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段ボールのベッドの上から
部屋の隅っこで体育座りをしていると、不意にスマホが光った。
母からのLINEだった。
「掛け布団だけでも持って行こうか?」
この部屋には、寝具がない。
今月から賃貸を借り始めたものの、家具を揃えている最中に適応障害を発症してしまい、インテリアの購入が滞っている。
適応障害だと伝えた時、母親は、
「うちでまたテレビでも見ながらゆっくり暮らそう?」
と言ってくれた。
ただ、実家に帰っても合わせる顔がないと感じたので、とりあえずこの不完全な家で暮らすことにした。
今はとりあえず段ボールを敷いて、薄手のブランケットを掛け布団にして寝ている。
枕はない。
屋根も壁もあるから全然いいのだが、この生活が何日も続くとだんだんと惨めな気持ちになる。
そんな私の思いを察したのか、母親が連絡してきたのだった。
今は知人の連絡に返信できていないけど、母親と信頼していた上司、そのふたりとだけは連絡ができている。
想像してみた。
私の掛け布団は結構モフモフなタイプのやつだから、確実に嵩張る。
小さな母親からしたら、結構な大荷物だ。
実家から近いわけでもないし、母親は車も持っていない。
よいしょ、よいしょ。
周囲から変な目で見られながらも、掛け布団を私の家に届けようと歩く母の姿が頭に浮かんだ。
そして、私の家のドアを開け、苦労など微塵も見せずに優しく笑う。
「持ってきたよー」
段ボールに大きな水滴がいくつもこぼれ落ちていった。
母さん
心配ばかりかける、碌でもない息子でごめんなさい。
困ってる人がいたら、迷うことなく手を差し伸べることができる母さんを尊敬しています。
私もその優しさに救われたひとりです。
「偉い人なんかにならなくていい。目の前の人に優しくしてあげるんだよ」
子供の頃、そんな話をしてくれたのを思い出しました。
これからの人生は、人を幸せにするために使おうと思います。
母さんからもらった命、また笑って過ごせるように少しだけ時間をください。
いつも私の味方でいてくれてありがとう。
そんな文章を送りたかったけど、勇気が出なくて
「大丈夫、ありがとう」
とだけ返した。
段ボールを見ると、涙やら鼻水やらでめっちゃ汚かった。
「これじゃ寝れないじゃん」
少し笑えた。