ITエンジニア採用の難しさを要素分解・図示してみた
「エンジニア採用がうまく行かない」というお話をお受けする度に、1から10まで通しでご説明するのもなかなかに長尺が必要なので、今回は要素分解をして図を書くことにしました。伝われば良いなと思う内容は下記です。
今回はエンジニア採用シーンをおさらいしつつ、エンジニア採用に向けて企業は何をすべきかをまとめてみたいと思います。
エンジニア採用シーンのおさらい
若手エンジニアの需要が高まり始めた頃合いがアベノミクスの成果が出始めた2015年ころ。2017年には極まり始め、2019年前半にピークを迎えます。
そして2019年後半から景気が本格的に後退しはじめ、コロナショックで冷え込みを迎えます。ただしエンジニアの有効求人倍率は引き続き高く、30代前半までの経験者層については加熱したままで特に楽になることはなかったというのが現状です。従来「うちは基本リモートワークです」と言っていた企業さんのウリが事実上消失したこともあり、一波乱ありそうな雰囲気を感じています。
景気が良かった2019年までの雰囲気で投資が盛んだったAI・機械学習ブームは落ち着きつつありますが、代わりに来たのがDXという巨大な風呂敷です。DXの中の主テーマの一つは受託からの脱却・内製化があります。その行為自体は合理的ではあるのですが、ことエンジニアが居らず且つ少子化の日本に置いては年々大変になっています。特に需要の高い35歳までの経験者エンジニアであればわがままに振る舞えますし、採用する側も選り好みするので採用シーンは激化・・・というか悪化しています。
エンジニア採用に対して必要な事柄
エンジニア経験者層の求人倍率が上がり、何が起きたかというと採用ステップの複雑化です。前職のレバレジーズでは渋谷のど真ん中の立地(上はmixiさんで下がサイバーエージェントさん)、WEB系という激戦区だったのであれやこれやと手を売っていました。自社で取り組んでいたものだけでなく、情報として手元に集まってきたものを整理したものが下記の図になります。このループを見直しを伴いながら回していきます。
私の場合、面談以降のステップはほぼ実施していました。種まき・声掛けのところも9割といったところです。恐らく渋谷・六本木系の利益率の高い企業であればもう少し追加項目があるかも知れませんし、反対に地方の大企業であれば今でももっと少なくて済むと思います。放って置いても応募が来る企業(実際のところはGoogleさんだけだと思いますが)、になれればもっと少なくて済みます。
全部解説すると新書ができるので今回はピックアップしてお話します。
9/17 Twitterでご指摘いただきましてアルムナイを追加しました。
1) 事前準備
エンジニアの協力なしには実現難易度がぐっと上がります。その一方で、エンジニアは採用で雇われているわけではないので、採用に関わったエンジニアに対するインセンティブ・評価については序盤に議論しておく必要があります。特に新卒採用などは採用イベントなどもあり、土日出勤もあるので労務部門とも協力が発生します。中途採用は時間外に面接があるのでここも労務部門と握る必要が出てきます。
選考過程の設定は以前から実施されていたと思いますが、ここ数年ではマーケティングのカスタマージャーニーマップならぬ、求職者ジャーニーマップを作られる会社さんも増えてきています。下記はメルカリさんの例ですが、P5にその図がありますので参考にどうぞ。
私もラジオ参加させていただいております「転職透明化らぼ」。こちらでは転職の透明化を目的に、トレンドを追いかけるには非常にオススメできます。
2) 種まき
打ち手が増えているものの一つです。2015年以前であれば特になくても紹介会社経由でのみ採用していれば良かったですが、近年は募集している企業がどういったところなのかを対外的な露出を通して働き方のイメージに繋げるのが一般的になってきます。Google検索してもエンジニアの活動が見えないのは厳しいです。露出する面は広いほうが良いですが、ヒトも予算もかかるため、薄く広く賭ければ良いものではありません。
テックブログやコミュニティ活動など、現場のエンジニアの協力なしには遂行できないものもあります。ただこれが続かない。本当に続かない。力を持った旗振り・お尻叩き、そしてインセンティブや評価への反映を具体的に実施しないと厳しいでしょう。前職では有志による週次勉強会をYou Tube配信していたため、そのアーカイブを公開することで効率化してみました。
先のEM Talk #3ではコネヒトさんのお話で 「テックブログや登壇をすれば開発組織にお金がプールされ、溜まったら旅費としてカンファレンスに行ける」という仕組みは理にかなっていると感じました。
3) 声掛け
種まきと同様、チャンネルが増えている項目になります。全体的にも言えることですが、良いエンジニアというのは一箇所でずっと居るわけではありません。重要なのは下記です。
私は9年採用をしましたが、成功パターンはあって1シーズンです。他社と採用チャネルに対してやり取りをする際にも「今はどこが調子良いですか」が正しいです。
4) 面談
カジュアル面談と面接は全く違うものなので明確に仕切り直すべきですが、今もまだ混同されている方が多いです。途中から質問に入ったり、ましてや志望動機とか聞いては行けません。志望動機の種となるのがカジュアル面談なのです。私の転職活動の際も数社ありました。
5) 面接
ここで重要なのは面接官トレーニングと意向上げだと思います。面接官トレーニングの際は求職者さんへの対応や姿勢だけでなく、本人のメンタリングやマインドフルネスもセットで入れるべきです。本人が弱っている時に「○○さん(面接官)はどうしてこの会社に入ったんですか?」とか質問されたら危険です。同様に、不調を来していたり転職を考え始めていると小耳に挟んだ部下については面接や面談から積極的に外すようにしていました。
意向上げは「この人は良い」と思ったら「一緒に働くイメージがありますので是非このまま次の選考に進んでください」と後半で畳み掛けたり告白するのが最上です。そのため面接では序盤からVPoEや開発部部長を立てるのが効果的です。カジュアル面談から立てると更に効果的です。個人的にはよほど自社の会社力に自信がない限りは立つべきだと考えています。
6) オファー
コロナ禍ではありますが、在宅勤務が中心の会社さんであっても一度は対面でお会いすることをオススメします。業務委託ならさておき、正社員だと契約上は定年までお付き合いすることになりますから。
これは面接も同じですが自社のウィークポイントや課題もすべて素直に伝えるべきです。そのうえで私はI want you, I need you, I love you.の精神でオファー面談に望んでいました。
7) 入社
「採用人数をKPIに置く」ケースというのは多々耳にするのですが、だいたい定着に問題があります。エンジニア採用の図の中に敢えて入社後の話を盛り込んだ理由はこれです。入社後に無事にオンボーディングし、馴染み、適切な目標設定をし、活躍していく(もしくは人事異動やキャリアチェンジを交えて活躍してもらう)というところがあってこその採用なのです。内定を承諾し、無事に入社したから終わりですという採用は、概ね採用の過程でKPI達成のための「盛り」があり、後々の軋轢と退職理由に繫がりやすいです。にんげんだもの。
ちょっと横道:エンジニア採用ができると市場価値は爆上がりするのか
「エンジニア採用を担当できると市場価値が爆上がりするらしい」という投稿がそれなりにバズっていて危機感を感じましたので補足します。
今回の私の6月〜8月にかけての転職活動がまさにVPoE・EM枠でスタートし、エンジニア採用担当としての価値が問われていました。見えてきた事実をまとめると下記投稿になります。
他の職種と合わせてのエンジニア採用であれば歓待されると思います。しかし例えばエンジニア採用の目標が年間5名とかなら専任で採用担当を正社員で置く判断はまずされません。20名だったらあるかも知れませんが、それが何年も継続して採用計画を引いている企業でないと、これも同様に正社員で採用という判断はしにくいものです。
可能性があるのは社員数200名以上の企業でエンジニアが既に50名以上居り、継続的拡大を狙いたいというケースです。ただこうした企業には概ねVPoEやEMは居ます。その人を押しのけての判断はされにくいです。
更に加えてハロー効果の壁です。読んでいただいている貴方がまさにエンジニア採用の実績を見に付けて他社に正社員転職するということであれば、このハロー効果を身に着けておくべきです。つまりは会社名が世間的に圧倒されるような光を放つようになるか、プロダクト名が有名になるかのどちらかです。
まとめ:どこまで本気でエンジニア採用をするか?
このように若手(経験者)エンジニアの採用シーンは激化と多様化を極めており、恐らくこの図は拡大をしていくことになるでしょう。その様相はレアメタルを争うようでもあり、個人的にはZOIDSかな?とか思ったりしています。
エンジニア採用をするからには無駄な投資にならないようにしたいものです。ただし中途半端に手を出すと何も実にならないのも事実です。私も無駄撃ちを多く経験しました。久松に相談しても良いという方など居られましたらTwitterやFacebook宛にでもDMお願いいたします。
ここまでお話をしてきたように、採用は非常にコストが掛かるものです。採用チャンネルは増え、採用費用を請求書上は抑えられても人件費がかかったりもします(一日中採用担当にTwitterさせたり)。私自身、幾度となく火達磨になりながら内製化を実現してきましたが、良きパートナーが見つかれば別に受託でもITコンサルでも良いと考えるようになりました。うまく嵌りそうなお話があれば弊社LIGのBiTTをご提案させて頂くかも知れません。この話はまた今度。
ウィッシュリストを貼るようになった経緯はこちら。