IAAP 統一思想研究会に参加して
去る2022年10月31日、IAAP統一思想研究会がオンラインで開催された。
キーノートは『共生主義としての福祉国家論~エスピン・アンデルセン福祉国家の三類型の批判的考察~』と題され、福祉を専門とする大学講師が福祉政策について、統一原理、統一思想からのアプローチを行う画期的な内容だった。
細かい論理の組み立てについては割愛させて頂くが、講演者の結論としては、理想的な国家モデルは、デンマークの課題を克服した社会民主主義レジーム型の福祉体制だと主張した。
1.IAAP
IAAPとは、International Association of Academics for Peaceの略で、世界平和学術人連合のことである。2020年2月、韓国・ソウルにて創設された。
国連経済社会理事会の総合諮問資格(カテゴリー1)を有する国際NGO団体である天宙平和連合(UPF, Universal Peace Federation)は、IAAPの上部団体であり、創設者はUPFならびに宗教法人世界平和統一家庭連合(家庭連合・旧統一教会)と同じく、文鮮明、韓鶴子総裁である。
UPFは7.8安倍首相銃撃事件以来、旧統一教会関連団体だとして、全国的にすっかり有名になっている。
IAAPはUPFの6つの担当プラットフォームのうち、学術分野を担当する団体として発足した。
統一思想研究会は2022年3月に国内で始まった。
米ソ冷戦時代に於いては、かつて国際勝共連合が活動のベースとしていて、統一思想の実践的な思想である「勝共理論」があった。
しかし冷戦は集結後、勝共理論が不要となったというわけではないが、共産主義の批判と代案を超えて、神の真の愛を中心とし、左右のイデオロギーが一つに統合され、ひとつの政党や、ひとつの宗教に資する以上に、国家、またすべての人類に資する平和社会を創建していくための思想にバージョンアップさせることを目的としている。
2.共生主義
主題にある「共生主義」とはいかなるものかということをまず前提として解説しておく。
家庭連合(旧統一教会)の教典が『原理講論』だと言うことを耳にした事がある人は少なくないはずだ。
原理講論は統一原理という教義を紹介する教典であり、すべての思想のベースとなっている。統一原理、統一思想、勝共理論の関係性を以下の図にしめすが、すべての思想のベースになっているものが統一原理であり、原理講論となっている。
「共生主義」とは原理講論に掲載されている「共生共栄共義主義」の中で所要や経済についての分野を定義している。
前置きとして共生共栄共義主義の概要を3つの観点で紹介する。
①人体をモデルとした理想社会
統一思想によれば、神はまず、子女としての人間を先に、神ご自身をモデルとして設計をし、その上で人間に必要な環境を、高次元から低次元なものを人間を標本に設計したとされている。
創造はその逆の経路で行い、低次元な素粒子、原子から創造を行い、人間の創造を最後に行った。
すなわち、人間が作り出す理想社会は自ずと人間が標本となっているべきである。
「共生共栄共義主義」とは、理想社会、天国社会の姿である。我々一人ひとりは一つひとつの細胞であり、臓器であり、他の組織のために生き合いながら、社会全体に貢献し合う有機体であると定義している。
昨今では情報通信技術が完成形となってきており、地球の裏での出来事が、あたかも神経系がその痛みを全身に伝える様に瞬時に伝わる。そして愛によってその彼らの痛みが自らの痛みとして感得できるようになっていることを見ても、我々は理想社会に近づきつつあると言えよう。
②共生共栄共義主義より先に共産主義が台頭
前述の統一原理では、堕落によってサタンに奪われた世界を神の側に奪い返していく過程が現在までの人類歴史であると定義している。それを復帰歴史と称する。
復帰歴史の終末に於いては、無神論、唯物論、唯物史観を主唱するサタン側の理想世界である共産主義が、天の側の社会主義をモデルとして先んじて台頭してくる。その後に人間の本心の欲求によって現れてくる天の側の社会主義社会が共生共栄共義主義である。
③左右のイデオロギー統一
共生共栄共義主義が出てくるようになる前には、キリスト教文化圏中心の自由主義陣営が共産主義の陣営に三次の世界大戦を通じて屈服させなければならない。米ソ冷戦下であっても、世界中で既に1億人以上もの命が犠牲となった。理想世界の建設の前に自由主義と共産主義の統一は避けて通れないと原理講論では述べられているが、武力による統一か、理念による統一かは人間の責任分担によるとされている。
いずれにせよ、共産主義者が衷心から納得がいく理念である必要がある。共生共栄共義主義は、共産主義から憎悪を取り除き、自由主義からは自己中心を取り除き、双方の止揚統一を図る。
3.3つのレジューム
話を冒頭に戻すが、今回のキーノートでは、共生主義のモデルを分析するにあたって、エスピン・アンデルセンの著書『福祉資本主義の三つの世界』における、3つの福祉国家体制を紹介していた。
社会民主主義レジーム→北欧型福祉国家
自由主義レジーム→アングロサクソン国家
保守主義型レジーム→ヨーロッパ大陸国家
この内、家庭連合が目指す共生主義社会に最も近いのは1の社会民主主義レジームであると述べた。
前提として、「高度な福祉国家」が共生主義であり、現在ではデンマークが最も理想的な形で政策に適用されているとした。
4.デンマークの課題
しかしデンマークにも重たい課題を現に有していた。
高い福祉負担を賄うために、極端な生産効率化が必要不可欠となったため、宗教的なものを廃する傾向にあり(脱魔術化)、またある程度働かなくても長期間生活が保証されるのも相まって、倫理観の崩壊や、うつ病患者も増加傾向にあり、さらに家族制度が脆弱化も進んでいるとのこと。
5.結論と感想
上記は骨子しか記載していないが、実際はかなり骨太のキーノートであった。終わりに、デンマークが政策として浸透させている社会民主主義レジームに、宗教性と家族主義を融合させたものが、家庭連合が目指す「共生主義」であると結んだ。
私は福祉は全くの専門外であるが、専門の講師から学べて非常に良かった。
高福祉、高負担を補うための高生産性も必要であると同時に、その動機である「ために生きる精神」をいかに国民に意識づけるかが非常に重要であり、その土台となる宗教や家庭の役割を疎かにしてはならないと感じた。
国家と国民は一体不可分の関係であるが、国家は国民の生活、健康、領土、財産を保証しなければならない。いわゆるこの右側の矢印が福祉のことであるならば、左側の矢印で示しているような、国民も国家のために喜んで奉仕する精神がなければならない。共産主義の計画経済がうまくいかなかったのも、高い精神性、道徳性の啓蒙を怠り、宗教を排除し、暴力で国民を奉仕させようとしてしまったためではないかと考える。