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三 やまとうみの笛 はじまり


「こんな笛をみんなで吹くあつまりをやりませんか?」

笛ふきのリュウさんが言いました。

「いぶきの笛というのです。」

その笛はリュウさんが土をこねて丸めて焼いて作った笛で、見るとひとつだけ穴が空いています。

「貝がいたところが穴になってできた石笛というのがあるのですが、それと同じような音がするんですよ。」

カヨが住んでいるお寺でリュウさんがいろんな笛を吹いてくださったとき、
その中に、たくさんの穴が空いた白いまるい石笛があったのです。
カヨはその笛の音を聞くと胸がギューっとなって、その笛から目がはなせなくなりました。何かを思い出しそうな、そんな気分になったのです。

「あの石笛と同じような音がする笛なら吹いてみたいかも。」

そう思ったカヨは、笛のあつまりをすることに決めました。

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秋のある日、笛のあつまりにはたくさんの人が来てくれました。

リュウさんがたくさんのいぶきの笛を雲のもように染められた布の上に並べました。

「さあ、どうぞ!お好きな笛を手に取ってみてください。」

茶色いのや白いの、まん丸や細長いのやら、色々な笛がならんでいます。
それぞれの穴からは、今にも虫がはい出しそうだったり、木の芽が吹き出しそうだったり、何かのタネかたまごのように見えます。まるで生きているみたいです。

カヨはひとつのうす茶色の土のいろをした、たまごのような形の笛とピッタリと目が合いました。笛のほうもまるでカヨをじっと見ているようです。

「きっとあの子が私のところに来るな。」

そう思いながら、他の人たちがえらぶのを待っていました。

みんながえらび終わって、カヨの番になりました。
目が合った笛はちゃんと残っていました。

「やっぱりね!」

カヨはそう思いながら笛を手に取りました。

「強く息を吹き入れてみてください。」

リュウさんに教えてもらいながら息を吹き入れてみました。
ヒュ〜っとかすかに風がなるような音はしましたが、リュウさんが吹くような、ピー!という強い音はまだなりませんでした。
みんなも同じように息を吹き入れましたが、そうかんたんには音が出ないようです。
それでもいっしょうけんめい吹いて、みんなへとへとになり、
その日の笛のあつまりは終わりました。

カヨははじめての笛のあつまりが終わってから、お家でも時々は吹いてみましたが、なんとなく息を吹き入れるのがちょっとつかれる気がして、たなの上に笛を飾っておきました。

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さいしょのいぶきの笛がお家に来てから一年がたちました。
二回目の笛のあつまりの日です。
あれからカヨは少し笛を吹けるようになっていました。
小さい音ですが、「ピー!」という音がするようになっていました。

また同じようにたくさんの人があつまってくれました。
みんな笛を吹くのを楽しみにしているようです。

「さあ、どうぞ!お好きな笛を手に取ってみてください。」

リュウさんがまた同じように言いました。

「二つ目の人もどうぞ。」

今度も黒っぽいのや、UFOみたいな形のや、まん丸のやらいろんな笛がならんでいます。
カヨは今度は気になる笛がいろいろありました。
「UFO型いいな!」と思いましたが、それは一番さいしょの男の人が手に取りました。

「あーざんねん!ちがうのにしよう。」
「あの黒いまんまるのもいいな!」

とカヨが思うと、また別の人が手に取りました。今回は思うようにはいきません。

さいごにカヨの番になりました。
気になった笛は全部ほかの人のところへ行ってしまいました。残ったのは3つです。

「うーん、しかたないなあ。」

心の中でそう思いながら、残った3つの笛をながめました。

「白い笛・・・これかなあ?」

なんとなく目に入った白いたまご型の笛を手に取り、自分が座っていたところにもどりました。

ざぶとんにきちんとすわり、目の前の白い布の上においてある、土いろの笛の横に白い笛を並べたとたん、
カヨはびっくりして小さいさけび声をあげました!

「えー!そっくり!うりふたつ!」

新しく手にとった白いたまご型の笛は、さいしょにカヨのところに来た笛とそっくり!ふたごのような、夫婦のような、どうみても仲良しなペアとしか思えない笛だったのです。


カヨは土いろと白いろの、
まるで大好きな男の子と女の子みたいな、お父さんとお母さんの夫婦みたいな
二つのいぶきの笛をもつことになりました。


                              


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