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メロンパンの恋わずらい

メロン 「ハァ〜」

今日もやるせない甘いため息をついてしまいます。
彼女はメロンパンちゃん。そうここはパンの国。
メロンパンちゃんは、この国の人気者なのですが、恋わずらいにかかってしまいました。
この頃はいつもこんなため息をついてます。彼女はいつも頭の中に憧れがいるのです。
その憧れの名前は『フルーツサンドさん』。
パンの世界のトップアイドルです。
メロンパンちゃんの手の届く存在ではありません。

メロン 「あんな本物のフルーツをはさんだフルーツサンドさんが、私のようなニセモノフルーツパンのことなんて振り向いてくれるわけないわ。」

フルーツサンドさんのことを思い出しては、ワクワクドキドキしたり、ガッカリメソメソしたりしてます。

ジャム 「やあ、メロンパンちゃん!」
メロン 「あっ、ジャムパンくん! 
    私のようなニセモノフルーツパンには、この辺の相手が妥当なんだわ。」
ジャム 「ひどいなー、僕の中身は昔、ちゃんとしたフルーツだったんだぞ。」
メロン 「堕落したのね。」
ジャム 「進化したんだよ。」

   そこへやってくる陰が一つ。
フル  「匿ってくれないか?」
メロン 「あっ、フルーツサンドさん!」
フル  「追われてるんだ。熱狂的なファンに。」
メロン 「さあ、こちらへ。」

   メロンパンちゃんは憧れのフルーツサンドさんの手を引き、安全なところまでやってきました。

メロン 「ここまで来れば、安全よ、たぶん。」
フル  「ありがとう」
ジャム 「何で僕のウチなんだよ。」
メロン 「ジャムパンくんって、みんなに知られてるわりにメジャー感が少なくてちょうどいいわ。」
ジャム 「絶対に褒められてない。」
フル  「どうしてこんな俺を匿ってくれるんだい?」
メロン 「何を言ってるんです。フルーツサンドさんはみんなの憧れなんですよ。」
フル  「いや、それは嘘だ。どうせビジュアルだけで判断しているんだ。」
メロン 「そんなことはありませんわ。 
    フルーツサンドさんは美味しいと評判です。」
フル  「どう考えてもフルーツと生クリームを一緒に食べたら美味しいに決まってる。」
メロン 「それでいいじゃないですか。」
フル  「いや、見栄え程、味に期待されていない。」
メロン 「そんなことありません。」
フル  「いや、テレビの食レポを見てごらんよ。ほとんど
   『フルーツの甘みを活かすため、クリームは甘さ控えめなんですね』
   ほぼこれだけだよ! 
   あと
    『調和取れてますね』
   この二つでどうにかなってしまうのさ。」
メロン 「普通、パンはそんなもんです。
    『甘くてサクサクー!』
    私、これだけですよ。」
フル  「それに引き換え見栄えの形容の多さはなんなんだ。
    『宝石の輝き』
    だとか
    『花が咲いてるよう』だとか 
    ・・・『宝石の輝き』だとか。」
メロン 「どれも大した言葉ではありません。気にしないでください。」
フル  「一体、俺は何なんだ。
    買った人たちも写真撮るところが最高潮で、食べるときはテンショ ンだだ下がっているんだ。」
メロン 「中にはそんな人もいます。それは少数です。」
フル  「いや、大多数だ。」
メロン 「ええ、大多数です。」
フル  「もっと頑張って否定してくれよ。」
メロン 「嘘のつけない性格なもので」
フル  「いいよなー、冷蔵庫の外のパンは。寿命が長くて。フルーツサン ドはフルーツのときより、寿命が短いんだ。嫌われてる暇はないんだ。」
メロン 「心配しないでください。
    フルーツサンドさんがキライな人はいませんし、まず、キライな人は近づきません。
    好きな人しか手に取らないんです。
    好きでもないのに、高いお金払って、胸やけしたい人はいません。」
フル  「君、正直過ぎて怖いよ。」
メロン 「でも、映えてるからいいんです!!!!!」
フル  「結局、それだー。
    『お前、映えるからいいよな。』
    ってカツサンドさんがイヤミを言うんだ。」
メロン 「カツサンドさんは、サンドイッチ界で一番値段が高いのが、誇りだったのに脅かされてるからフルーツサンドさんにあたるんですよ。」
フル  「人気だけはあるから辛いんだ。」
メロン 「大丈夫です。
    こんな過剰なフルーツサンドブームなんて、もうそろそろ落ち着くから大丈夫です。」
フル  「・・・それもなかなか嫌だなー。」
ジャム 「何の話してるんだか・・・僕にはわからないよ。」

   そこへ駈け込んでくるのは、またもフルーツサンド。

フル2 「匿ってくれないか?」
ジャム 「また来た。」
フル2 「追われてるんだ。熱狂的なファンに。」
メロン 「あっ、何この輝きは・・・」

   今、入ってきたフルーツサンドは光っているのです。
   目の前のフルーツサンドが霞んでしまうぐらいに。

フル2 「私は目下売り出し中の、シャインマスカットサンドです。キラーン」
メロン 「あら、今日はもう会社に戻らなくてもいいんですか?」
フル2 「そっちの社員ではないです。・・・おや?」
フル  「・・・やあ」
フル2 「なんで?」

   そこへ駈け込んでくるのは、またまたフルーツサンド。

フル3 「匿ってくれないか?」
ジャム 「また来た。」
フル3 「追われてるんだ。熱狂的なファンに。」
メロン 「あっ、何このオーラは・・・」

   今、入ってきたフルーツサンドは尋常なオーラではなかったのです。
   最初に来たフルーツサンドの存在が消滅してしまうぐらいに。

フル3 「私はイチゴ界の王様、あまおうサンドである。」
メロン 「息を長く止められるなんて尊敬します。」
フル3 「それは違う海女であるな。・・・おや?」
フル  「・・・やあ」

   複雑な表情を浮かべるシャインマスカットサンドとあまおうサンド。

フル2,3「先輩・・・なんでいるんですか?」
メロン 「あなた達と同様に、熱狂的なファンから逃げて来たんです。」
フル2 「先輩にそんな熱狂的なファンが?」
フル3 「そんなのいるわけないのだ。」
メロン 「えっ?フルーツサンドなのに?」
フル2 「先輩は老舗のパン屋の昔ながらのフルーツサンドだよ。」
メロン 「それが?」
フル3 「先輩、中身教えてあげるのだ。」
メロン 「中身?」
フル  「・・・パインとミカン。」
フル3 「そういうことである。」
メロン 「何?」
フル3 「先輩は缶詰のフルーツサンドなのだ。
    今のフルーツサンドブームとは関係がないのである。」
メロン 「でも、熱狂的なファンに追いかけられてるって。」
フル  「俺のファンは落ち着いた人ばかりだ。
    そんなに迷惑な奴はいない。
    でも、こいつらみたいな気分を味わいたかったんだ。」
メロン 「ただそれだけ?」
フル  「ああ、それだけだ。」
フル2 「ああなりたくないよな?」
フル3 「ああなったら終わりであるなー」
メロン 「ちょっとあなた達、それの何がいけないの?」
フル  「えっ?」
メロン 「どうせ妄想を売ってるんでしょ?
    『パンの世界の宝石』
    みたいな。だったら妄想の中で生きてなにが悪いのよ。
    それがアイドルでしょう。」
フル2 「いや、それは。」
メロン 「あなた達は出て行って。
     ショートケーキより高いフルーツサンドは、スイーツよ。 
     パンの世界にいてはいけないわ。」
フル  「どうもありがとう。俺、やっと居場所みつけたよ。」
メロン 「あなたも帰りなさい。」
フル  「ええーっ」
メロン 「ここはあなたのいるところじゃないわ。」
ジャム 「あのー、ここは僕のウチなんで君のいるところでもないんだよ。」
メロン 「冷蔵庫に戻りなさい。」

   フルーツサンド達は冷蔵庫に帰りました。

ジャム 「これでいいのかい?」
メロン 「憧れは憧れだから憧れなのよ。」
ジャム 「何それ。」
メロン 「これで良かったってことよ。」

   それから元の生活に戻りました。
   メロンパンちゃんの恋わずらいは収まったんでしょうか?

メロン 「私の体にこう生クリーム挟んだら、冷蔵庫の中にいても可笑しくないんじゃないかしら?」
   一向に収まってないのでした。
 
 
 
     おしまい

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