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避難訓練と勘違いヒーロー
雨ですね。そうでない地域の皆さんにはすみません。雨ではなくてなにより。いやたまには雨も必要です世界には。
閑話休題(冒頭から閑話?!)。
僕が小学生の頃には、地域性もあり『集団登校』というものを行っておりました。近所の生徒たちが学年問わず4~5名集まり、一緒に学校に向かいます。まだ登校というものに慣れていない一年生への配慮や、交通安全、もちろん、変なヒトから身を守る意味もあったと思います。今考えると子供たちだけで自衛できる、凄く良いシステムだったのですね。
月日は流れ、
六年生…最年長になった僕は、集団登校の班の中でいわゆる『班長』的な存在になってました。
先頭に立ち、信号のない横断歩道では小さい子たちを守りながら黄色い旗を掲げる。
そんな毎日を過ごしていた、ある秋の日。
下校前のHRで担任の先生が
「今日は今から台風接近を想定した避難訓練を行います」
と言い放った。
避難訓練、といってもなんてことはない。普段は下校は個別だが、【集団下校】で帰る、というだけのもの。クラスみんなで
「なーんだぁ」
って笑い合ったけど、奇しくも空は曇り雨が振りだした。
担任の先生が
「ほら、ほんとに台風きたぞー。ユーエスオー800号が上陸だー」
この発言が先生の精一杯のギャグだったことは数日後に気づくが、その時は半分信じてしまった。
ともあれ、いつも登校している班のメンバーで下駄箱付近に集まる。
しかし僕はこの時、めらんめらんに焦っていた。朝の天気予報で今日は夕方から雨だと聞いていたのに、めんどくさくて傘を持ってきていなかったのだ。
すると、一番小さい一年生の男の子が傘を差し出し
「一緒に入ろう」
と言ってくれた。
素直に嬉しかった。ありがとう。
班には一人一人先生が付き添うとのことで、僕らの班には保健の先生が来てくれた。
訓練、とはいえ、結構本降りになってきた夕暮れの中を、黙々と歩く。いつもと逆のルートだからちょっとした違和感。僕は借りた傘をできるだけ貸してくれたその一年生に被せるように構える。左肩がびしゃびしゃになった。今思うと京都銀行のCMだ。
(関西圏以外の方すみません)
徒歩20分強。ようやく僕らの班の地域にたどり着く。一人、また一人と「ご機嫌ようお兄様」と僕に声をかけて自分の家へと帰る。
嘘です。単に「さよならー」です。
さて、
残ったのは僕と傘貸一年生と先生の三人に。
ポテポテ歩いて、、遂に僕の家と一年生の家との分かれ道に辿り着く。
ここでまた僕は猛烈に焦っていた。
借りている一本のこの傘は一年生くんのものだ僕の家までは数十メートル走っていけばそれほどは濡れまいいやしかしこのまま一緒に僕の家まで一年生くんと行って少しでも濡れるのを回避すべきかいやでもそれは彼に遠回りを強いることになる最年長班長としてそれはいかがなものかしかも先生もいるしななんて自分かってなやつな
そんな考えが時速200kmのメリーゴーランドのように頭の中に流れ、困り果てふと先生の方に視線を向けると、
先生は、
嗚呼、先生はまるで菩薩様のような笑顔を浮かべて
黙って、
頷いた。
僕は何を迷ってたんだ。彼に傘を借りた(入れてもらった)のだから、キチンと彼と彼の傘を家まで届けねば。後は多少濡れても走って帰ればいい。意を決して一年生くんの家へ足を向ける。
無事に彼を送り届け、傘を返してありがとう。
先生は???な表情を浮かべてたが(多分、いや、やはり先生は、この傘は
【僕が僕の傘を一年生くんに掲げてあげていたのだ】
と思っていた模様)、もうなんだか色々な感情が絡み合って、とりあえず雨に濡れるのも構わず走って帰った。
後日。
放課後のHRで、学校新聞が配られた。
運動会の記事や校長先生の訓話などざーっと読んでたら、端の方のコラムに目が止まった。
【台風の中のヒーロー】
というタイトルだった。
書いているのは、先日の避難訓練でうちの班に付き添ってくれた保健の先生。
細かい内容ははしょるが、つまりは
『私が引率した班の班長が、最後に一番小さい一年生をキチンと安全に家まで送り届けました。彼はこの学校のヒーローです!』
違うんです違うんです違うんです違うんです!
借りた傘をどうしようか考えてただけなんです!そんな崇高なこと考えてません!!
と、ふと、思い出す。
あの時の先生の笑顔は、
【先生脳内妄想】
僕『先生、僕、この一年生くん、家まで送り届けた方がいいですよね?』
先生『素晴らしいわ、僕くん。ぜひそうしてあげて』
というやり取りが行われていたのかー!
記事は匿名で、そのヒーローが【僕】とはわからないのだが、当事者はもう赤面しきり。
当時の僕がヒーハーパリピな性格なら
『これ俺のことなんだぜヒーハー!』
ってパラパラでも踊り出していただろうが、
まあ、それなりにマトモな神経をしてた(と思われる)ので、HR中、ただただその学校新聞を握りしめながら、
『先生、違うんです、、ごめんなさい』
と心で呟いていました。
心残りは、この真実を先生に最後まで言えなかったとこです。
嗚呼、いま思い出してもこっ恥ずかしい!!!