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床の間の「おもてなし」


第1章:床の間を知る

床の間は、日本の伝統的な建築において特別な空間です。家の心とも言える場所であり、客人を迎える際のおもてなしの場としての役割を果たします。この床の間には掛物(かけもの)や花入(はないれ)が飾られ、季節や場の雰囲気に応じたしつらえが行われます。まずは、床の間に飾られる掛物の種類を理解しましょう。

掛物の種類

墨蹟(ぼくせき)
禅僧が書いた書を指し、横書きのものを横物、縦書きのものを竪物と呼びます。一行だけ書かれたものは一行物、二行にわたるものは二行物と分類されます。

懐紙・詠草(かいし・えいそう)
懐紙は和歌や詩が正式な書式で料紙に書かれたもので、一紙一首が基本です。詠草は懐紙より自由な書式で書かれます。

色紙・短冊(しきし・たんざく)
詩歌や書画が書かれることが多く、桝色紙や寸松庵色紙が有名です。

古筆切(こひつぎれ)
和歌集や写経の断簡を指し、石山切や本阿弥切などが著名です。

消息(しょうそく)
手紙のことで、特に茶席では茶人の消息が珍重されます。

絵画(かいが)
唐絵や禅機画など、中国から伝わった絵画が多く用いられます。

画賛(がさん)
絵画と詩・歌・文が書かれたものを指し、画と賛が同一人物によるものを自画賛と言います。

床の間に飾られるこれらの掛物は、その時々の場面にふさわしいものが選ばれます。次に、床の間の心得と扱いについて見ていきましょう。

第2章:心得と扱い

床の間に飾るものは、その時期や場の雰囲気に応じて選び、丁寧に扱います。以下の心得と扱いを理解することで、床の間のしつらえをより美しく、心地よいものにすることができます。

掛物の扱い

掛物は前日に掛けて、軸の落ち着き具合を確認しておきます。当日掛けると巻ぐせが出てしまい、見栄えが悪くなることがあります。また、床の間の位置により、床に向かって上座にあたる方を軸元、中央を軸前、勝手寄りを軸先と呼びます。

茶席では一幅掛を原則とし、一幅だけ掛ける場合は巻緒を床の下座へ引き寄せておきます。これは客座の上下ではなく床の間の位置によります。

花入の扱い

花入は置花入、掛花入、釣花入の三種類があり、用途や素材によって扱いが異なります。真・行・草の三位に分けられ、それぞれの扱いも異なります。

置花入の心得と扱い
置花入は、掛物と花入を一緒に飾る諸かざりの際に、花が掛物にかからないように置きます。床の位置や点前座の位置により、床の上座・下座が決まります。上座床では、掛物の下座に花入を置きます。

掛花入の心得と扱い
花入を置かずに床正面や床柱の掛釘に掛ける場合、掛花入として扱います。竹花入や陶磁の花入などがあります。

釣花入の心得と扱い
床の天井から鎖などで釣る花入です。油差や丸太舟などの竹、砂張や真鍮などの舟形の花入があり、床の天井に打たれた釘に花入を釣ります。

第3章:花入の種類とその美しさ

花入は、その素材や形によって、床の間に異なる美しさをもたらします。真・行・草に分けられる花入の種類とその特徴を見てみましょう。

花入の素材別分類

真(しん)
古銅、青磁、染付、彩磁、祥瑞、赤絵などが真の花入に分類されます。国焼のものでも青磁写や古銅の写など、真の花入として扱われます。

行(ぎょう)
砂張・磁器の釣花入、施釉の国焼が行の花入に分類されます。瀬戸、志野などの国焼も含まれます。

草(そう)
南蛮、無釉陶器、竹、瓢、籠、木工品、楽焼などが草の花入に分類されます。無釉陶は伊賀、信楽、備前などのやきものです。

花入の扱い

真の花入
水で清め、拭いてから用います。矢筈板を用いて床の間に置きます。

行の花入
行の花入は、蛤端を用いて床の間に置きます。

草の花入
草の花入は濡らして用い、木地の薄板を用いて床の間に置きます。籠花入は畳床であっても薄板を用いません。

第4章:床の間でのおもてなし

床の間は、客人を迎えるための重要な空間です。ここでは、具体的な例を挙げながら、床の間のしつらえ方とそのおもてなしの心を考えます。

季節の掛物と花入

春には、梅や桜の掛物とともに、青磁の花入に生けた桜の枝が床の間を飾ります。夏には、涼しげな竹の花入にホタルブクロやハナショウブを生けることで、季節感を演出します。

客人を迎える心

床の間のしつらえは、客人へのおもてなしの心を表現する場です。季節に応じた掛物や花入を選び、丁寧に飾ることで、訪れる人々に心地よい時間を提供します。また、掛物や花入に込められた意味や物語を伝えることで、さらに深いおもてなしの心を伝えることができます。

床の間の「おもてなし」は、単なる飾り付けではなく、心を込めた空間作りです。これらの知識と心得を活かし、美しい床の間を作り上げることで、訪れる人々に感動と安らぎを提供しましょう。

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