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操法大会と災害対応力向上に相関・因果はあるのか #003.1
前回の記事では、消防団員にとって、操法技能の習得がどの程度重要なのかを考察してみました。
この記事では消防操法、特に競技大会と実戦にどんな隔たりがあるのかについて紹介し、大会の必要性を評価したのち、
消防団にとって、より重要な要素や訓練はどんなものがあるのか、私的な意見を交えつつ記してみたいと思います。
操法競技における問題とか課題とか
実戦と競技の乖離
競技は理想的すぎる状況下で行われます。
初めて操法競技大会の練習に参加した光景と、
初めて火災出動した災害現場の光景を、改めて振り返ってみると、まるで世界が違っている団員さんが、ほとんどのはずです。
あんなに平坦で、直線的で、勾配も曲がり角もない。水利が用意されていて、補助員はいるし、資機材は既に目の前に整然と並べられて。
さらに付与します。
ヘルメットは着用するけど保護メガネは非着用、ズボン裾には脚絆を巻いて猛ダッシュしても転倒しないようにしていれば、靴は一流ランナーが用いそうな短距離用シューズ。実践では編み上げを着用するように指導されるのに。
防火衣すら羽織ってなければ、錣(しころ)の着用ルールもない。
笑ってはいけないのに笑ってしまうのは、ヘルメットそのものが、競技と実戦で異なる点。
他にも山ほどありますが、競技の環境は実戦のそれと、異なりすぎています。実際の火災現場の複雑な状況に対応する能力を養うに、競技大会や競技大会用の練習では不十分なのは、誰の目にも明らかだと、断言せざるを得ません。
操法競技大会は、ちょっとだけ似せた、実戦とは殆ど関係ない運動会です。
錣:しころ___ヘルメットの左右や後ろに垂らして首や顔面を覆う保護具。火災現場では熱気、火花、破片などが飛散する危険性が高いため、高難燃性素材で顔面を保護する役割を果たします。視界を確保しつつ顔面や後頭部から背中にいたるウナジ部分への熱傷を防ぐ効果が期待できます。
怪我のリスク
競技者には激しいモーションが求められます。速度が採点の対象になっているから。競技だから得点にこだわりたくなるし、遅ければ遅いほど勝てないから。
準備運動を怠るな!
黒ノ巣消防団でも大会の開催が決定された段階や、開催が近づくと、団幹部が決まって口にする、かつ、鬱陶しくも感じるほど耳にする、呪文です。
鬱陶しくも、面倒くさくても、準備運動を怠らない姿勢は大切です。競技ならば。
実際の出動において「入念な」準備運動の時間は確保しにくいですし、現場に到着して屈伸運動やストレッチを開始した団員さんに出会った記憶は、筆者にとって皆無です。
ここにも実戦との乖離があると同時に、実戦とは関係ない競技で、団員さんの怪我リスクを敢えて高めている構造が存在します。
なぜ、怪我のリスクを抱えつつも取り組むのか。
競技だから。
勝ちたいから。
負担の増大
競技大会への準備は、団員の負担を増やし、他の活動に支障をきたす可能性があります。
消防団や、分団によって、練習時間の大小や内容、厳格さの濃淡など、明瞭に分かれるはずですが、
実戦には相関関係すらない練習に、膨大な時間を費やしてはいませんか。
実戦や現場での対応能力には関係ない練習を行うことで、出動報酬や費用弁償を行政に請求していませんか。
それは、意図的であろうとなかろうと、公金の不正な請求と受給とは、言えませんか。
社会が出費したいコストといえる範囲のお金でしょうか。
実話を一つ紹介します。
来月開催される操法競技大会に向け、分団Xの練習は日ごとにヒートアップしています。
練習後に火災が発生しましたが、出動指令に対し分団Xの分団長は
「団員が練習で疲弊しているので指令の火災には出動しない」と指令課に応答したというもの。
繰り返しますが、自己紹介の投稿でも触れた通り、黒ノ巣消防団は架空の消防団としつつも、実在の組織をモデルにしていますし、これは実話です。
練習が必要なものだと仮定しても、自ら二律背反を生み出しています。
特有の動作と技術しか習得しない
出場選手には、それぞれの役割に応じて異なった動作が求められます。
筒先(つつさき:放水するためのノズル)を構えて放水をする番手。ポンプ車を操作して送水を管理する番手。操法の種類によっては選手の人数も異なりますが、各番手にもとめられる専門的な動作を集中的に、限定的に繰り返します。
実際の火災発生時、特に本業を抱えつつ災害対応にも参加しなければならないボランティア組織である消防団には、
誰が出動できるかその時までわかならない、
参集できた団員さんで対応するしなかい、
構造的で解決しにくい複雑な問題があります。
極端な事例を推測します。
火災発生。出動指令が報じられ屯所・車庫に5人の団員さんが参集した分団Z。競技大会で優勝経験もある、操法競技をベースに評価するとどちらかというと”優秀な”分団。
でも参集した全員が1番員の経験しかない、
参集した5人誰もがポンプ車の操作方法を知らない。結果として、出動したまでは良かったけど、水利から取水もできなかった。送水中継に加わる術も知らなかった。
極端ですが、あり得るんです。
なぜなら技能習得機会がが競技だけだったから。限定的な内容を集中的にしか繰り返してないから。なぜなら勝てるかどうかにしか、フォーカスした練習しか行っていなかったから。
練習に使える時間は、番員として求められるモーションだけを局所的に習得したいから。
消火部隊 全体としてどんな活動が要求されるかは、勝敗にはほとんど影響しないから。
筆者の私的な実感を述べると、どの番員の挙動でも、一定以上のレベルでかまわなければ、2~3時間で覚えることはできます。速度や美しさにこだわらなければ、誰でもできる操作です。資格制でもないし、免許の有無を問うほどのシステムでもありません。
車両の運転は道交法上、定められた年齢以上でないと、運転免許が取得できないため、公道を走行することは適いませんが、例えば小学生の高学年程度なら、ほぼ全ての操作・動作は再現可能でしょう。
しかしながら競技大会向けの練習では、全ての動作をいったん習得し、安全性や効率を広く身につけることは許されません。
どちらかと言えば、与えられた番手としての所作を極限まで突き詰めていく。しかも実戦では求められない所作までも。
なぜか。
競技だから、です。
競技なので適切でない操作を習得する
スピードを求めるがゆえに、適切とされる送水圧力以上に、圧送する指導がなされることもしばしば。
当然ホースや筒先の破損、破裂の事故原因になりえるし、破裂した部品が団員さんを直撃、みたいな事故事例もあるようです。
もっとも、破裂や破断によって団員さんが負傷する事故例は、実戦の現場でも一般的な訓練でも恒常的に発生していますが、操法競技大会の悪弊が通常訓練や実戦での事故を防止抑制するかどうかは、全く関係ありません。ましてや、操法競技用の不適切な送水圧力が、適切な圧力と認識され、負傷のリスクを高める可能性も想像されます。
でも、なぜ操作の安全性を無視してまで、スピードを欲求するのか。
競技だから、です。
長くなりましたので、続きは次の投稿に譲ることにします。
次の投稿では、もう少しだけ操法大会の問題点を洗ったあと、実戦に関係ない催し物に公費を支弁する行為の功罪を述べてみたいと思います。