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エンジニア従業員の生涯価値ELTVの伸ばし方 評価制度・育成・成果
2022年までは「どうやって採用するか」というご相談が多かったのですが、2023年春頃からはエンジニア評価に関するご相談を多くいただいています。
ELTV(Employment Lifetime Value)などと呼ばれますが、入社してから退職するまでの期間における成果が注目されています。ELTVを伸ばすためには下記の2点が必要な要素となります。
在籍期間を延ばす
バリューを高める
営業職であれば後者のバリューは売上なので明快ですが、エンジニアの場合は非常に分かりにくいです。開発生産性の話題もありますが、下記のOffersの調査でも開発生産性の計測をしている組織は15.5%に留まっています。また、計測しているとしている組織であっても「売上や粗利金額」が一番の指標に置かれています。エンジニアの売り上げ貢献は人月ビジネスであれば稼働率から単純計算できますが、自社サービスであれば営業職やマーケター職が頑張っても上昇するため、適切な指標とは言い難いです。従って大半の組織においてエンジニアのバリューを定量的に認めることは困難な状態です。勢い、ELTVの話では在籍期間を延ばすことを意識することになります。
また、2022年までのエンジニアバブルとは異なり、頭数を揃える採用から即戦力(ミドル層)を手堅く集める採用にシフトしてきました。
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現在でも第二新卒を採用しているのはコンサルティングファームですが、ここにも21卒、22卒限定という縛りがついている傾向があります。未経験育成をするのであれば年齢を縛って育てたいという各社の思惑が感じられます。
新規で頭数を揃える採用から手堅い経験者採用にシフトしたものの、経験者はどの会社も欲しいのでそうそう採用できる者ではありません。従って今いる人たちの育成、成長、活躍を通したELTVの延長に脚光が当たっていきます。
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ELTVの伸ばし方
ELTVの伸ばし方ですが、既に在籍している人たちのレベルや志向性、経営層から見たエンジニアへの期待によって全く違うアプローチとなります。私がよく手掛けるパターンについてご紹介します。
残る、出世することへの意味付け
度々引用するお話ですが、新学力観に基づいた個性尊重教育と連動する形で出世に興味のある人が年々減っています。私も含め以前の世代では全体主義的な傾向があったため、リーダーシップ発揮の機会も多くありましたが、部活動の強制などもなくなった現在ではそうした機会も少ないものです。加えて2020年から3年続いたコロナ禍により、そもそも複数名で集まって何かをする機会が失われてしまいました。そのため、ここから更に出世やリーダーシップに価値を感じる人は減少していくと考えています。メンバー層で活躍している人材にリーダー就任を持ち掛けると「嫌です。辞めます。」と退職してしまうという話すら散見されます。
・「会社の中では出世したい」
62.0% (2006)
35.8% (2008)
32.9% (2010)
25.7% (2015)
何故業務委託ではなく、正社員なのかという点について社員に腹落ちしてもらう必要があります。私も過去に関わっていた企業で「評価が煩わしい」「綿密に計算すると手取りが数万円高い」という理由で退職し、フリーランスエージェント経由で入場している人たちがまとまって居たことがあります。この「何故」を腹落ちさせたうえで契約を整理しないと、業務委託化は止まりません。
特に正社員からのフリーランス化が相次ぐような企業であれば、自身の給与がどこから来るのかという販管費や福利厚生費用も合わせて解説する機会も有効です。
キャリアパス
エンジニアにおいて問題になりやすいのがキャリアパスです。営業職と共用した評価制度の場合、マネージメントに進まないと評価が上がらないケースが多々あります。技術力が高く、事業に貢献している人材が評価できないため、不満や退職に繋がりやすいです。マネージメントコースだけでなく、スペシャリストコースと途中から分岐させることで解決がなされるケースが多いです。
評価制度、給与制度
何をどうすればいくら貰えるようになるのかという指標もまた必要です。
私が評価制度を作る際、特にジュニア層が多い組織であればスキルだけでなく当該組織において求められる行動指針を評価に落とし込むことがお勧めです。MVVや行動規範などからブレイクダウンしていきます。
こうした評価制度を作っておくと、採用時の面接観点と連動ができるようになります。ちょっとした構造化面接ができるようになります。
キャリアチェンジ
キャリアチェンジと言っても色々なパターンがあります。言語が変わるパターン、プログラマから情シスに移るパターン、他職種に行ったり、エンジニア職に来たりするものもあります。
スカウト媒体などを見ていると、現職で経験できなかったスキルセットを転職先で求める方が少なくありません。転職の関連から行くと類似のスキルセットであっても未経験となるためお勧めはできません。例え業務時間やキャチアップ時間が増えても現職でキャリアチェンジすることをお勧めしたいところです。
もちろん企業によっては拒否されるところもあるでしょうが、適性さえあれば勤怠実績すら解らない未経験より、社内のスキルチェンジ人材のほうが人となりが分かるため安心です。
近年、キャリアチェンジ支援制度などを導入している企業も見かけます。所属部署に伏せた状態で異動に向けての社内試験などを行ない、良ければ公開、引き継ぎの上で異動するというものです。折角採用コストをかけて採用した縁のあった人材なので、このような取り組みはして良いでしょう。
異動
退職理由の中でよく耳にするものの一つが人間関係です。小規模な企業であれば難しいですが、チーム異動や部署異動などの柔軟さはあるべきです。特にエンジニアであればスキルが高いもののパワハラ、テクハラ気質な方が居り、事業インパクトを考えるとその方をクビにできないという状況もあります。歪んでいるなとは思いますが、自社サービスの主だったり、その人そのものがコアコンピタンスのような企業はそれなりにあります。
事業の多様性
これまでお話しした内容でELTVはある程度伸ばすことができます。ただし5年以上を見据えていくと壁になるのが事業の多様性です。1社経験で新卒入社後10年目にCTOになる方の経歴を見ていくと、2-3年置きに企業が意図おもってny 的に部署や子会社へと異動させている傾向がありました。
様々な経験ができ、複合的な視野を身につけるという点では勿論ですが、本人が飽きないというのも利点の一つです。クライアントワークであれば多様なプロジェクトを抱えていれば企業の大小を問わずに可能なものの、自社サービスであれば事業バリエーションを持つことは簡単ではありません。
エンジニアに限らず従業員に長く留まってもらうために種類の異なる事業を複数抱えておくことは大切ではないかと考えています。
採用する人物像
元も子もないのですが、どういう人を採用しているかという観点は非常に重要です。最初から当該企業を「踏み台」だと思って入社する方を受け入れるとELTVの拡大は非常に困難です。未経験界隈などでは特に見られますが、何の情報に触れ、どのようなエンジニアキャリアを思い描いているのかということに注意して本音を引き出していかないと、Imprintingと同じでキャリアの序盤に身についた考え方を改めてもらうことは非常に難しいです。
2023年夏におけるジュニア層の傾向
2022年までのエンジニアバブルでは、「それっぽいキャリアのあるエンジニアの頭数を揃える」ことに躍起になっている企業が多くありました。しかし今では正社員・フリーランス共に新卒を除いたジュニア層を受け入れる企業が少なく、人材紹介もフリーランスエージェントも決定に往生しています。SIerにバルクで入場させることを画策している光景はよく目にします。
採用についてシビアになり、入社後のバリュー発揮に対して注目が集まっている状態ですが、景気の良い話が来るまでは当面この傾向は続くと考えています。
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