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【第27章 きみと生きたかった】

別れの翌日……

今日から11月

関学入試の初日まで残り3か月

今日は半ドンで助かった

授業も聞く気せん

人と話す気もせん

何もやる気せん

学校で、ふぬけのように終始ぼーっとしていた

昨夜は帰宅した時、キッチンに母と小学5年の妹がいた

「オレ、彼女にフラれたわ」

とだけ報告した

決して泣き言を聞いてほしかったのではなく、ただ事実だけを伝えておこうと思ったから……

あの時のこと、今でも妹は覚えているのかな?

今さら聞けないけど……

それにしても、こんな時期にえらいことになったな……

こんな惨劇が訪れるとは……

ひとりぼっちになってしまった……

ついに「りんたろう機1986便」からエンジンは全て外れ落ちてしまい……

既にジェット機ではなく、グライダー同然になってしまった

このままでは、大海原は渡り切れないかもな?

墜落してしまうか?

憧れの関学も

もういいかぁ……

どこか受かった学校で

自暴自棄になった……

僕は「六甲GIRL」を見つけるために関学に行きたいんじゃない

彼女に「六甲GIRL」になってほしかった

彼女の自慢の「関学の彼氏」になりたかった

🎵六甲GIRL しかめた眉で ボンネットを手でたたいた~🎵

そんなドラマも、始まる以前の問題だったな

もう夢もついえた……

諦めようか、関学は……

しんどいし、疲れた……

彼女はやっぱり修学旅行で、いろいろと考えたのかな?

夜に部屋でみんなで集まって、恋愛話とかをして「そんなの、もうあかんやん、別れた方がいい」とか、周りに言われたのかな?

それとも、同級生に気になる男子がいて、修学旅行で急接近したりして、やっぱりこの人だって思ったのかな?

どちらにしても、あの「コラム」によると、彼女が別れを切り出してきたときは必ず「つなぎ」がいると書いてあったし、きっと、そういうことなんだろうな……

あぁ 明日は十三の予備校で「記述式模試」がある

明日はもう適当にやろう

模試なんて、どうせ本番じゃないんだし……


そして翌日の日曜日……

模試の会場は大教室で、指定席だったが、ジョーの姿があった

昼休憩の時に、ジョーが最近見つけたお気に入りの喫茶店があると言って誘ってくれた

十三駅の東口改札を横目に、そのままアーケードを北の方へ進んだ先に、その店はあった

リモーネよりも、さらにクラシックな純喫茶だ

「ここのアメリカンオープンサンドが旨いねん」とジョーが勧めてきた

トーストに、バター風味の薄焼き玉子とキュウリのスライスが載せられていて、三等分に力ットした後、ケチャップが線状に引かれているシンプルなものだった

ジョーのお薦めのものは、すべて大人の嗜好品に思えた

いつもなら、試験や学校の話をするのだが、この時は、思わず僕の口から失恋話がこぼれた……

「実は、おととい、オレ、彼女にフラれてん、急に……」

ジョーとは同じ予備校仲間であっても、根本は別世界の人間だと思っていた

とりわけ、異性関係の話題では、大人と子供くらいの格差があると思っていた……

だから、きっと失笑されるものと思っていた……

女子なんて掃いて捨てるほどいるんだから、その程度の事、気にするなと……

頭の先から冷水をぶっかけるような言葉で、僕の目を覚まさせてほしいと思った……

ところが、話を聞いた途端、ジョーは長いまつげを少し下げて、一瞬、沈黙の後、表情をぐっと曇らせた

明らかに僕に同情した様子で……

「それはきついな、この時期にな」

ジョーは、そう言って、コーヒーを一口飲んだ後

「お前、ムチャクチャ勉強、頑張ってるのにな」

そして続けて……

「こうなったら、関学に受かるしかないな。絶対、お前は関学に行けよ」と言ってくれた

僕は泣きそうになった

ジョーは、詳しい成績を僕には見せなかったが、彼がもうそれなりの大学に現役で行くのは無理なことはわかっていた

来春、ジョーと一緒に関学の門をくぐることも、まずないと覚悟していた

そして、僕がそのことに気付いていても、素知らぬ顔をして、対等に接していることを、ジョーもわかっていたと思う

だから、ジョーは僕を尊重してくれていたと思う

大学はもうどこでもいいと思ったが……

ジョーの一言で奮い立つことができた

よ~し、たとえグライダー同然でも、風を何とか味方に付けて、大海原を渡りきってやる‼️

そう誓った


それから4日後……

千里さんの5枚目のアルバム『AVEC』がリリースされた

予約を入れたのは、まだ彼女がいた時期だったのにな

LPにレコード針を落とした……

1曲目の『きみと生きたい』

別れの曲ではないのに、聴くと涙が溢れ出て止まらなかった……

🎵きみに逢えてから 本当の孤独が 優しさにあると知ったよ きみに逢えなくて 夢中で生きたら ぼくは前よりなくしてばかりいる~🎵

この曲のタイトル……

僕の中では今でも

 『きみと生きたかった』

だ……

…………to be continued

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#大江千里さん好きと繋がりたい
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