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就活時期に、なぜかタイに無計画一人旅しようとした話


プロローグ

人生でやりたいこと

僕は悩んでいた。いや、もがき苦しんでいたと言った方が良いかも知れない。自分はどんな人生を歩みたいのだろうか。大学4年生の春休みである。周りは就職活動を始めていたが、それはまるでお前も早くしろ動けと急かされているかのようだった。そんな実態のない声が聞こえているにもかかわらず、僕はある程度の余裕を持っていた。大学院への進学を考えていたが、卒業を延期して一年間の空白をつくろうと考えていたからである。

そんな僕が悩んでいたのは、自分の生き方や本当にやりたいことについてであった。周りの学生は就職するという選択肢を選んだが、何でそんなにやりたいことが見つかるのか不思議だった。自分も大学で勉強しているが、本当にこれがやりたいことなのだろうか、なんかもっとデカいこと、凄いことができるんじゃないだろうか。そういった問いが頭を駆け巡っていたのだ。

「やりたいことが分からない」と言う問いは、おそらく多くの学生や若い人たちが抱いている問いだろう。僕がそれを周りの大人に相談してみると、大抵二通りの答えが返ってくる。「まあ、いろんな世界に入ってみると分かってくるよ。だから色んなことを経験したらいい」というものと、「そんなこと分からないよ。みんなそうさ、みんな何をしたいか分からないまま生きてるんだ。人生なんて所詮そんなもんだよ」というもの。答えがすぐ見つかるわけでは無いという点では共通している。しかし、僕は後者の人間にだけはなりたくなかった。それが充実した人生であるとは到底思えなかったからだ。そうではなくいろんなことを経験して充実した人生を送りたかったのだ。

本との出会い

悩んだときはいつも、大学の図書館を歩いて本を読むのが僕の習慣だった。ある日、また同じように図書館内の本に救いを求めていた時、「旅」と「人生」というワードが書かれた表紙に目が留まった。どうやら、世界の色んな場所を旅した人たちの書いたエッセイ集のようだ。パラパラめくっているとあっという間に時間が過ぎていた。読み終わると、今すぐにでも旅をしたいという感覚になっていた。この身体の内からワクワクした感情が湧き出てきて、居ても立っても居られなくない感じ、これを味わうのは、おそらく幼い頃に虫を追いかけたり、遊んだときに感じた時以来だろう。

本の編者は、TABIIPPOと書かれているように見えた。変わった名前だな、読み方は「たびいっぽ」か。旅に一歩踏み出そうってことだろうな。とにかくこの本のおかげで何か言葉にできないワクワクを得たのは確かだった。

そうやって色んな情報を集めて本を読みあさっていると、『深夜特急』という本に出会った。この本からも大きな刺激をもらったが(僕は割と感化されやすい人間なのかも知れない)、なぜか次の言葉が僕の心の琴線に触れた。

もしかしたら、私は「真剣に酔狂なことをする」という甚だしい矛盾をおかしたかったのかもしれない。

沢木耕太郎、『深夜特急』。新潮社、1986、p25、ISBN-10 ‏ : 4103275057

とっさに「これだ!」と思った。酔狂なこと、馬鹿げたこと、矛盾、若い内にしかできないそういったことこそ僕がやってみたかったことだ。

酔狂な挑戦を真剣にやる

その日から僕は長期の休みになると、まずは日本で出来そうな酔狂な旅や挑戦をすることにした。50kmぐらい離れた大学にチャリで行ってみたり、日が昇ってから日が暮れるまで、険しい山をずっと歩き通してみたり、青春18切符だけで、地元の兵庫から北海道までローカル線だけに乗りながら行く挑戦をし、その過程で街中での野宿をやってみるといったことをした。

どれもただただしんどくて、そして馬鹿げていた。何が得られたのか、何が楽しかったのかと聞かれても、そんなものは何もないと言うより他ないような、傍から見たら非効率の極みとしか言えない挑戦だっただろう。でも、自由で充実していたし、何より達成感があった。そして楽しかった。

そうやって次第に旅の楽しさに味を占めていった僕は、今度の夏休み、つまり大学4年の夏休みは、貯金全部使って海外に行ってやろうと考えた。そして、ムエタイをやろうと思った。そう聞いて「?」と思ったかも知れない。ムエタイというのは僕も何か知らなかったが、それをやろうと思ったのは何かで「ムエタイはタイの国技である」という文章を見たことがきっかけだった。国技と言うことは文化として根付いているのだからそれを学びに行くのも面白そうだと思った。また、観光地を巡る旅をする人は多いが、こういう何かを学びに行く旅のスタイルをする人はあんまりいなさそうだと思った事も理由の一つである。

ところでムエタイとは何だろう。調べてみると「タイの国技」「最強の格闘技」「危険なスポーツ」と出てきた。ほう、なんかやばそうだ。そして僕は国技の意味をよく分かっていなかった。そのため、危険とはいえ国技だから日本で言うラジオ体操みたいな感覚だろうと変なことを思っていた。僕はとことんのんきな奴だ。危険なムエタイが、平和なラジオ体操であるはずがない。

しかし正直、危険なスポーツとある以上、もはや何なのかを理解する必要など無かった。なぜなら、これはまさしく酔狂な挑戦になるからである。要は当たって砕けろの感覚である。いくら木っ端みじんに砕かれようとも必ず再生するのが人間。そう思うと、怪我の可能性とか、危険だとかはどうでも良くなった。自分で言うのも変だが、僕は、結構バカなのかも知れない。

そして、そのまま飛行機のチケットを購入した。期間は約一ヶ月、29泊30日で、ちょうどビザなしでタイに滞在できる最大日数にした。やった!遂に海外進出だ!初の海外で浮かれていた。チケットは電子だったものの、それは僕にとって、この閉塞感のある日常から抜け出す、自由への切符であったのだ。

TABIPPO学生支部との出会い

そうして一段落ついた頃、再び現実が迫ってきた。まだ出発までに3ヶ月はある。旅が終わった後はどうするか特に決めていなかった。大学では勉強にすべてのエネルギーを注いでいたが、やはりそれだけではなく、将来への布石を今のうちに打っておかないとなと焦っていた。

そうして僕は、若い起業家や何か活動している学生たちが集まるような場にいろいろ参加して、話を聞いたり、そういう人たちと将来について相談したりしながら刺激をもらっていた。

そんなある日、ある学生が「自分はタビッポの学生支部にいて云々」と言っているのが聞こえた。その人が旅について話していたため、気になってプロフィールを見てみると、何やら見覚えのあるアルファベットの綴りが目に飛び込んできた。

そこには「TABIPPO」と書いてあった。おっ!「たびいっぽ」やん、なーんやあの本の「旅一歩」さんですか!いやーあなた方には感謝していますよ!と思ったが、あれ?よく見たら「たびっぽ」やん。"I"が無いことに気づいた。しかし、サイトを見ると、活動内容はあの本に書いてあったことと酷似しているのだった。

だったらここで考えられるのは二つだ。一つは「旅一歩」と言う団体と「タビッポ」と言う二つの違う団体があって、どっちかがどっちかをパクっているという可能性、もう一つは僕が単純に見間違えていた可能性である。僕は前者に賭けることにした。

後日、図書館に行き例の本を見て真相を確かめてみた。事実は一瞬で分かった。言うまでも無く同じ団体だった。はい、私が間違えていました。TABIPPOさん、ごめんなさい。

でも、ここで再び出会えたのも何かの縁だろう。サイトを見るとなんと参加者募集と書いてあった。いやいや、「あなたのために門を開けていますよ」とでも言っているみたいじゃないか。なんか怪しい感じだなとも思ったが、でもここに入ればあの本に携わることができるかも知れないと思いついた。そう考えたらちょっとワクワクした。もはや、僕のことを呼んでいるとしか思えなかった。仕方ないなあ~。勝手にそう思っていたが、面白そうだし入ってみることにした。まあ、だまされたらその時はその時だ。

謎の団体

そうして入ってみたものの、正直よく分からない団体だった。しかし、旅に人生を賭けているような人が多いことは確かだった。まあ、言ってしまえば変人の集まりである。謎の団体には謎の人が集まる。普通の学生団体とは空気感が違っていたのだ。

だが、変わっているのは僕も同じであった。普段の大学生活では自分の考えを言っただけでも変な顔をされることが多い。それは僕が普通とは違う視点から考えを言っただけに過ぎないのだが、本当はそういう場所にいたくなかった。そういう場にいるのが辛かった。でも、この団体にはそれを受け入れてくれそうな雰囲気があった。メンバーに「出る杭は打つのではなく引っこ抜く」と言っている学生がいた。その思いに皆は応じてくれるのだと。はじめは怪しいと思ったけれど、結構良いところじゃないか。考えが近い人が集まっているので自然と仲良くなれるだろう。入って良かったかはそのうち分かるだろう。タイに関する情報もすぐに集めることができて、心強かった。今のところ楽しめている。

思えば、感銘を受けた本から始まり、たまたま出会った団体がその本に関係していて、そしてそこに参加し、今はそのメンバーとしてこうして記事を書いているのだから、不思議な縁を感じずにはいられない。奇しくも、その時の本はこのnoteというサイトで書かれたエッセイを集めたものだったのである。縁というのか不思議な巡り合わせである。

さて、こうしてTABIPPO学生支部に入る事となったが、これで一つ将来への布石は打てたことだろう。

ついに、タイへ!

そうこうしているうちに、ついに出発の日を迎えることとなった。深夜便だったので、タイに着いたら空港泊だなと考えつつ、関空へと向かっていた。しかし、明日はタイにいるというのになぜかそのビジョンが描けなかった。現実味が無かったのだ。なんだかフワフワした変な感覚だった。メールを見ると、フライトが2時間ほど遅れているという連絡がきていた。割と余裕がありそうだ。

空港に着いた。おお、これが日本の玄関かと思った。時間を確認して、少し空港をぶらつくことにした。ひろいなーと思って歩いていたが、チェックインを早めにしようと思って行くことにした。

そしてカウンターに行ってみたのだが、なんとそこはガラガラだった。ここじゃないのか?チェックインするフライト表示を見たが、自分の乗る便はどこにも表示されていなかった。あれ、なんかおかしいぞ。もうすぐ時間じゃないのか?

最悪の展開が一瞬頭をよぎった。一気に血の気が引く感覚がした。胸騒ぎがした。体が熱くなり、耳がドクドクと鳴っている。焦燥感と危機感。正直やばい、やらかしたと思った。急いでカウンターに向かうと、まだそこには人がいた。まだ人がいる、よかった!

その人にフライトのことを聞いてみた。もしかしたら、遅れているからなんかの不具合で表示されていないのだと、安心出来る材料が欲しかった。だが、カウンターの職員が告げたのは残酷な一言だった。

「すみません、もうこれ以上の搭乗はできません」
え?
「でも、遅れているのでしょう?」と藁にもすがる思いで聞いた。
だが、
「はい、でもチェックインの時間はすぎています。ごめんなさい」
「ああ、そうなんですか。どうも」

僕はそう言うより他なかった。どうすればいいのだろう?別の便をとるか?いやまてそれは現実的じゃない。とりあえず座って考えよう。

でもいくら考えたところで現実を受け入れるしかなかった。するともうできることはないのだという無力感が襲ってきた。そして、敗北感。これは、小学生の時に喧嘩や言い争いで負けたときのあの感覚、中学の部活の試合で負けたときのあの感覚に似ている。泣きたいような、恥ずかしいような、それでいて悔しいような感覚。そして今、子どもの時に味わったことのある感情と成長して一段と強くなった負けたくないという感情、変なプライド、諦めたくない気持ち、それらが自分の中でせめぎ合っていた。いや、嵐のように荒れ狂っていた。

何とか落ち着いた頃、何が間違っていたのかを確認した。・・・甘かった。初海外ならば、もう少し確認しておくべきだった。

そこ(チケットの説明欄)には全てが書いてあった。
「カウンターには三時間前には着いておくように」
「1時間前にはチェックインを締め切ります」

一体どういうことだ?早く着いたはずなのに・・・。ふと時計を見る。ああそうか、遅れていたのは僕の方だ。家を出たときから感じていたフワフワした現実味のない感じの正体はこれだったのか。

時計の針は遅れた便が出るちょうど一時間前を切った事を指し示していた。時間をしっかり見ていなかった。フライトが遅れるからと余裕をこいていたのがいけなかったのだ。もはや後悔してもしきれない。これが海外旅行の洗礼というものなのかと思った。辛かった。

そういや、母親には申し訳ないことをした。反対を押し切って、説き伏せてまで行くことを分かってもらった今回の旅。断念するより他なかった。母には電話で「乗り遅れたから、いまから帰る・・・」と消え入りそうな声で告げた。

時刻は真夜中、外はすでに帳が降りて闇に包まれていた。僕は後悔と敗北感に打ちひしがれながら、重い足取りでその日の終電に乗り、トボトボと家路についたのだった。                     <続く>

ここにきて自己紹介(笑)

え?これで終わり?ひどい終わり方ですよね(笑)。ましてやこれが初回なのに(笑)。やや最後の方は文学っぽいですが、これは私の実体験を書きました。さあて、この後どうなるんでしょうね。勿論こんなぐらいで諦める僕ではありません。実はちゃんと続きがあります。それはまた次回ということで!

さて、ここで私の自己紹介をしようと思います。今さらかよ!と言う声が聞こえてきそうです(笑)。名前はしんのすけです。神戸にある大学でアメリカ文学を研究している4年生です。趣味は読書や、登山、映画鑑賞にマラソン、そして旅です。

今回は私が入ったTABIPPO学生支部のメンバーとして、その団体の紹介として記事を書いてくれと言うことで書いたものです。私の体験や考えを軸にして書きましたが、ちゃんと団体のことは伝わりましたかね?詳しく知りたい方は、他のメンバーが書いているのでそちらを見たほうがよく分かるかもしれません!

はい、今回は初めての記事と言うことで、旅のプロローグとして書きました。今回の体験は何回かに分けて書いていくので面白いと思った方は是非次回もご覧下さい。

学生支部のサイトも載せておきます。気になった方は是非!

それではまた!


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