見出し画像

薄っぺらい消防団は女性団員を受容できるか #006

今回は、女性消防団員(以降:「女性団員」)について考えます。
消防団における女性団員の増加は、近年注目すべき現象の一つです。この記事では、総務省消防庁のデータのみに基づき、女性消防団員の増加傾向と課題を分析したあと、多様性と包容性のある消防団の実現に向けた展望を提示したいと思います。

女性団員の現状

増加傾向の分析

グラフを提示します。
これは消防庁HPから筆者が作成したものです。数値は全国ベース。一応トレンドライン(薄い赤色)も付与してみました。

グラフからも明らかなように、女性消防団員数は年々増加傾向にあります。この背景には、女性の社会進出の拡大や、地域社会への貢献意欲の高まりなどが考えられます。

回帰係数は1329となりました。粗い解説をすると、平成2年から令和5年までの推移をみると毎年 1300人近い女性が消防団に入団してくださっている傾向だ、と考えることができます。
しかし、近年では増加率が鈍化し、平成22年度には前年差が2000人近かったのに対し、令和3年以降は ほぼ横ばい状態にあることも見逃せません。
直線のトレンドラインを引きましたが、対数曲線を選択すべきだったかもしれませんね。年度が増えるごとに増加はしているものの、その増加率は逓減しているので。

地域差、年齢層、職種別の分析

もう少し自作したグラフを自虐しておきます。
この数値は全国ベースでの総計であって、「どれくらい減って同時にどれくらい増えたから、合計してこの年度は何人になった」までは教えてくれません。
ある消防団では激減しているにも関わらず、別の都道府県では猛烈に増えているのかもしれません。
もっと文句をつければ、どの年齢層の女性、どんな職種の女性が参画してくださっているかも、全くわからない。雑な棒グラフです。
一つの推測例を示します。
平成10年までは増減比が+1.20を超えていたものの、当時入団した女性団員が、何らかの理由で退団し始めている。ほぼ同じペースで女性の入団が推移している一方で、直近5年では女性の退団も増加し始めたため、結果として横這い・微増となっている。
という邪推もあるえる、というレベルのグラフです。


女性団員の増加がもたらす可能性と課題

女性団員が直面する課題は?

物理的な環境が、女性団員の入団においついていない気がするのは筆者だけでしょうか。トイレ、更衣室、休憩スペースなど、そもそも設置すらされていないケースも想像できます。
任務と役割についても同じことが言えそうです。 男性中心の任務、役割しか存在しない組織が散見されます。女性が増えたはいいけど、どんな役割を与えるのか、与える量に偏りはないのか。女性団員が増えてから考え始めている、が現状なのでは。
任務と役割が確定できないから、男性中心の評価基準による不公平感も生じていることでしょう。
男性団員の中には、女性を「補助的な存在」と捉え、平等なパートナーとして認めていないケースもあります。女性団員の心理には孤立感が生まれそうですね。

課題に直面するのは男性団員も

消防団に限らず、マジョリティ・マイノリティを二項対立させた場合、必ずといっていいほど頻出するのが「アファーマティブアクション」。
積極的格差是正措置みたいに訳されるパワーワードです。
偏在する格差は是正されるべきだし、是正に努めなければならないでしょう。ただし積極的すぎる極端なアファーマティブアクションは、男性団員のモチベーション低下や、新たな差別や歪みを生む点は、歴史が証明している通りです。
消防団は、基本的にも制度上も地域に根ざした組織であり、地域によって環境や課題、歴史的な背景が大きく異なります。だからこそ、たとえ女性希望者から入団リクエストをいただいても拒否せざるを得ないことも、機能別団員として入団していただくしかないことも、あり得るでしょう。
ちなみに、

消防団員数が減少する一方で、女性消防団員数は年々増加しています。 令和5年4月1日現在、27,954人(全体の3.7%)、女性消防団員を採用する消防団の割合は、78.3%となっています。 女性消防団員は、地域の実情に応じて、消防団本部付けの採用とされたり、各地域を管轄する分団に所属したり、女性のみで組織する分団に所属したり、活躍の形態はさまざまです。 消防団の組織の活性化や地域のニーズに応える方策として、女性消防団員を採用しようという動きも全国的に広まっています。 女性の持つソフトな面をいかして、住宅用火災警報器の普及促進、一人暮らしの高齢者宅の防火訪問、住民に対する防災教育及び応急手当の普及指導等においては、特に女性消防団員の活躍が期待されています。また、消火活動や後方支援、操法訓練にも参加しています。

消防庁HP 消防団の活動_女性消防団員の活動_女性消防団員の活躍

だそうです。
女性消防団員を採用する消防団の割合は、78.3%。この数字を高い割合か低い割合と捉えるか。あなたはどう考えますか。
引用元:https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/activity/women/


男女がより平等で活性の高い組織に

組織文化の変革

多様性と包容性を尊重する組織文化の醸成が必要だ、という人権啓発っぽい台詞ですが、やはり必要な気はします。
とても複雑で長い道のりですが、やはり文化にしてしまうのが、最も効率的で説得力もあります。
実直で優秀、かつ、経験も豊富で高い精神性をもった女性団員さんをリーダー的な位置に育成したうえで、積極的に登用した方が、格差是正にとどまらない文化の生成につながりやすい。
女性団員の存在が、社会に貢献するものであるなら、後続する新しい女性団員のためにも、ロールモデルとなる女性消防団員の育成は不可欠です。

評価軸を多様化

女性の貢献を評価できるような、多様な評価軸の導入を検討する必要があります。
幹部が団員を評価する場合、出動数や訓練参加の頻度、操法大会への出場などだけで、判断がなされていませんか。女性ならではの視点やスキルを活かした活動への貢献度も計測できなければなりません。例えば、防災教育における女性特有の視点や、地域住民とのコミュニケーション能力などは無視できません。
また、女性のみで構成する組織ではありませんので、チームの一員として、他の団員と協力し、目標達成に貢献した度合いも評価したいところ。
「女性がっ!」「男性がっ!」という主語だけでは、何も計れない、解決しないということです。
男性を評価する軸。女性を評価する軸。性別に関係なく評価する軸。いずれも必要だということです。

柔軟な働き方の支援

育児や介護と両立できるような、柔軟な勤務体系を導入することで、より多くの女性が参加しやすくなるでしょう。
少し冒険的な試みですが、託児所そのものを団内に設置するのも、面白いです。
筆者は消防団を「人が生きることを肯定する組織」と勝手に定義しています。もちろん可及的な災害対応が、主に求められる訳ではありますが、この観点を、もっとわがままに拡大解釈すると、消防団の役割や果たすべき機能には、社会福祉・厚生活動を含めることもできると考えています。
民間の託児所や保育園の経営を圧迫することは許されませんが、可能な範囲での福祉型消防団は、女性団員の一つの悩みを解消するにとどまりません。
許認可の問題もあるので、簡単に進められる話ではありませんが。

意識改革のための研修

男性団員に対する意識改革のための研修を実施し、男女平等な組織文化を醸成する必要があります。
セクハラ・モラハラ・ハラハラ・ハラハラ。
この世の半分はハラスメントでできているかもしれません。ただ、誠実なコミュニケーション能力が組織を円滑に駆動させることは、ほぼ間違いなく、消防団が社会的な存在であり、そのために女性団員の力を借りたいなら、男性団員のレベルアップは避けて通れない道です。個々の常識と非常識が複雑に交絡しまくる、何とも難解な事象ではあっても、男性優位を標ぼうしてきた組織が、女性に力を借りるためにショートカットできない部分。
異性とのコミュニケーション、聴く力、相手の立場に立って考える力、アサーティブコミュニケーション。このあたりは、団員のジェンダーを越え、団員そのものに必要な要素かもしれません。

制度の改善

育児休業、介護休業制度の充実は、女性に限定した要素ではない時代になってきました。団員としての休職がすでに条例等にも明記されている消防団がほとんどではあると考えていますが、意図的に、わざわざ「育休」「介護休」を宣言しなおすのはどうでしょうか。メディアも巻き込んで、パブリシティ爆上げな気がしませんか。

評価基準をどう見直すかは、少しハードルが高いかもしれません。なぜなら、各消防団によって求める職務内容も、女性団員が組織に提供してくれる能力も異なるだろうから。
だとしたら、逆に団員側から幹部側に提示してもらうスタイルはどうでしょうか。よく言われる「キャリアパス」を活用し、その設計を支援する手法です。
どのような問題意識を持ち、課題解決にどうアクセスするか。
そのために能力をどのレベルに高めるか。
必要なコストとインセンティブはどう設定し、
組織側は何をどれだけ団員に提示できるか、
双方が設計します。
この設計は基準や評価軸が明確化するだけにとどまらず、団員が主体的・自律的に目標に向かって走り始める効果もありうるはずです。

物理的な環境整備

女性専用の休憩室や更衣室の設置には比較的大きな予算は必要でしょう。授乳室や託児所の設置も同様ですが、女性の視点や力を消防行政に活かしたいのであれば、決して高い買い物ではないはずです。
本記事の論旨とは異なりますが、消防団のお金の使い方について、いずれ触れてみたいです。あなたの所属消防団にも、使い方 気になる部分多いのでは?
話を戻します。
施設だけでなく、女性が使いやすい防災服や装備の開発などにも取り組む必要があるでしょう。
共通でよい部分、共通が望ましい部分、共通では成り立たない部分。
明確な分類が求められます。


ここから先は

766字

¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?