![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173620757/rectangle_large_type_2_d861b44258def7c12acb47c36200fa21.jpeg?width=1200)
【第19章 雷鳴】
🎵本降りになったら 窓を細く開けて あなたのいる街の空気を誘い込むよ~🎵
午後3時、彼女の住む街の駅の改札口
彼女は先に待っていてくれた
鮮やかな水色のワンピースが長身の彼女を映えさせていた
近寄ると、はっとした
耳元にシルバーのイヤリング
唇には艶やかな薄色のリップ……
少しラメが入っている
この夏、また彼女は一段と大人になった気がした
美しい
先日の合宿で話せなかった分、今日はお釣りがくるくらい話をしようと思った
今日の駅舎は、いつもと少し雰囲気が違った
派手なノボリがあちこちに立っている
『市民夏まつり』
そっか、今日はこの街の夏まつりだったのか
隣り街に住む僕の念頭には、まったくなかった
だから、このオメカシなのか……
彼女は、僕が夏まつりに誘ったと思ってくれたのか?
ただ逢いたいという衝動で誘っただけなのに……
しかし、夏まつりは夕方からのようだ……
もうこれ以上、受験勉強のロスタイムは出せない……
どうしよう?
夏まつりのメイン会場は、ここから南へ約1キロほどのグラウンド
「とりあえず、ちょっと覗いてみる?」
時間はまだ早いが、二人で喋りながら会場へ向かった
乾いた砂ぼこりが舞う真夏のグラウンドでは、夜店の屋台の準備が進められていた
「暑いね、喉が渇いたから、どこかお店に入ろうか?」
だが、この付近にはお店が見当たらない
「あっちになら……」
彼女が指差して、隣接する公共施設に導いてくれた
施設の1階に、古典的なレストラン&喫茶があった
「紅梅苑」
入口横にガラスケースに入った食品サンプルが展示してある
店内はまばらなお客さん
暑かったので、壁際の縦型に設置されたエアコン近くのテーブル席を選んだ
僕は、珍しくクリームメロンソーダにした
入口で見たサンプルが残像となったからだ
彼女はレモンスカッシュ
どちらの飲み物にも、缶詰の真っ赤なさくらんぼが乗っていた
二人は同時にそれぞれのさくらんぼの柄を摘まむと「いっせーのーで」
と呼吸を合わせて食べて、笑い合った
久々の二人きりのトークは盛り上がった
どんな話の展開で、そうなったのか、彼女がこう言った
「このお店ね……私のお祖父ちゃんが始めたのよ……紅梅苑」
「えっ?お祖父さんが??じゃ、さっきの店員さんって、親戚の人?」
「ううん、このお店には身内はいないよ。お祖父ちゃんが創業しただけだから……」
とっさに意味が把握できなかった
じゃ、お祖父さんは、お店をたくさん経営している大社長なのか?
そして、彼女は大社長の孫なのか?
エアコンで冷めた身体が、なぜか急に火照ってきた
カバンからハンドタオルを取り出して、両手で広げ、顔に押し当てた
心を落ち着かせようと、深呼吸をした
顔からハンドタオルを離した
キラキラちゃん❇からもらったハンドタオルだ
昨日、母に洗濯してもらい、中一日でまた持って出ていた
タオルを一旦、自分の腿の上に広げて、うつむいて、そのタオルを眺めた後、彼女を見た……
どのくらい見ていたのか?
1分?2分?3分?
時間が止まってしまった……
いや、時間が止まったのか、時空が歪んだのか、まったく覚えていない……
なので、ここに文字で表現することができない
記憶が飛んだ
ただ、状況から判断すると……
キラキラちゃん❇の存在……
陣中見舞いとしてくれた、このハンドタオル……
「それって、二股よね?」
記憶が戻ったのは彼女がそう言った瞬間だった……
これまで見たこともない厳しい彼女の眼差し
射貫くような……
こんな彼女を見たことなかった。
何としたことか……
やってしまったな……
とうとう……
真夏が一気にツンドラ気候に変わった
そして、もうその後、どんなやり取りをしたのか、思い出せない
思い出せないので、これも再現することができない
僕たちは、ほどなくお店を出て、夏まつりに向かう人の流れとは逆らうように、先ほどの駅の改札口まで戻ってきた
多分、その間、絶えず言い訳と謝罪を繰り返していたと思う
こうなったら、次の一手は、これしかない
キラキラちゃん❇と絶縁する
金輪際、逢わないし、話もしない
他に術が思い浮かばなかった
それを彼女に申し出た
そして、傍にあった口の開いた大きな駅のくずかごに……
僕は、キラキラちゃん❇からもらったハンドタオルを投げ入れた
「なんてことするのっ‼️」
すぐさま彼女がくずかごに自分の手を突っ込んで、ハンドタオルを掴み、僕の胸に突き返してきた
「馬鹿なことはやめてね‼️」
キラキラちゃん❇が想いを込めてくれたハンドタオルを、僕はくずかごに投げ入れた
そして、それを拾い戻すために、彼女にくずかごへと手を突っ込ませてしまった
自己嫌悪が僕を襲い、できれば大声で叫びながら、どこかへ走り去りたかった……
🎵悲しい恋だけに したくないさ 今すぐ言えなくちゃ なくしそうさ~🎵
ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡
駅舎の外では雷鳴が聞こえていた
……………to be continued
#大江千里
#大江千里ファン
#大江千里さん好きと繋がりたい
#大江千里好きと繋がりたい
#大江千里ファンでした
#senrioe
#oesenri