくれるので登る人がいるらしい。
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本堂の横にも長いはしごを使って岩窟に登るところがあり、そっちは登ってみたがなかなか怖かった。
納経を終えると、14時半ごろ。ながーい階段を下って寺を出て、今度は12号をひたすら歩いて戻る。
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途中、昨日同宿で俺と同じルートを歩くと言っていた人とすれ違う。やはり時間的に厳しかったそうで、これから岩屋寺に行き、帰りはタクシーで帰るとのこと。
俺は後は帰るだけだとひたすら歩いていると、ここでまさかの雨。よりによってザックがない(雨具がない)時に降ってきやがってと思っていたら、トンネルを越えるとちょうど遍路小屋があった。
そこでしばらくの間途方に暮れていたが、その内止んでくれたので再出発する。
宿に帰る前にコンビニに入り、飯を買って外に出ると、今度はもっと大降りの雨が降っていた。しばらく待っていたが一向に止む気配はない。仕方がないので、土砂降りの中、宿まで数百メートルの距離を走っていった。この「ランニングシューズ」で初めてランニングしたのであった。
17時10分に宿に到着。
冷たい雨に打たれて体は冷え切っていて、腹もかなり減っていた。ヒーターの前であぐらを組んでガツガツ飯を食って、ようやく一息着くことが出来た。なんかこう生きているという感じがした。
今日は一日寒く、高地だからかと思っていたが、全国的にも寒かったらしい。
11時間半の長丁場だったが、何はともあれ無事乗り切ることができて良かった。本当にやれるか不安が大きかったが、峠道もそれほど苦戦しなかったし、人並にハードな行程を歩ききることができて自信にもなった。
19時39分 泊:一里木(素泊4000円)