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第3話 タンチョウ
スタスタスタ
はしる、はしる、はしる。
わたしはオウサマペンギンの「きゅうでん」からむちゅうで、はしった。
「ん?ここはどこ?」
むちゅうではしったら、どこかわからなくなった。
あれ?ハルカがとんでいった「たかいたてもの」がみえなくなってる!
「きゅうでん」にはでぐちが2つもあるの?
ぜんぜんどこだかわからない。
ひきかえしたいけど、あしがとまらなくなっちゃった。
はしる、はしる、はしる。
ハルカはちいさいっていったけど、どうぶつえんってけっこうひろいじゃない!
もうわたし、しんぞうがくちからとびだしそう。
それでもわたしはとまらないよー。
もうダメ!!!!
って、おもったしゅんかん、いしにひっかかってスッころんだ。
ステーン!!!!!
ゴチーン!!!!!
めのまえにホシがキラキラしてるー。
まだひるなのにー。
「だいじょうぶかい?」
やさしいこえがきこえる。
かみさまかな?
わたし、しんだのかな?
こんなことだったらおとなしくペンギンのへやにいればよかった。
おとうさん、おかあさん、ごめんなさい。
わたしはとべないペンギンでしたー。
ガクッ・・・
「おやおや、うちどころがわるかったようだねー。」
あれ?ちゃんとこえがきこえる。
かおをおこすと「ほそながいトリ」がいた。
「あっ?サギだ!」
さくのなかの「ほそながいトリ」はひっしでくびをふった。
「ちがう!!!!!!!」
えっ?ちがうの?
ほそながいくちばしと、
ほそながいくびと、
ほそながいあししてるのに?
「わたしはツルだ。」
んー、いわれてみるとサギとちょっとちがう。
くちばしのあたりとくびのあたりとはねのあたりがくろくって、
なんだかわたしたちペンギンににたかんじがする。
ながさはぜんぜんちがうけど。
あたまのところはまっかっか。
とってもきれいなとりだわ。
「きれいなサギがツル?」
「いや、まったくべつのしゅるいなんだけど。」
なんだかこまってる?
「わたしはねー。こうみえても『とくべつてんねんきねんぶつ』なんだ よ。」
トクベツテンネンキネンブツ?
「なにそれ?」
はじめてきくことばだわ。
「『とくべつてんねんきねんぶつ』というのはだな・・・・あのーなんだ・・・ほら」
なにかくるしんでるわ。
「あのー、そう!にんげんがえらんだまもらなくてはいけないどうぶつのことだ。」
「それはえらいの?」
「・・・いや、それほどのもんでも。」
なんだかてれてる。
へんなの。
「いや、わたしのことはどうでもいい。それよりきみだ。あたまはだいじょうぶかい?」
あたま?そうだあたまをうったんだった!
「おもいだしたらいたくなってきた。」
「あんまりだいじょうぶじゃないね。」
「ああ、いたーい!」
「こっちにおいであたまをひやしてあげよう。」
ツルはくちばしをさくのあいだからつきだし、わたしのあたまにみずをかけてくれた。
もうすごくぬるくなってたみずだったけど、しんせつがうれしかった。
「ありがとう。」
みずのなかにおちばがはいってたらしく、わたしのあたまにのっかった。
すると、なんでかな?
いたいのがいくらかましになった。
「いったいどこにいこうとしてたんだい?」
「ハルカのところ?」
「ハルカ?」
「サギのハルカ。」
「サギかー。」
「たかいたてもののところにとんでいったの。そこへいくんだ。」
「サギがとんだところにかい?」
「そう。」
ツルはわたしをしげしげとながめた。
「きみはカラスかい?」
「いいえ、ペンギンよ。フンボルトペンギン。」
「はじめてみるなー。」
「ほんとはチリとかいうところにいるらしいわ。」
「はなしがいなのかい?」
「いいえ、いま、さくからでてきたの。」
「どうしてでたの?」
「そらをとぶためよ。」
ツルはまたわたしをしげしげとみつめた。
「そのはねじゃとべないだろう?」
「とべるわ。」
「ムリだ。」
「ムリだとおもっちゃなにやってもムリだわ。」
ハルカがいったのとおなじこといっちゃったわ。
「ほら、わたしはさくのそとにいるわ。だからじゆうなのよ。」
これもハルカのことば。
「わかった。だったら、じゆうにとんでいけばいいよ。」
なっとくしたみたい。
「でも、とべるんだったら、どうして、あれほどはしってたんだい?」
ギクッ!
そうよね、とべたらあんなに、はしらないわね。
とびかたがわからないなんていえないよー。
「ひょっとしてとびかたがわからないの?」
ギクッ!
なんでなんでわかったの?
「さくのなかにながくいるととびかたわすれるんだよねー。」
「そうよ、とびかたをどわすれしちゃったのよ。」
「ぼくもながいあいだとんでないなー。」
そらをみあげていう。
きっとツルがとんでるところはきれいだろうなー。
「とびかたをおしえてよ。」
ツルはちょっとなやんでるみたい。
「とびかたはおそわるもんじゃないよ。」
そうだろうけど、・・・わたしはペンギンのれきしをかえないといけないの。
「そこをなんとか。」
ツルはやれやれといったかんじでいった。
「とりがとぶのは、ほんのうだろう。」
おしえてくれないかんじ?
じゃあ、これでどう?
「あっ?ごめんなさい。あなた、とべないとりだったのね。ざんねん。」
ツルはいままでみせたことのないかおをした。
あたまだけあかかったのに、かおじゅうまっかっかになった。
「ツルがとべないわけないだろう!!!」
こんなにおこるとはおもわなかった。
でも、まけないわ。
「とべるんなら、とびかたぐらいおしえてくれてもいいでしょ?」
ツルはかんがえてる。
「わかった。おしえよう。」
やったー!!!
「よろしくおねがいします。」
「れいぎただしいんだかなんだか・・・」
わくわくわく
やっととべるようになるんだわ。
「かんたんだよ。かぜをつかまえればいい。」
「かぜをつかまえる?」
「バタバタしてからだがフワッとうきあがるだろ?
そしたら、かぜにのってそらをじゆうにとべるんだ。」
ツルはバタバタしてフワッとうきあがった。
「かんたんだろ?」
なんだかんたんなんだ。
わたしもやろう。
バタバタバタバタバタバタバタバタ
バタバタバタバタバタバタバタバタ
バタバタバタバタバタバタバタバタ
ぜんぜんうきあがらない!!!!!
「なんで?」
「ほんとうにとべるとりなのか?」
また、するどいことをいってくる。
「とべるわ!おしえかたがへたなのよ!
ツルのとびかたじゃだめなのよ。
ほかのおしえてよ。」
「それはツルにきくことじゃない!」
「なによ、いじわる!」
「わたしのどこがいじわるなんだ?!」
ついたんきになっちゃったわ。
「ごめんなさい。 どうしてもとびたいもんだからひっしになっちゃったわ。
はんせいしてます。」
ツルもいくらかおちついたみたい。
「いや、こちらもわるかった。 そうかートリがかわるととびかたもちがうんだなー。」
ツルはかんがえこんだ。
「そうだ。むかし、みたことがある。
コトリのばあい、ヒナがさいしょにとぶときは「たかいき」からとびおり るんだった。」
それならできるかもしれない。
「わたし、それだわ!」
やっとみつかったー。よかったー。
「でも、どうやって『たかいき』にのぼるんだ?」
ん?・・・どうやって?
「とんでいくわ。」
「とぶためにのぼるんだろ?」
あっ、そうだった。
「じゃあ、そのヒナはどうやって『たかいき』にのぼるの?」
「ヒナは『たかいき』のうえでうまれたんだよ。」
ん?それって・・・
「もうておくれじゃない!」
「まあ、まて。」
おちつきはらったツルがいう。
「『たかいき』にこだわらなくてもいいんじゃないか?」
「どういうこと?」
「がけとかそういうたかいところでためせばいいだろう。」
なるほどツルあたまいい!!
「どこかちょうどいいがけある?」
「ちょっとそっちにいけばかいだんがあるからのぼっていけばいいよ。」
それならできそう!
「ありがとう!」
わたしはまた、はしっていく。
「くれぐれもあぶないからきをつけてねー。」
ツルのこえをうしろにきいた。
わたしはふりかえらず、はしる。
「あったー!かいだんだー!」
よし、ここからわたし、とびたつんだ!
わたしはかいだんをのぼって・・・・のぼって・・・のぼって・・・
・・・・のぼれない。
なんでペンギンってあしがこんなにみじかいの?
これじゃあ、いつまでたってもとべないよー。
ペンギンのへやをとびだして、はじめてのざせつをあじわったのでした。
つづく
絵 あぼともこ