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実験結果と解説 【O'Neill Game】



はじめに

VRChatにてワールドを公開しました。
オニール・ゲームという簡単なカードゲームをプレイすることができます。
本記事では、この結果を集計したものについて解説します。


これ以降の記載は、ワールドのネタバレ(?)を含みます。
(ネタバレというよりは、解説を知ってからゲームをプレイすると、その結果は実験サンプルとして適切ではなくなります…)
まだ行ったことがない方は、ぜひ行ってからこの記事を読んでいただくと理解もより深まると思います。

オニール・ゲームのルール

プレイヤーAとBは、[ JOKER,1,2,3]の4枚のカードから1枚を選んで同時に場に出します。このとき、
 〇A,BともにJOKERを出した:Aの勝ち
 〇A,Bともに数字カードを出し、お互いの数字が異なる:Aの勝ち
 〇残りのケース:Bの勝ち

野田俊也. ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法 (KS科学一般書)
位置No.694. 講談社


これを見てわかるように、プレイヤーAとBの勝利条件は非対称になっています。どのような出し方をすれば相手に勝ちやすいのかを考えるのは、直観的には難しいと思います。
このゲームの作者であるバリー・オニール氏は、まさにそれを狙ってこのゲームを設計しています。彼のやりたかったことは、"ゲーム理論の予測が人間の行動と一致するか"を調べることで、彼の結果によれば、それは実際に一致することが確かめられています。


実験の目的

今回ワールド作成に至った理由は主に2つあります。

①再現性の確認

1987年に、このゲームの考案者であるバリー・オニール氏は、彼の所属する大学の学生50人に、このゲームを105ラウンド分行ってもらいました。この時のデータは、ゲーム理論の予測とかなり近い結果となっています。

次に、日本の経済学者である神取道宏氏がこの結果の再現実験を行っています。彼は、自身の授業の中で15年間ものデータ収集を行い、被験者は4000人以上にものぼります。この報告においてもゲーム理論の予測と近い結果が得られており、十分すぎるほどその再現性は確かめられているようです。

オニール氏、神取氏の検証結果一覧。
Kandori, M. (2018). "Replicability of Experimental Data and Credibility of Economic Theory." The Japanese Economic Review, 69(1)  Figure.3


ところで、科学哲学者のカール・ポパーは次のように述べています。

繰り返し可能な実験のように、ある事象が規則に従って再び起きる場合にのみ、観察結果は——原則として——誰にでも検証できる。私たちは自分の観察でさえ、再現して検証するまでは、真剣に受け止めたり、科学的観察として受け入れたりはしない。そのような繰り返しによってのみ、自分が扱っているのは孤立した「偶然の一致」ではないと確信することができる。

Karl Popper, The Logic of Scientific Discovery (London & New York: Routledge Classics, 1959/2002): p. 23. カール・ポパー『科学的発見の論理』

つまりは、再現性を繰り返し確かめることによってのみ、科学の妥当性が担保されるということです。
再現性の危機が叫ばれて久しい昨今、再現性は何度でも確かめられるべき!という強い気持ちをもって日々を過ごすべきではないでしょうか。

というわけで、いささか二番煎じの感は否めませんが、自分自身の手で検証をしてみることにしました。


②VRChatプレイヤーは真面目にゲームをプレイしてくれるか?

神取氏の論文では、さらに面白い結果が報告されていました。
下の2つのグラフは、プレイヤーがJOKERを出した割合をプロットしたものです。左のグラフの被験者は一般向けのオンラインセミナー受講者、右のグラフの被験者は大学の授業における受講者(学部生)です。
この結果から何が分かるでしょうか?

プレイヤーがJOKERを出した割合。(a)2015-2017年 (b)2009年 
○:ゲーム理論から予想される平均値、▲:プロットデータの平均値。 ※論文の図を一部改変


オンラインセミナー受講者の結果(左のグラフ)では、実測平均は予測値よりも少し左下に位置していることが分かります。
神取氏はこの結果について、4枚のカードをランダムにプレイしたときの割合である0.25に近づいた結果だと考察しています。これは、
・オンラインセミナーの受講者は63%が学生ではない
・教授などの監督がない条件でプレイしている
・セミナー内でこの課題は任意の課題である
などの理由で、被験者は真面目に考えずにテキトーにプレイしてたんじゃないか?ということです。

上の図に解説を追加。


つまり、逆説的に言えば、JOKERを出した確率において0.25から0.4のどのあたりに来るかによって、プレイヤーが真面目にやってくれてるかどうかが見えてくるのではないかと考えました。
毎年冬になると、Twitterなどで卒業研究のアンケートを取っているのをよく見かけますが、母集団が偏りそうなのはもちろんのこと、そもそもみんな真面目に回答してるのか?といつも思います。
その辺も経緯もあり、VRChatプレイヤーの民度を確認プレイ傾向を分析しておくことは、今後何かをする際にも有益なデータになるのではないかと。



結果

前置きが長くなりましたが、結果を見てみましょう。

下記は、集計データ数推移と結果のグラフです。データは、ワールド公開日の8/30から、執筆時点(9/8)の期間のものです。

VRChatにて実施されたオニール・ゲームのデータ数推移

集まったデータは、およそ5000回分でした。1ペアあたり10回プレイしているはずなので、1000人ほどに参加していただいたことになります。神取氏のデータは4100人ほどのデータでしたので、まずまずの数ではないでしょうか。

次に、先ほどの先行例にならってプレイヤーがJOKERを出した割合をプロットしてみます。

プレイヤーがJOKERを出した割合 
※各プロットは、データ数を確認した際に新たに追加されていたデータの平均値。


結論から言うと、VRChatプレイヤーたちは真面目にゲームをプレイしてくれており、ナッシュ均衡に近い平均値が得られました。プレイしていただいた皆様、ありがとうございました。。。

実測平均値が予測値の少し左上に位置しているのは、神取氏の2009年の結果と同じ傾向です。これは、限定合理性からの影響を受けていているからだと考えられています。これは、人間の計算能力や認知能力の限界によって、真に合理的な行動をとれないことを指します。
この限定合理性があるために、ゲーム理論の予測がうまくいかないゲームも多く報告されているようです。この限定合理性を考慮した均衡である質的応答均衡(QRE)というものがあるようですが、この辺から私の理解の範疇を超えてきたため、続きは各々で調べてみてください…。


実をいうと、真逆の結果になる(みんなテキトーにゲームをプレイする)ことを期待想定していたので驚きです。そもそもゲームに興味のない人は、このワールドを訪れなかったんですかね。

想定オチをつぶされてしまったのでこれ以上書くことがないです!
おわり!!!!

※本文の内容について、ゲーム理論への浅い理解の下に書いているため、間違い等あれば教えてください。



参考

1) 野田 俊也 「ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法」

オニール・ゲームについてはこの本で知りました。「インカの黄金」「キャント・ストップ」「カルカソンヌ」など、よく知るボードゲームを例に説明しているので楽しく読めました。ちなみに私のボードゲームにおける勝率は非常に低いです。

2) スチュアート・リッチー「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」

本文の途中でいきなり、取ってつけたような引用をしていたと思いますが、ここが直接の引用元です。ワールド作成の一番の動機は、最近この本を読んで影響されたからである可能性がかなり高いです。
何かしらデータを集めて分析などをしたことがある人には、覚えのある話が大量にでてきて身につまされる思いになること間違いなし。。。
そうではない人も、豊富な実例を分かりやすく解説しているので雑学本として読めます。

3) NABENAVI.net

論文を読む際の真面目な話はこちらをかなり参考にしました。東京都立大学の渡辺隆裕氏のページで、解説が豊富なほか、オンラインの講義動画へのリンクもあります。ありがたい!

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