デビフレ12 事件
電話がかかってきていることに気づき、私は連絡相手を見た。
その番号は、シスター・アンジェ、修道会の長にして私の恩師でもある。 久しぶりのシスターからの連絡に、私の頭には直ぐにキュミルの事が浮かんだ。
胸騒ぎを抑えながら、電話に出た。
シスター・アンジェの声が静かに響き渡り、その言葉は私の心を掻き乱し、一瞬息の吸い方を忘れさせた。
「お久しぶりねアンリ、落ち着いて聞いてくださいね。キュミルが暴走したの…」
その一瞬、時間が止まったように感じた。シスター・アンジェの声が遠くなり、頭の中は驚きと混乱で騒ぎ立てた。
シスター・アンジェの言葉を全て聞き取る事は出来なかったが所々は覚えていた。
「相手は死んでない」そして「キュミルは現在、鎮静化されている」というものだけだった。
その言葉を聞いて、私の心は一瞬、安堵に包まれた。少なくとも、最悪の事態は回避された。
その事実に忘れていた呼吸を再開する事が出来た。
それでも、胸の中に募る不安感が、ジワジワと増していった。キュミルのことが心配だ。彼女が何をしたのか、どうなってしまうのか。
冷静になる様に、何度も自分に言い聞かせようとした。しかしどうしても、キュミルの困惑した顔が頭から離れなかった。
新たな生活への適応、そしてその過程で起こった出来事。
私が彼女を力で捩じ伏せた時に、彼女の瞳に映っていた恐怖を思い出すと、加速する心臓の鼓動を抑えることができなかった。
起きてしまった事はどうにも出来ない。決して時間を戻す事は出来ないのだから。
今、自分に出来る事を精一杯全力で行う。
それが私の使命だと感じた。その為にはどんな困難も乗り越えてみせると、私は心に誓って教会に急いだ。
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