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You will be quiet #1

 

 女子高生の鷺沢かなえ(16)、通称サギは、痴漢常習者である。
 年頃の彼女はいわゆる、男女の通常の恋愛というものに、日頃から強い疑いを持っている。そんなサギにとり、毎日の通学電車の中での痴漢、という大胆不敵、かつ突拍子もない行為は、常に心躍るような、ささやかな冒険でもあった。
 親友の北島舞(16)にも決して理解してもらえない、そんな孤独な日々を送るかなえには、一人の気になる男子生徒の存在があった。同学年生の飯田鉄(16)である。
 ある日サギは、彼が電車の中で、意外な行動をしていることを発見する。
 それを機に、彼女の日常の冒険は様々な人々を巻き込んで、波乱含みなものへと変貌していくのだった。


    1

 さっきから、男の人の鼻息が荒くなってる。  
 ちょっと相手を間違えたかな、と思ったけど、今さらやめるわけにもいかない。ズボンの上からでも、そのモノの大きさがわかる。
 ちょっとびっくりするくらい大きい。ここまで大きい人は、そうはいなかった気がする。
 大きい、ってだけで、なんか緊張するな。なんでだろう。無言の抑圧のようなものを感じるからかな。
 相手は三十代前半くらいのサラリーマンで、初めて見る人だ。そこそこ清潔感があったし、年齢も若過ぎず、オジサン過ぎずでちょうどいい。考えてみれば、私の好んで痴漢する相手は  だいたいそれくらいの年齢な気がする。
 私も身長は女にしてはそこそこ高い方だけどさ、その男の人はさらに高かった。というか、全体的に大柄。着てる紺色のスーツもゆったりしてる。その膨れ上がった股間を指で撫でさすりながらチラッと見上げてみると、男の人は目をつぶって、半分口を開けて気持ち良さそうにしてた。短く刈り上げた髪がワックスでホームセンターで売ってるタワシみたいにセットされてて、それが窓から入る風にも微動だにせず光ってる。
 今日の人はそんな感じに、目をつぶって恍惚としてくれてるからいいんだけどさ。たまにそうやって見上げたときに、ピタッと視線が合うことがあるんだよね。あれけっこう気まずい、っていうか。向こうの視線の「圧」が重い、っていうか。だからすぐ自分から視線をそらすんだけどさ、それでもジーッと見つめてくるときは、そこでもう全部やめちゃうときある。
 なんで男の人って、私たち女をこう、ジーッと見つめてくるんだろうか。
 あとはまあ、たまにだけど向こうが私の着てる制服の中に手を入れてくる、ってこともある。そのときの、ゾッとする気分ったらない。マジで世界がハンブン凍りついたような、そんな気分になるから、やめてください、って言ってそれきりにすることにしてる。一度そんなときに「なんだよ、触ってきたのお前の方だろ?」とかって大声で言われたことあるけど、「女の方からそんなことするわけないだろ!」ってすぐ回りから横やりが入ってくれて、それでなんとかことなきをえた。その人はすぐにその男性に取りおさえられて、次の駅で駅員さんに引き渡されてったけど。
 今朝の渋谷行きの東横線は、マジで混み具合がハンパない。だから、心おきなくいろんなことができる。
 あ、ていうか男の人が、私の首筋のあたりに顔を近づけてきた。やっぱ鼻息超荒いんだけど。なんかちょっと怖いな。え、何この匂い  なんかミントみたいな? あれか、ブレスケアみたいなの? てことは営業とか、そういう仕事やってる人なのかな。
 でもだいたいまあ、このあたりまで仕上がってくる  私のヤル気は急速に萎えてくる。今回は、わりと早い方だ。ていうか、その萎えるまでの間隔が、どんどん早くなってきてる、そんな気がするんだけど。えっと今どこだっけ  あ、自由が丘だ。始めた頃はさ、こんな風になるまでに電車降りる直前くらいまでかかってたけど、それが今じゃ自由が丘。私、家は武蔵小杉なんだけどさ、今後もし都内に入る前とかにこんなんなってたらヤバいよね。マジヤバいと思う。
 男の人は左手で吊り革を持って、右手でカバンを持ってた。で両足を開きぎみにして立ってるんだけど、なんかちょっと震えてる感じ? するのね。もう一度見上げてみたら、ヨダレを垂らさんばかりの顔してる。それで私はいじくってた手を離すと、吊り革を持ってた手と入れかえて知らんぷりした。途端に男の人が、えっ、て顔をして、
「どうしたの?」
 そう言った。
 どうしたの? だって。バカみたい。
 私は何も答えなかった。そして男の人に背を向けた。ちょうど目の前の電車の扉にその人が映りこんでいて、なんか信じがたい、みたいな、そんな顔してる。
 すると急にドン、って音をたてて、背を向けた私に向かって壁ドンしてきた。扉のガラス見ると、妙に想いのこもった目でこっちを見てる。
 ちょうどそのとき、目の前の扉が開いた。夢中で壁ドンしたその人は、気がついてなくてそのせいでガクッ、ってズッコけるみたいになった。私はそのスキにスルリとくぐり抜けると、ホームに駆けおりた。他の乗客も続いて次々とおりてくる。
 軽くホッとしつつ、同じ高校の生徒と歩調を合わせて改札に向かっていると、
「……サギ!」
 って声が、後ろから聞こえた。あ、これ私のあだ名ね。私名字、鷺沢さぎさわって言うからさ。どうぞよろしく。
「ちょっとあんた  (ここからは小声で)もしかしてまたやった?」
 声をかけてきたのは舞だった。マズいところを見っかった。さっきの男の人は、もうどこにも姿は見えない。舞がしきりに、私のかわりとばかりに周囲をきょろきょろ見回してる。
「っていうかあんたさあ……早くスマホ持ちなよ? 連絡取ろうにも取れないじゃん。何度も言うけど今どきあんたくらいだよ? 東京中の高校生でスマホ持ってないなんてさ」
 確かに、私は生まれてこのかた、スマホなんて持ったことない。うちの親の方針って言うのか、特にお父さんの? てか別に、私も欲しいともなんとも思わないから、そのまんまにしてるんだ。
「ほんとあんたは一人にしとくと何するかわかんないんだから」
「なんか舞、お母さんみたいだね」
 私はふたたび舞と一緒に歩き出しながらそう言った。同じ制服を着た、同じ高校の生徒と同じ方向に向かってゾロゾロと歩いていくそばから、実は自分はそれと全く逆のことをしたい、と心から思ってる。でもそのことは、舞には決して言えない。
「……であんた、白状しなさいよ。やってたんでしょ? 今朝も。チカン」
「してたよ。だったら何」
 舞は心底あきれた顔をした。
「何って  もしアブない目にあったらどうすんのよ」
「大丈夫だよ」
 言って私は、さらに足を早めた。舞も追いかけてくる。
 駅から外に出ると、快晴の空が広がっていた。もう十一月だけどさ、ポカポカした陽気がずっと続いてる。でもきっとこれからどんどん寒くなって、年も変われば私は二年生になる。
「ねえ。てか超キホン的な質問していい?」
「いいよ」
「サギってさ、どうしてそんなことすんの?
 前にも同じことを聞かれたような、そんな気がするな。でも、いっくら心を尽くして説明しても、舞は全然わかってくれないのだ。
「面白いからだよ」
「何が、そんなに面白いのよ」
 舞の友達が、おはよー、って声をかけながら、私たちを追い越していった。その子たちは私の顔を見ると、途端に何かヒソヒソ言い合いながら、そのまま歩を早めていく。舞がジッと、その子たちを目で追っている。
「要するに……男なんて大したことないなって、思えるわけよ」
「……なんで大したことないの」
 舞は朝の日射しに眩しそうに目を細めていた。今日のうっすら引いたルージュの口紅、かわいくてすっごく似合ってる。
 今ちょっとだけ、舞の声のトーンが落ちたのを、私は決して聞き逃さなかった。きっと例の付き合ってるんだかいないんだかよくわからないカレシのことを、思い浮かべてるんだろうな。
「だって、考えてもみな。ちょっと指で撫ぜただけで、すぐ固くなるんだよ。チョロいもんじゃん」
「そっか?」
「そう」
「私も頑張ってるんだけどねえ。だからって、全然チョロいとは思えないよ」
「固くなるんでしょ?」
「それはなる」
「だったら  
 舞は心底あきれるような、そんな顔をしてみせた。
「……あのねえ。だったら、じゃないよ。それはあんたがありえないくらいかわいいからだよ。私はそうじゃないから」
 少しフキゲンそうに、舞は言った。でも舞はわかってない。そのくっだらない年上カレシが舞のことを大切にするしないは特にカンケーない。
 ただ、固くなるんだったら、それはイコールチョロいのだ。
 そもそも、私が初めて痴漢したのは、ふとしたきっかけからだった。
 きっかけって言っても、そんなに大げさなもんでもない。
 朝のギュウギュウ詰めの電車の中で、たまたま私の手が、一人の男の人の股間のあたりに触れていたのだ。
 その時に、実は私は奇妙な体験をした。
 その人は、確か二十代後半くらい(相手の年齢って、やっぱけっこう重要)のサラリーマン風の人だった。メガネかけてて、なんでか知らないけど髪がぺチャってなってたの覚えてる。あの日って  確か雨だったのかな? でそう、トレンチコート着ててさ、メガネのレンズが少し曇ってた。
 私は手が当たってるな、って知ってたから、いごこち悪くて引っ込めようとした。でそのとき、ふと思ったのね。
 ……あ、ちょっと固くなってるな、って。
 で、ふーん……って。
 私、二コ上のお兄ちゃんがいるもんで(ゆずる、っていって、今は茨城にある大学に通ってるんだけど)、譲が部屋でネット動画見ながらヘンなことしてるの目撃したこともあったからさ、ああなるほど、ってもんだったのね。
 なんだけど、やっぱりちょっとフシギっていうか。
 なんていうのかなあ。
 例えばさ、あじさいの葉っぱとかに、カタツムリがいるとするじゃん。で、そういうとき、指で頭をチョンチョン、とかってしない? しないか。や、私はしちゃうんだけど、その時に、ニューッ、とかって首伸ばしたりとかするじゃん。
 だからまあそんな感じで、チョンチョンって触ったり、そのまま撫でたりしてたらもうどんどん大きくなる。
 そのとき私は、ふとこう思ったわけ。
 ……これってなんなの、って。
 てかぶっちゃけバカみたい、って。
 というのはさ、これって何に似てるかっていうと、スマホとかのゲーム? PSとか、まあほかにもなんでもいいんだけどさ、A、ってボタン押したら、ピコッ、って何かが起きる、B、ってボタン押したら、また何かがピコッ、て起きる。あれと一緒でしょ。
 私が丁寧に撫ぜてあげたら、ピコッ、って相手が大きくなる。逆にそうしなかったら、それはしぼんでく。
 それって結局  舞が今悩んでる(らしい)、恋愛そのものとも一緒でしょ。ゲームと一緒なんだったらさ、それこそ「課金」してもいいわけだし、ベッ、と値札貼って売っちゃってもいいわけだ。
 そんなの、なんかバカみたいじゃん。
「ねえサギ、ぶっちゃけなこと言っていい?」
 舞はそれほど寒くもないのに、手をこすり合わせてハーッ、ってしながらそう言った。
「いいよ」
「今日中目でたい焼きおごってあげるからさ」
「ゴチになります」
「要するにさ。言いたいのはね、私がしてるような苦労  あんたも一度してみるといいんだ、ってことなんだ」
「……舞がしてる苦労?」
 私はすっとんきょうな声を上げた。素っ頓狂、ってきっと言わないねいま。
「そう。そしたらさあ、知らない人のおちんちん撫ぜてるヒマなんかなくなるよ。そしてそれが普通なの」
 私は知らず、歩く速度を速めてた。舞もそうして、軽く駆け足みたいになる。
 私はつい、冷笑的にこう言った。
「ねえ。あんたがしてる苦労ってさ  ながらスマホでゲームしながら女の子とエッチするような、そんな男に対する苦労でしょ。そんなの、どうして私が進んでしなきゃいけないわけ」
 途端に舞は、ふくらし粉を入れすぎたパンケーキみたいな、そんな顔をした。こうやって本質をズバッと(そんな大したもんでもないんだけどね)指摘するようなことを言われるのを、舞はいつもすっごく嫌う。
 もうあんたとは絶交ね、口も聞かない、みたいな危機を、私たちは何度もくり返し乗り越えてきた。
 そういった関係だからこそ言えること、言ってあげなきゃいけないこと、ってあるじゃんね。
「ねえ、あんたのカレシってさ、『女の子をうまくイカせる方法』をエッチしながらスマホで検索してるんでしょ」
「……」
「で、その検索条件ではググってもいい感じにヒットしないから、『女の子をうまくイカせる方法をうまく検索する方法』って検索してるんでしょ」
「……」
「なんなら『女の子をうまくイカせる方法をうまく検索する方法をうまく検索する方法』って検索するんじゃないの」
「……」
「そういう、スマホが脳みそのかわりしてるようなモーレツ検索バカ男君とは、早く別れなさい」
 ……ちょっと私のことはいいんだよ、って、舞は顔を縁日の屋台で売ってるツヤッツヤのりんご飴みたいに上気させて言った。
「あのねえ、いい? サギがしてることって、ガチでものすごーくアブないことなんだよ? 世の中どんなヘンな人がいるか、わかったもんじゃないんだから。で、前も言ったけど、やっぱこれからは朝どっかで待ち合わせて一緒に学校に  
 そのとき急に私が立ち止まったので、舞が肩にぶつかってきた。痛っ、ちょっとなに、ってハイトーンで叫んで、それから目を丸くさせる。
 飯田鉄が、いつものようにプルーンを食べながら、一人で信号待ちしてた。
 新品っぽいシュープリームのリュックが、朝の光に当たってキラキラと黒光ってる。で、口をもぐもぐさせながら、何を見てるのか何も見てないのかわからないような視線を、どこかに向けてる。
「……ああ、なんだプルーンじゃん」
 あいつとはクラスが違うから、フダンどうなのかはわからないけど、見るといっつも業スーで売ってるプルーンの袋を持って食べてるから、うちらの間ではプルーン、ってあだ名がついてる。
 私と舞は昼休みになると、毎日図書室に行って喋ってるんだけど、そこでもあいつは一人で何かイヤフォンで聴きながら、プルーンを食べている。お昼食べたうえでもしまだプルーン食べてるなら、どんだけプルーン好きなんだろうね、って舞はいつも呆れてる。
「何サギ、どうしたの」
 舞が少し、からかうようなそんな口調で言った。
「別に」
「でたーっ。まあたいつもの『別に』だ。あんたの口グセ」
 飯田鉄は、背が高くてスラッとしてる。私も女にしてはまあまあ高い方だけど、それでも全然高い。
 部活はハンドボール部。ポジションとかよくわからないけどさ、いっつもコートの端っこの方にいる。うちのクラスの男子が言ってるのを小耳に挟んだんだけど、あれってボールを手でつかむじゃん。だから手が大きくなるんだって。あとシュートするから腕も長くなる。だからあいつもそんな感じ。でちょっと猫背。
「ねえねえ、あいつってさ、前から何かに似てるな、って思ってたんだけど、聞いてくれる?」
 舞が言った。
「何」
「ジブリのさあ、『天空の城ラピュタ』ってあるじゃん。あんたの死ぬほど好きな」
「うん」
「あれのさあ、何かロボット出てくるじゃん? ヘンな形の。お姫様守るようなさ」
「ああ」
「あっれに超似てない? 私家族で三鷹のジブリ美術館行ったことあるからわかるんだけどさ、マジで似てるよ。ウケるー」
 そう言われると、急にあのロボットがプルーン食べてるようにしか見えなくなるから困る。
 信号が変わった。他の生徒がいっせいに横断歩道を渡り出した中、飯田鉄はその場でプルーンの袋を輪ゴムで止めている。手際が悪いから、見ててイライラする。
「しっかしあいつが学年イチのイケメンなんだから困るよねえ。うちらの間でももう、追っかけみたいなのいるよ? 何人も。あいつが一人で図書室で本読んでんじゃん、そこにねえねえ、っつってタタターッ、って二人くらいでさあ。知らない?」
「……何読んでた?」
「え?」
「あいつ、何の本、読んでたの」
「……やっぱあんた、そこ気になるんだね。そうだと思って、ちゃんと調べておきましたよ? 今日のたい焼き、むしろサギが私におごるべきだね」
「で、何」
「確か、村上龍、とかって人の  限りなくて青に近いブルーだか何だか」
「『限りなく透明に近いブルー』でしょ」
「え、なに。読んだことあんの」
「ないけど。でもなんとなく知ってる」
 飯田鉄は、そのラピュタのロボットみたいな長い両腕の手をポケットに入れて、ようやく歩き出した。ピッカピカの白のアディダスのスニーカーが、目ざわりなほど光ってる。私たちも、十メートルくらいの距離をキープしながらついていく。
「あいつってさ、確かにイケメンなんだけどさ。それこそさっきのハナシじゃないけど、ロボットみたいで、何考えてるかわかんないんだよね。そういう人、苦手だな私」
 飯田鉄は、有名な出版社主催の男子高校生全国イケメンコンテストで上位十人くらいに入ったことで知られてる。
 でも、それはあくまで上位だった。まあ、上位ってだけでも、十分スゴいんだろうけどさ。
「結局さあ、プルーンが上位止まりだったのは、私が思うに、きっとそのへんだったと思うんだよね。愛想がない、っていうかさあ。それが審査員のシャクに触ったんだと思うよ、きっと」
 ほら、よくさあ。ネットショップとかでいろんな服着せられて、シャッとポーズつけてるモデルさんとかいるじゃんね。
 ああいう仕事を、その後あいつもチョロっとだけしたことあるらしい。その写真がうちの学校のあいつ推しの間でプレミア化されてる、ってことも知ってる。私は見たことないけどね。
「あいつがトイレから出てくるときも、ハンカチくわえて手洗ってるときも、階段降りてるときも上がってるときも、部活やってるときもとにかく私にはロボットにしか見えないよ。てか、本当にロボットなんじゃない? 人間味がないっていうかさあ」
 じっと、そんな飯田鉄の背中を見つめてるのを舞が横目で観察しているのに、私は気づいていた。
「ねえサギ(笑)、その顔超怖いから」
 確かに、私は最近、あいつのことが気になっている。
 なんでだろう。うまく言葉にできないんだけどね。
 でも一つには  もしガチであいつが一台の『ロボット』なんだったら、って仮定。
 その仮定は、私にすぐさま、こんな想像をかきたてさせる。
 もし私が、そんなあいつを痴漢したら、いったいどういう反応をするだろう。
 あいつはこれまでの男と同じように、その股間をいとも簡単に固くさせるのだろうか。
 だとしたら、あのロクでもない舞の年上カレシと、その差は紙一重だ。
 ラピュタの例えで言うなら、むしろ私は、あのロボットが大好きだ。
 確かに、主人公のパズーはカッコいい。全力でヒロインのシータを守る。
 一方、あのロボットはどう見たって滑稽だ。同じようにシータを守ろうとするけど、それは王女に対してそうしろ、っていう、あらかじめのプログラミングの結果であってーーおかげでカッコ悪い暴走みたいなのを始め、しまいには余計なものまで散々破壊し尽くしてまで、その義務を果たそうとする。

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