未経験フリーランスを席捲する「カジュアルな情報商材」
これまで未経験エンジニアに関する包囲網についてお話をしてきました。このお話は非常によく読んで頂いておりまして、本noteでも2番目のPVになっております。
未経験エンジニア、世間的には駆け出しエンジニアなどとも呼ばれていますが、こちらの状況が徐々に変わってきました。それが今回お話をする未経験フリーランスです。未経験フリーランスとはオンラインサロン・オンラインプログラミングスクールを出た後に直ちにフリーランスになるという状況です。今回はそのようなお話です。
有料設定していますが、最後まで無料でお読みいただけます。もしよければ投げ銭感覚で応援をお願い致します。
カジュアルに展開される情報商材
これまでのnoteでも触れてきましたように、元々はフリーランス(業務委託)は受け入れ側企業が自社の給与形態に合わないようなスペシャリストを厚遇するために策定していました。
それが2015年ころから敷居が下がり始め、2018年頃からはメンバー層のフリーランスが出没し始めています。そして2021年。数ヶ月オンラインで情報商材を買った後に直ちにフリーランスになるというムーブメントが起きています。
元々はWebプログラミングを身に着けて未経験でもフリーランスというのが触れ込みだったのですが、HTML/CSS/JavaScriptを少々というスキルセットが基本となっていました。
ここ数ヶ月ではWebプログラミングからWeb制作を謳う人が増え、「HTML/CSSを身に着けてフリーランス」という更にスキルセットを絞った状態になっています。単価としては20万円-30万円/月が良いところです。できることを減らして単価も下げている状況です。この点が2018年-2020年に見られた「Webプログラマとして現職よりも年収100万円アップ」という広告とは違うところです。
「そんなの食べていけないでしょう?」
これは最もなお話です。ではどうするのか?まずは下記のやり取りを御覧ください。あるWebエンジニア志望アカウントが自称月107万円稼ぐ人に話し掛けられている図です。
20万円/月(月収というよりは月商と思われます)を売上げつつ、サブ的に「こうして私は未経験からフリーランスになれました」という体験談を商材として30万円を月に3人に売ることで合計110万円を狙いましょうという典型的な情報商材の勧誘です。
ポイントとしてはこれを彼らは「情報商材」とは呼ばず、「Webマーケティング」と呼ぶことでいかがわしさを回避しようとしています。
2021年7月現在の状況
最近Twitterを始めた未経験エンジニアの方と話す機会がありました。
まず #駆け出しエンジニアと繋がりたい に所信表明するだけで100弱のいいねが付くそうです。中には純粋な応援も多く含まれているとは思いますが、承認欲求が随分と狂ってしまいそうになったそうです。
今は正面切ってリプライで勧誘されるようなことは減っているようです。むしろ何かしらのプログラミングスクールや情報商材で課金し、後悔した方から引き止めがあるようです。
その一方でTwitterのDMで声をかけられ「◯◯さんはどうしてエンジニアになろうと思ったんですか?」という文言が複数の方から切り出され、お金に興味がある素振りを見せると勧誘が始まるようです。
また、情報商材系のアカウントをフォローしたり、フォローバックしたりするとより勧誘までの時間が短くなる傾向にあるようです。おそらくですが勧誘マニュアルがあるのではないでしょうか。
旧来の物販型マルチ商法との違い
以前にも話題にしたウシジマくんのフリーエージェントくん編では、情報商材がテーマになっていました。ここで出てくる村上仁は当初はマルチ商法の親である天生翔に課金をします。当該メソッドを天生翔から購入し、それを更に売ることで儲けられるという旧来の物販型マルチ商法のものでした。
あるとき村上仁は「自分も親になれば良いのでは」と気付き、自身でも情報商材を展開していきます。マルチ商法のツリーから分派していく形です。情報商材は無形であるが故にデッドコピーができやすいのですが、現在の未経験フリーランス(と未経験エンジニア)界隈の情報商材の図式はこの村上仁の気付きがノウハウとして共有されているのか非常に展開が早いです。
2014年頃、某ハンバーガーチェーン店で原稿を書いていたところ、隣のテーブルで50-60代の人達が集まって何やら大声で話をしていました。内容としては伝統的有形商材のマルチ商法の幹部に近い人達だったようでして、知人をツリーのどこに配置すべきかを熱く議論していました。お金をどれくらい持っているか、人脈をどのくらい持っているかによってより上位層に配置するかを決めていたようです。
こうした綿密なアルゴリズム?皮算用?がある有形商材のマルチ商法に対し、情報商材は「自身より後発」であれば手当り次第です。
P2Pストリーミングの網構築アルゴリズムを専門にしていた元研究者としては、情報商材のような近隣を手当り次第に声をかけていく網構築は無駄は多く、大きなトラフィック(お金の流れ)は得られませんが網全体の堅牢性としては優位性があります。
ツリーが明確に存在する有形商材のマルチ商法が残り続けているのが現実な今、デッドコピーが溢れて小さいツリーが蔓延る情報商材のマルチ商法というのは根絶は難しいのではと考えています。全体が飽きるまでは続くものと考えられます。
日本の若手エンジニアの危機
2020年3月に公開された下記資料によると日本のIT技術者は109万人と言われています。
これに対し、「未経験でもフリーランスになれるセミナー」も展開しているウリ文句が過激な国内最大級のオンラインスクールは累計受講者数20,000名を謳っています。
フリーランスを推し、SESを貶めるYouTuberは5.4万人の視聴者登録があります。
Web制作×マーケティングで「未経験でも案件獲得」を売りにしているあるオンラインスクールは受講者数が2300名を謳っています。
同様のサイズのオンラインスクールやサロンがいくつか存在している他、先のような草の根での展開もある状態です。
重複や冷やかしもある程度は居ると思われますし、まとまった統計はないものの、少なく見積もっても数万人は何かしらの偏った情報源を元に行動している可能性があります。シンプルに多い。少子化という前提を考えるとかなり頭が痛い状態です。
企業からすると採用市場に人が居らず、社内教育も踏まえて展開していく必要がある中で教育させて貰えない状態とも言えます。本来であれば社員として育成対象になり得た人材が、数ヶ月の稼ぎのために散っていく状態というのは非常に不健全です。
ITに留まらない未経験フリーランスを取り巻くマルチ商法
こういったnoteを展開しているとキャリアやキャリアコンサルタント、エージェントの方からお声掛け頂くことが増えてきました。
中でも未経験界隈の話になると、それが異業種であっても全く同じロジックの「ただちに独立できる」情報商材が展開されていることに驚きます。
デザイナー、マーケター、リラクゼーションサロン、美容サロン、パイロット、探偵、YouTuber、漠然としたインフルエンサー…
あらゆる職種の「(自称)最短経路でのなり方」が跳梁跋扈しています。何故このように「自由」を求めるのかは別コンテンツに譲りますが、下記のようなモチベーションは強く感じます。
ターゲットとなる人たちも多様ですが、特に警察・消防・看護・介護といった体力が求められる職業の方々や、コロナ禍で影響を受けている飲食店・ナイトワーカーの方々、AIに取って代わられると煽られやすい銀行・役所の事務より方々が狙われる傾向も強くなっています。特にTwitterでは「公務員辞めたい」アカウントが流行っているようです。
駆け出すこと事態は悪くない
ほぼ毎日、 #駆け出しエンジニアと繋がりたい というハッシュタグで2500件程度の投稿が公開アカウントでなされています。そしてそれに繋がる形でリプライなどが発生しています。
出典:2021/7/23 Yahoo!リアルタイム検索 https://search.yahoo.co.jp/realtime/search?p=%23%E9%A7%86%E3%81%91%E5%87%BA%E3%81%97%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%81%A8%E7%B9%8B%E3%81%8C%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%84
プロフィールを未経験エンジニアのように設定し、勉強中であることを表明すると未経験フリーランスのお誘いがリプライやDMでやってくるという図式が繰り広げられています。
ほんの数ヶ月前までは「ITエンジニアはTwitterによく存在しているので、働き方を知るためにもTwitterをしてみると良いですよ」と私自身オススメしていたのですが、今は安易にオススメしにくいというのが本音です。
駆け出すこと自体は歓迎です。ただその情報ソースによっては社会から嫌厭されるということは駆け出し各位には留意いただきたいポイントです。
ここから先は
¥ 500
頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!