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【第19章 雷鳴】

🎵本降りになったら 窓を細く開けて あなたのいる街の空気を誘い込むよ~🎵

午後3時、彼女の住む街の駅の改札口

彼女は先に待っていてくれた

鮮やかな水色のワンピースが長身の彼女を映えさせていた

近寄ると、はっとした

耳元にシルバーのイヤリング

唇には艶やかな薄色のリップ……

少しラメが入っている

この夏、また彼女は一段と大人になった気がした

美しい

先日の合宿で話せなかった分、今日はお釣りがくるくらい話をしようと思った

今日の駅舎は、いつもと少し雰囲気が違った

派手なノボリがあちこちに立っている

『市民夏まつり』

そっか、今日はこの街の夏まつりだったのか

隣り街に住む僕の念頭には、まったくなかった

だから、このオメカシなのか……

彼女は、僕が夏まつりに誘ったと思ってくれたのか?

ただ逢いたいという衝動で誘っただけなのに……

しかし、夏まつりは夕方からのようだ……

もうこれ以上、受験勉強のロスタイムは出せない……

どうしよう?

夏まつりのメイン会場は、ここから南へ約1キロほどのグラウンド

「とりあえず、ちょっと覗いてみる?」

時間はまだ早いが、二人で喋りながら会場へ向かった

乾いた砂ぼこりが舞う真夏のグラウンドでは、夜店の屋台の準備が進められていた

「暑いね、喉が渇いたから、どこかお店に入ろうか?」

だが、この付近にはお店が見当たらない

「あっちになら……」

彼女が指差して、隣接する公共施設に導いてくれた

施設の1階に、古典的なレストラン&喫茶があった

「紅梅苑」

入口横にガラスケースに入った食品サンプルが展示してある

店内はまばらなお客さん

暑かったので、壁際の縦型に設置されたエアコン近くのテーブル席を選んだ

僕は、珍しくクリームメロンソーダにした

入口で見たサンプルが残像となったからだ

彼女はレモンスカッシュ

どちらの飲み物にも、缶詰の真っ赤なさくらんぼが乗っていた

二人は同時にそれぞれのさくらんぼの柄を摘まむと「いっせーのーで」
と呼吸を合わせて食べて、笑い合った

久々の二人きりのトークは盛り上がった

どんな話の展開で、そうなったのか、彼女がこう言った

「このお店ね……私のお祖父ちゃんが始めたのよ……紅梅苑」

「えっ?お祖父さんが??じゃ、さっきの店員さんって、親戚の人?」

「ううん、このお店には身内はいないよ。お祖父ちゃんが創業しただけだから……」

とっさに意味が把握できなかった

じゃ、お祖父さんは、お店をたくさん経営している大社長なのか?

そして、彼女は大社長の孫なのか?

エアコンで冷めた身体が、なぜか急に火照ってきた

カバンからハンドタオルを取り出して、両手で広げ、顔に押し当てた

心を落ち着かせようと、深呼吸をした

顔からハンドタオルを離した

キラキラちゃん❇からもらったハンドタオルだ

昨日、母に洗濯してもらい、中一日でまた持って出ていた

タオルを一旦、自分の腿の上に広げて、うつむいて、そのタオルを眺めた後、彼女を見た……

どのくらい見ていたのか?

1分?2分?3分?

時間が止まってしまった……

いや、時間が止まったのか、時空が歪んだのか、まったく覚えていない……

なので、ここに文字で表現することができない

記憶が飛んだ

ただ、状況から判断すると……

キラキラちゃん❇の存在……

陣中見舞いとしてくれた、このハンドタオル……

「それって、二股よね?」

記憶が戻ったのは彼女がそう言った瞬間だった……

これまで見たこともない厳しい彼女の眼差し

射貫くような……

こんな彼女を見たことなかった。

何としたことか……

やってしまったな……

とうとう……

真夏が一気にツンドラ気候に変わった

そして、もうその後、どんなやり取りをしたのか、思い出せない

思い出せないので、これも再現することができない

僕たちは、ほどなくお店を出て、夏まつりに向かう人の流れとは逆らうように、先ほどの駅の改札口まで戻ってきた

多分、その間、絶えず言い訳と謝罪を繰り返していたと思う

こうなったら、次の一手は、これしかない

キラキラちゃん❇と絶縁する

金輪際、逢わないし、話もしない

他に術が思い浮かばなかった

それを彼女に申し出た

そして、傍にあった口の開いた大きな駅のくずかごに……

僕は、キラキラちゃん❇からもらったハンドタオルを投げ入れた

「なんてことするのっ‼️」

すぐさま彼女がくずかごに自分の手を突っ込んで、ハンドタオルを掴み、僕の胸に突き返してきた

「馬鹿なことはやめてね‼️」

キラキラちゃん❇が想いを込めてくれたハンドタオルを、僕はくずかごに投げ入れた

そして、それを拾い戻すために、彼女にくずかごへと手を突っ込ませてしまった

自己嫌悪が僕を襲い、できれば大声で叫びながら、どこかへ走り去りたかった……

🎵悲しい恋だけに したくないさ 今すぐ言えなくちゃ なくしそうさ~🎵

ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡ゴロ⚡

駅舎の外では雷鳴が聞こえていた

……………to be continued

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#大江千里さん好きと繋がりたい
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