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エンジニアバブル後に求められるITエンジニアスペシャリストの役割

定期的に行われるITエンジニアのキャリアパスを巡る議論には、スペシャリストかマネージャーかというテーマがあります。

マネージャーはさておき、スペシャリストコースについてはエンジニアバブルに翻弄された経緯があり、今後の転職市況においてはかなり苦労するリスクがあります。

今回はスペシャリストコースを取り巻く状況について整理していきます。


各社でスペシャリストコースが設定されたありがちな経緯

私自身、所属組織の評価制度の切り替えや、企業のITエンジニア評価制度の見直しに関わることが多いですが、見直しのきっかけは大筋で給与制度との兼ね合いです。

スペシャリストコースを後から作成した企業の多くは、以下のような背景を抱えています。

  • 営業職を想定した給与制度だったが、ITエンジニアの売上貢献が説明できず評価が上がらず、給与が上がらない(人月商売は除く)

  • リーダーやマネージャーになると給与が上がるが、自社のITエンジニアがそのハードル(認定試験など)を越えられない

  • リーダーやマネージャーになると給与が上がるが、適性がなく就任できない

こうした状況になると給与を理由に転職されるため、何とかしたいという意図があります。

リーダーやマネージャーにならずとも給与が上がる仕組みにすると、他部署からのやっかみが大きくなるため、自社が求める専門性を評価軸に落とし込み、ハードルを高く設定することになります。それがスペシャリストコースです。

エンジニアバブルの弊害と社員の誤解

2015年から2022年にかけて起きたエンジニアバブルでは、みずほ情報総研のグラフを根拠にデジタル人材の不足が煽られ、数を追う採用が行われました。

中途採用も活況だったため、「出世するより転職したほうが年収が手軽に上がる」とされました。

7年続いたバブルだったので、現職側も給与の階段を明確にし、「転職しなくても給与が上がる自社」として社内に認知して貰わなければなりませんでした。そこでスペシャリストコースが誕生しましたが、「ソースコードだけ書いていれば評価される」と曲解する社員も現れ始めました。

お金がある(売り上がっていなくても投資が潤沢でお金がある)状態ではさほど問題になりませんでした。そこから市況が落ち着きを見せていった今、今居る人員でどうパフォーマンス(生産性、もとい売上や粗利)を上げていくかという企業が増加しています。そのような中でスペシャリストの扱いもまた変化しています。

キーワードとしてのチームワーク、事業貢献、利他性

エンジニアバブルの最中は、採用人数を追う傾向が強く、エンジニアに自由を与える風潮が加速しました。直接事業に貢献しない活動も(多くの経営者は内容を理解していなかったかもしれませんが、求人に役立つと言われていたため)尊重されていました。現在はそこまでの余裕がある企業は少ないです。

多くの企業が求めているスペシャリスト像は以下の要素です。

  • 高い専門性によって事業を進める・貢献する

  • 高い専門性を社内に広める

  • 専門分野での下位社員の育成

  • 専門分野軸での下位社員の目標設定と評価

高い技術力を一人で抱えるのではなく、周囲に広めたり育成したりする行動がポイントです。

こうした活動を踏まえて給与以上の価値を発揮できるかが求められます。幸か不幸かエンジニアバブル下での転職を経て、当該企業で設定された想定給与よりも多く給与が出ている方は多く居られますので、経営層が期待しているバリューは上ブレしていることにも注意が必要です。

スペシャリストコースは難しい

ピープルマネジメントを避けてスペシャリストコースを選ぶ方もいますが、高い専門性と事業貢献、周囲の技術的な底上げ・育成が期待されているので別段楽ではありません。

SESやフリーランスになれば技術だけに取り組めるのか?

SESやフリーランスではリーダーやマネージャー経験が望ましいですが、以下のような「若い人ではなく発注者があなたを選びたくなる理由」があるとキャリア戦略として有利です。

  • スキルに対する需要

  • 技術のキャッチアップ

  • 過去の実績

  • 依頼したくなる人柄

    • コミュニケーション力

    • 柔軟性

    • 腰の低さ

忘れている方が多いのですが、年を重ねていくといつの間にか発注者が自分より年下になっていきます。この事実も意識して自身の人柄を構築していきましょう。

研究職のキャリアから見たスペシャリストとしての生存戦略のヒント

専門性を高める一つの方向性としてR&Dがあります。私も大学に12年ほどいましたが、生き残りは非常に大変です。私は諦めましたが、D5あたりで気付いたのが下記です。スペシャリストにも参考になるところがあるのではないでしょうか。

  • ポストがあるか否か

  • 研究テーマが論文採録や予算獲得を前に、流行に乗っているか

  • 研究を遂行するのに十分な能力(足りない場合は時間)があるか

  • 予算獲得のために、関係者に貢献内容を分かりやすく説明し続けられるか

先人の轍と屍を参考にしよう

Web界隈ではまだプレイヤーが若いですが、これらを踏まえたスペシャリストのキャリア選択により、年を重ねてからの後悔が少なくなると考えられます。

エンジニアバブルの良かった記憶をアンラーニングしつつ、手堅く生き残って頂きたいところです。

下記のカンファレンスなど学びがあるのではないでしょうか。たぶん。

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