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【第28章 マリアじゃない】                   

季節は晩秋を迎えていた

先日の「記述式模試」

目も当てられない結果が返ってきた

フラれた直後の影響もあったのかも知れないが、あまりにも酷すぎる結果だった

これは誰にも晒せない

予備校の帰り、地元の駅のくずかごに破って捨てた

今回のは、元からなかったことにしよう……


五里霧中……

そんな言葉のとおり、グライダーとなってしまった「りんたろう機1986便」は依然、続く灰色の厚い雲の中を、おそらくあちらと思われる目的地に向かって、なんとか飛んでいる

高度もかなり下がって、すぐ真下には海面が迫っているかもしれないという恐怖感にも煽られながら……

ホントに厳しい一人旅だ💧

そんな旅の中で、アルバム『AVEC』の全10曲は、点滴のように僕の心に染み入って、僕の飛行を支える力になってくれていた

明けても暮れても聴いて

明けても暮れても口ずさんでいた


あのフラれた日から3週間ほど経ったある日……

ついに、校内で彼女とばったり出会った……

それは突然だった……

僕たちのクラスのうち男子11人だけが選択している「国語表現」という授業がある

その授業のために皆で教室を移動していた

何かの事情で時間が押して、急ぎ気味だったと思う

本館3階から2階へ降りる階段の踊り場……

古い建築様式の本館は、階段の踊り場が`かなり広くとられている……

そこに4、5人の男女が集まって、話し合いをしていた……

そのメンバーの中に彼女がいた

たしか、音楽授業選択者による発表会の運営委員に当たったと言っていた……

彼女に会ったのは、あの別れの日の改札口以来だった

挨拶ができる間合いは充分あったのに……

僕は、不意だったことと、集団で移動していた流れもあって、とっさに言葉を出すことができなかった……

彼女の方も、僕と目が合った時には、一瞬、はっとしたような表情を見せた……

結局、「黙礼」のような形で、僕は彼女の前を通り過ぎてしまった……

そんな自分が歯がゆかった

あの「コラム」のようなシナリオの用意があれば対応できていたのに、とっさに立ち回れなかったのが情けないと思った……

「お友達でいてもらえたら」そんな彼女のオファーに「僕でよかったら、もちろん」と了承したにもかかわらず……

たとえ建て前であっても、ばったりと出会って、一言さえも発することができなかった自分が格好悪いと思った

辟易とした……

思い起こすと、今年の年賀状は『January』の歌詞の
「平凡すぎる言葉を選んだ」
にちなんで
「A Happy New Year 今年もよろしく」
だけに留めた

本音もユーモアも加えることもなく

そして、先日の別れの日も、あらかじめ準備していた「コラム」のシナリオどおりに立ち振る舞った……

シナリオ外と言えば、最後にお土産をおねだりしたことくらいだ

スタイルばかりを気にして、自分らしさが出せていなかったことを悔やんだ……

そこで、思い余って、彼女に手紙を書くことにした……

だけど、未練がましいのだけはダメだ……

とにかく、くどくならず、簡潔にと心に言い聞かせながら

「めぐみちゃんへ
あの別れの日は、突然のことで、うまく言葉で伝えられなかったので、筆を執りました。
友達になると言っておきながら、先日、階段で会ったときには、何も言えずに、ごめんね。
たくさんの楽しい思い出を胸に、これから前向いて頑張っていこうと思います。
これからも、友達、そして先輩として、メグミちゃんの何か役に立てることがあれば、喜んで力になるからね。
のりかわ りんたろう」


数日後、彼女から返事が届いた……

母が「彼女から手紙が来てるよ。やり直しましょうって書いてくれてるのと違う?」と言って、封書を手渡してきた

100%あるはずがないのに、その言葉に、一瞬、かすかな期待を寄せてしまった……

横向きの黄色の封書の裏には、彼女のフルネームだけが記されていた

懐かしい彼女の字だなぁ

僕の一番好きな字だ

部屋に入って、手紙を読んだ

「りんたろうさんへ
お手紙をもらって、とても嬉しかったです。私も、あの次の日、本当にお別れしてしまったんだなと思い、何も手がつかなかったのを覚えています。
「友達に……」なんて、わがままなことを言ってしまったのに、それを快く受け入れてくれたりんたろうさん。こんなにいい人なのにと思います。
この前、階段で会った時も、私には、りんたろうさんが少し笑ってくれたように思えて、嬉しかったのを覚えています。
こんな私を大切に思ってくれて、本当にありがとう。
にしおか めぐみ」

別れた日にも泣かなかったのに、涙が止まらなかった

高校生活の中で泣いたのは、「きみと生きたい」を初めて聴いた時と、この手紙を読んだときの2回だけだ

しかも、今回は、前回とは比べものにならないくらい涙が出た

🎵きみはマリアじゃないのか ぼくのマリアじゃないのか きっともう少しルーズなら うまくいえるはず ああ今夜も 時々うつむいた きみを抱きしめたい~🎵

この曲が胸に響いた……

…………to be continued

#大江千里
#大江千里ファン
#大江千里さん好きと繋がりたい
#大江千里好きと繋がりたい
#大江千里ファンでした
#senrioe
#oesenri

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