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操法大会と災害対応力向上に相関・因果はあるのか #003.2
この記事ではもう少し操法大会の問題点をふりかえり、実戦にほとんど関係のない催し物に公費を支弁する行為の、功罪について述べてみたいと思います。
「必勝」と宣う勘違い
黒ノ巣消防団では、大会において選手を鼓舞・応援する、威勢の良さそうな"のぼり"を立てて選手の機運を高める、みたいな超常現象は、さすがに発生しませんでした。
どんなのぼりが掲揚されるのか、ご覧になりたい方は、”操法大会 のぼり” などのキーワードから検索エンジンをたたいていただくと、謎めいたのぼりの画像はご覧いただけると思います。よく考えたら恐怖画像ですので、閲覧注意と申し上げておきます。
必勝! 優勝! 闘魂! 闘志! 全国制覇!
頭が痛くなります。
操法競技大会から得られる技能が、少なからず存在するのだとしたら、公費をかけてでも実行・開催が許容されるかもしれません。しかし、なぜ、必勝・全国制覇なんでしょうか。
視点の中心軸を、”社会における火災”、”普通の生活での火災”、”安寧な日々で起こってしまった火災”、に移してみると、火災が発生した時点ですでに消防機関は負けている。
火災を生じさせない社会をどう実現するか、の問いが突き詰められたとき、もしかしたら、消防吏員よりも消防団員の方に、その実現責任や重み、社会的価値は存在してるはずなのに、必勝って。
放火魔が、放火をためらいたくなる社会を創造するのは困難かもしれません。どれほど電化住宅や高難燃性建材で建てられた住宅が増えても、火災ゼロは困難かもしれません。それでも、
火災が発生しない明日をどう目指すか、
消防車の消火出動が減って仕方ない社会をどうデザインするか、
どう住民の防火意識を高めるか、
に消防団員は取り組むべきです。たとえ実現不可能でも、です。
どういう論理をたどれば、必勝!と応援することが是認されるのか、筆者にはいまだに、ほんの1ミリも理解できません。
消防団員が勝たなければならないのは、人が生きることを否定する現象のはずで、他の分団や他都道府県の分団ではないはず。
なぜ 社会の安寧・平穏・人が生きることの肯定からかけ離れた、迷言が風にはためくのでしょうか。
競技だから、当たり前が見えなくなるのです。
操法は習得義務
繰り返します。
消防操法そのものの習得は、消防団員にとって依然として重要な義務です。しかし、その習得プロセスや訓練方法を見直す必要があります。
競技大会は催行するに値しない
競技大会は、決められた手順を正確にこなすことを重視しすぎるため、実際の火災現場で発生する様々な状況に対応する能力を養うには不十分な側面があります。
同時に、現場では一切、活用されない技能を団員さんに求め、かつ団員さん自身も偏向した技能を積極的に習得しようと応じる圧迫性に富んだバイアスも働きます。
競技を行いたいのなら
操法競技大会を行いたいし、行う必要はある。
操法競技大会は楽しい。
絆が生まれる。
どうしてもそう お考えならば、行政の活動とは別途、行うべきです。開催によって生じる費用も、開催したい各員 各団体が一切を負担し、公費を使途しない形式にすべきです。
会場も独自に設けて、準備・運営・採点・片付け。資機材も自費購入すべきです。
できますか?
可能なら、もちろんどうぞ。
応援します。なんなら敬服です。
※煽り表現でごめんなさい。「応援します」は筆者の本心です。なぜ応援するかの矛盾については別の記事に譲ります。改めて。
社会は、実戦に役立たない練習・独自に遊興する運動会に、公費を捻出するほど、寛容ではないと思いますよ。大会の開催費用額の多寡は各消防団や催行する自治体ごとに生じるはずですが、一つの大会を行うだけでおそらく数十万円はくだらないはず。
競技大会の催行が、社会から付託されたコストに、利益を付け足して社会に返済することになる。
結果的に豊かな生活を実現する。
安寧な社会を下支えしている。
そんな活動であると、本気で考えますか?
ある消防団を構成する、全ての分団の消防車両が集結して競技をおこなうことに、発災のリスクをどう見積もっているのか、全ての市町村民の前で説得できますか?
競技大会中は火災もどんな災害も発生しないのでしょうか。備えておく必要は皆無と言えるんでしょうか。仮にそうだとしたら、24時間365日競技を行うべきですよね。
行政が入札で購入し、配備してくれた消防資機材は、自前で用意できますか?”競技”に利用して問題ない社会資本ですか?
調子に乗ってもっと付け足します。
放水を伴う大会であった場合、水利はどうしますか?
まさか消火栓から公共の水を使いませんよね。一度の操法でどれほどの公共の用水を使用しますか?
目算で2000~3000L。2500Lと仮定し、20の分団が放水するとした場合、単純計算で1回の大会で約50,000Lの水を使います。シャワーを1回浴びると、概ね50~60Lの水を使うらしい。ちょうど1000回分のシャワーと同じくらいですね。1日1回シャワーを浴びるとして、約3年分ですね。
水道料金も各自のポケットマネーでお支払いになるか、ご持参をお願いいたしますね。
水道料金を払っているとしても、社会が共有すべき大切な財産ですので。
色々なモノは、消防団だけのモノではありません。
社会の共有物 公共財です。
このあたりにしますが、
仮に競技大会を頻発するほど、
その地域の火災発生件数も、
被害者の程度や人数も、
延焼面積なんかも、
決まって低下する因果関係が明確にされるのなら、公費をジャブジャブ投下すべきです。
怪我のリスクを高め、間違った観念を生みつつ、社会の安全のために出費した資機材で、可処分時間の限られた団員さんを拘束している現状。
実戦に関係ない競技・運動会・ゲームを催行する必要性も、財政的バッファも存在しないはずです。
どんな訓練が望まれるか
競技大会の形式ではなく、より実戦的な訓練に力を入れるべきです。筆者が考えうるものは、すべて一般的すぎる内容ですが、例えば、
模擬火災訓練
実際の建物や状況を模擬した訓練を行い、臨機応変な対応力を養います。車両の進入路も当日の訓練開始まで告知されない、
課せられるタスクもわからない、個別の団員さんによっても求められる能力が異なるような、アクシデントや抜き打ち検査的な要素を盛り込みたいですね。
連携訓練
消防署との連携訓練、ほかの分団や方面隊・大隊との連携訓練を行い、中規模~大規模火災への対応力を高める効果は、火災対応だけとどまらないとも考えます。
水利確認・水利取得技能訓練
水利と火点に100mの高低差を設定し、ポンプを円滑に運転できるか、背圧をどう認識し取り扱うか、水利切り替えに際してエジェクターバルブの操作は問題ないか、地域によっては必須技能ではないでしょうか。市水が完全に敷設されてないケース、敷設されていても給水圧力が極端に低いケース。20m巻ホースを50本くらい連結してみる経験。いくらでもありえます。
「どんな環境でも、必要な水量は確保する」ことは、消火能力の大部分を占める重要な要素です。また、基本的に現着は消防吏員が早くて消防団員は比較的遅くならざるを得ない傾向は、必然的に生じます。すでに単線のホースラインが完成していても、二次的・三次的な水利を確実に取得し、延焼防止に完全な体制を整えるのは、どちらかといえば、消防団員に求められるのではないでしょうか。
地元の地理を深く理解し、より安定供給が可能な水利を提供することは、社会性が高い活動と思われませんか。
どちらかといえば、個別の消防団員に求められる消防技能も推察してみます。
初期消火
家庭用消火器を使用した初期消火を軽んじる団員さんがいらっしゃれば、筆者は悔しいです。火炎の物理的な特性上、街そのものを飲み込む火災も、元々は小指程度の微小な炎だったりします。
表現を変えると、数万世帯を焼き尽くす怪物のような火災も、マッチ一本から、ガスコンロの微弱から、寝たばこの1本から、生み出すことは可能です。
数千万円の消火用消防車両を必要としない社会をどう構築するか、微小な火炎のまま事を鎮めるために住民の意識をどう変化させるのが有効か、の問題は、少なくとも操法競技大会で必勝するより、比較にならないほど重要な問題であり、団員さんに必須な能力ですよね。
避難誘導
火災発生時の迅速な避難誘導も、副次的に生じる災害を未然に防止する観点で重要でしょう。
火点やその近隣から、住民を遠ざける。
野次馬を整理して消防活動を妨げさせない。
交通量が多ければ、事故や渋滞が生じにくい交通整理を施す。
初対面の住民に、突然声をかけて、行動を変容させる。
やさしさだけでは避難してくれない住民、パニックを起こしている住民、動きたがらないおじいさん、無関心に現場を通過したい一般車両。一流のCAさんまでは期待できないけれど、勇敢で温和で冷静な対応を、災害発生時、ただちに実行し、住民を危機から遠ざける、遠ざかるように諭す能力。派手さもない日陰な技能、縁の下な能力ですが、必要です。
まとめ
消防操法は、消防団員にとって重要な技能ですが、競技大会に過度に偏るのではなく、より実戦的な訓練に力を入れるべきです。消防団員は、地域住民の生命と財産を守るために、多様な技能を習得し、常に自己研鑽に努めることが求められます。機械操作や保守保全から、コミュニケーション能力、火災性状に関する知見。
より社会が消防団に訴求する能力は、競技に勝つ力でしょうか。どちらでしょうか。
補足
少し本論とは離れますが、記述を残しておきたいので、補足します。
地域特性
各地域の火災状況や建物構造に合わせて、訓練内容を工夫することも重要です。過去のデータを分析し、活動にどう生かすのかを団員さん自身が、自律的に導出したくなる空気や風土を育みたいですね。
高齢化への対応
団員さんそのものが高齢化が進んでいることを考慮し、体力の負担が少ない訓練方法を検討する必要があります。
団員さんが高齢化しているとき、地域の生活者も同様に高齢化している場合が多いと想像します。20代が取り組む消火活動に、70代が実践する消火活動の間には、熟練度・速度・要人員数 様々なギャップが存在していそう。
社会に画一的な安心安全を提供する場合、画一的な世代構成が期待できないなら、分団独自の訓練を考察する必要が存在しているのが、普通であるはずです。
移動困難者への対応
自宅療養中のケガ・病気を患っておられる住民、視覚障がい者や言語コミュニケーションに難を抱える住民、車いすでの生活を余儀なくされる住民。どう対応できますか。どう対応するべきですか。
プライバシーの問題も十分に加味されなければならない、センシティブな問いでもあり、優れたバランス能力と救助能力が求められます。
少なくとも、競技大会で鳶口を火点にどんな角度で向けるのかより、踵が待機線にかかっているかどうかより、重要度は高いはずです。