「志望理由の作り方が分からない」採用市場の変化を踏まえた候補者側のポイント
キャリア相談やセミナーの中で、志望理由の作り方が分からないというご相談を多く頂くようになりました。
Twitterなどでは「志望理由を聞くなんて前時代的な企業だ」という攻撃的な意見も散見されます。
今回は志望理由にまつわる背景の整理、現状の解説、そして候補者目線でのポイントについてお話します。
志望理由があやふやになった背景
2015年以前の就職氷河期以前、買い手市場だったこともあり面接では「志望理由は聴いて当然」のFAQでした。 以後も志望理由を聞く会社はあったものの、割合としては減っていきました。まずはその背景についてお話します。
スカウト媒体、1on1イベント、カジュアル面談の台頭
2010年代中盤、スカウト媒体が流行しました。
スカウト媒体は男女のマッチングサービスに着想しており、採用したい企業と就職、転職したい候補者の出会いの場です。候補者が企業求人に応募するのは特段従来の採用媒体と変わりはありません。
問題は企業から候補者に対する声掛けのところです。「良い経歴ですね。一度お話しませんか?」というのがスカウトのため、「お茶でもどうですか?」というストリートナンパとさして変わりません。
「お茶でもどうですか?」と言っておきながら初回のお茶の場で「私のどこが好きですか?」とナンパ師が切り出すのはただのヤバいやつです。スカウト媒体の場合、カジュアル面談の場で志望理由を質問するのがまずいのはこうした理由があります。このギャップを埋めるために始まったのがカジュアル面談です。
カジュアル面談は「選考ではない」と案内の上で企業や事業の紹介をしていきます。そこで気になってもらったら初めて選考意思が得られたということになり、選考に進みます。予め応募意思が固まった人がやってくる人材紹介に慣れた企業からすると「カジュアル面談なんて面倒臭い」と思われやすい傾向があります。
実際に採用をしているとカジュアル面談には面接官の工数以外のデメリットもあります。企業から声を掛けるという段階で「候補者 > 企業」の図式が出来上がります。それが面接のステップになると「候補者 < 企業」、良くても「候補者 <= 企業」のパワーバランスになるため、就活や転職に慣れていない人は戸惑いがちです。こうしたこともあり、企業側から声を掛けたタイプの候補者のうち、カジュアル面談後の一次面接から志望理由が言語化できる方はレアであり、志望理由の醸成に時間がかかる傾向にあります。スカウト経由の候補者にとって面談や面接の時間を取ったのは「企業に興味が湧いたから」ではなく「声がかかったから」です。志望理由を求める水準からは遠いところにあります。新卒採用における1on1イベントも同様のことが起きやすく、志望理由が練られにくい課題があります。
売り手市場
2015年以前の就職氷河期時代とは異なり、ITエンジニアは売り手市場にシフトしました。頭数をとにかく揃えたいために選考ハードルを下げる企業も多数ありました。
年収も2015年以前は「現年収よりマイナス提示して決める」という企業もありました。しかし現在では今はそれで決まるケースは「現年収を積みすぎた結果期待値が高くなり身の丈に合わなくて息苦しくなった」「職責をダウングレードしたい」といった対象者が疲れている場合くらいです。
特に2022年までのエンジニア採用シーンでは候補者側優位になっており、候補者体験(Candidate Experience)なども盛んに言われるようになりました。企業が選ぶだけではなく、候補者もまた企業を選ぶようになったため、企業の認知から入社までを「好印象で」設計しなければなりません。
しかし好印象さだけを追いかけるのは問題です。「人事採用担当者のKPIに入社者数を置く」とした場合に特に見られますが、候補者に適当に良いことだけ伝えて口説く傾向が強く、入社後離職が増えるという問題に繋がっていきます。
応募しまくりの未経験、微経験
完全な買い手市場であるにも関わらず、ほぼ志望理由を用意していないのが未経験、微経験界隈です。
2018年からのプログラミングスクールでは、転職保証を適用する条件として「毎週20社エントリーする」という条件をつけたことにより、企業の求人フォームが溢れる事態となりました。
また大手人材紹介もマネタイズを焦って経験年数一年程度の人材を「一人前」と称して扱うものの、全く決まらないので2020年頃には70社エントリー、2022年頃には100社エントリー、2023年には150社エントリーされた方が出るまでになりました。
ここまで応募先が増えると一社一社向き合う余裕などありません。汎用的などこの会社でも通じるような荒い当たり障りのない志望理由を出すに至りました。当然、面接まで辿り着いても頭数が欲しい企業以外は厳しい結果となります。
似通った似通ったMVVと、クライアントワーク
かつてはフリーランス、自社サービス、SIer、SESの序列が存在していました。
しかしここに来て自社サービスではなく、クライアントワークが再認識されていきます。新卒採用シーンを見ていると自社サービスでは「どの会社も事業の社会的意義を唱えるが、比較が難しい」と言われるようになり、「クライアントの課題解決をすればそれで良いのではないか」と結論づける方々が増加傾向にあります。
クライアントワークの光の当たり具合をリードしているのはコンサルです。また、コンサルになりたいSIerやSESもまた組織拡大を続けています。
クライアントワークは私も採用を経験しましたが、「会社の雰囲気はアサインされたプロジェクトのお客さんの雰囲気」です。MVVや会社の目指す世界を唱えたとしても、それはどちらかというと顧客開拓の方向性です。加えてクライアントワークでは「今手元で受注している案件が終わった後の予測」は極めて困難なため、自社の将来像も基本的には顧客依存です。クライアントワークでは「案件の質(商流、営業の方向性)」「出せる金額」「働き方」「同僚のキャラクター」くらいしか変わりがないので、志望理由を聞いたとしてもあまり意味はないかなと思います。せいぜい「興味を持った理由」「今後どうなりたいか」「転職時の優先項目」あたりをやり取りしておけば良いかと思います。
エンジニアバブル後、採用を間違えたくない企業の増加
一方の企業側は昨年までは頭数を揃えるために採用ハードルを下げていた傾向にあります。しかし2022年11月以降の不景気により、売上や、売上を支えるアウトプットを重視するようになりました。
以前は「エンジニアファースト」という言葉もありましたが、待遇が向上した良い側面がある一方、アウトプット不全で売り上げが立たなかったりするケースも見られるようになりました。採用コストが高い一方で定着やバリュー発揮が弱いケースも多く、費用対効果に問題があると結論づけている組織が散見されます。結果として「採用に失敗したくない」「体制を見直したい」という話に繋がっています。
興味を持った理由、選考に来てくれた理由くらいは欲しいところです。
コーポレートサイトを見つつ、共感できるポイントを探す
会社説明会に参加しつつ、共感できるポイントを探す
カジュアル面談や面接で面接官に「入社した理由」を質問する
といった方法もあります。全社に共通する銀の弾丸はありません。もし何かお悩みなようでしたらMeetyも解説しておりますのでお気軽にお声がけください。