The Devil : friend 64 革命
建物の中に戻ると、先ほどの職員が私たちを来客室へと案内してくれた。
その扉を開けると、母の姿が有った。
数日前に病院で有ったとはいえ、久しぶりの再会だ。
私の記憶の中で描かれた母の顔は良く思い出せないのに、会えば母の顔は時間が経つのを忘れたかのように、一瞬で分かる。
私は「実は母さんに色々聞きたい事があって」と伝えると、母は私の緊張感を感じとったのか、一瞬だけ身構えるように、全身を強張らせたがすぐに「なんでも聞いて」と答えた。
まずキュミルを横に呼んで、「彼女の悪魔統合について調べてるんだけど」と旧基地都市での出来事をかいつまんで話した。
そして、キュミルが今から十数年前に繁華街で将軍と名乗ってた父さんと会って居た事を伝えた。
恐らく彼女が14歳くらいの時の話だ。
私は母に、キュミルについて覚えがないか尋ねた。
母はキュミルの顔を良く見て、思い出したように覚えが有ると答えた。
当時は今以上に革命運動が国内の至る所で起きて居て、今では考えられないほど国内全体が荒んでいたと言う。
そんな中で父と母は、教会施設で食事の配給や勉強を教えて居たそうだ。
その実績から教会の支援を得て孤児院の運営を担う事になった。
だが、その規模は徐々に大きくなり、結果として現在のような一種の隔離施設のような状態にまで発展してしまったというわけだ。
母ははっきりと言及はしなかったが、キュミルを孤児院で引き取る予定だったが、直前で彼女が逃げ出したらしい。
そんな彼女を追いかけた父と母だったが、彼女を強引に連れ戻すことはせず、可能な範囲で生活の支援を行ったとのことだ。
キュミルに事実か尋ねると「学校の寮に行く事になってた時に、家出した」と答えた。
母の話を聞いて、キュミルが親族、または公的機関から引き取りの手続きが行われた事がわかった。
それは、実質的に彼女が悪魔と認定され、それによって隔離の為の手続きが、されていたのだろうと感じた。
次に、オーロリス・インフェルノ出身者の多くが革命運動に加わった事実について聞いた。
母を非難するつもりはなかったが、どうしてもテロ行為に走るような悪魔たちを野放しにしたのか、その理由を知りたかった。
母は苦しそうな表情で、「私たちは元々隔離処置に反対だった。お父さんはみんなが共存できる社会を目指していたのよ」と語った。
私は母に「教会の教えとは違う、独自の考えを広めたて聞いたんだけど…」と、此処の教育方針について聞いた。
母はその問いに対し、具体的な答え言ってくれなかった。
ただ、「私もお父さんもあなたを応援してるわ」とだけ、穏やかに言った。
その言葉は、教会の教えを支持しているとも解釈できた。
また、教会は支持していないけれども、自身の子供である私を応援している、という意味にもとれた。
終始俯いた様に真剣に耳を傾けて聞いていたアルマティが突然口を開いた。「自分の子供を置いて、突然家を出るなんて、よほどの事が有ったんじゃないんですか?」と、直接的な質問を母に投げかけた。
母はその言葉に、「いつか、ちゃんと話したいと思っていたのだけど。」と、返答し口を閉じた。
アルマティの質問から、私が家庭の事情を話すほど信頼を置いてる人物だとは伝わっただろうけど、母にとっては見知らぬ女性だ。
私は、アルマティを見た。
彼女の眼はとても真剣で、強い意志が宿っていた。
何も聞かないままでは収まらないだろう。
私はアルマティに無言のまま問い掛けると、彼女は頷き了承した。
私は再び母に目を向け、「実は、彼女の母親が、母さんが教会を去ったのとほぼ同時期に、テロで亡くなっているんだ」と告げた。
母は驚きの表情を浮かべた。
私は母に「僕らがまだ学生の頃だから記憶がなくて、母さん何か知らない?」と尋ねた。
母はアルマティを見て「あなたは?」と尋ねた。
するとアルマティは「今はアンリさん達と一緒に、キュミルさんの悪魔統合の原因を調べてるアルマティ・アムシャ・スプンタです。」と答えた。
そして、「私はクロイツ・エンフォーサーズ(十字架の執行者)の血を引いてます」と伝えた。
ジェミニマと母は驚きの表情を見せた。
十字架の執行者は教科書で学ぶほど有名だったが、通常はそこまで記憶に留まらない。
ただテストで良い点を取るために覚える、過去の歴史の一部に過ぎない名称を知っていることが意外だった。
母はその言葉を聞いて心当たりがあるようだった。
その後、母は口を開き、言葉を選びながら、事の経緯を語り始めた。
当時は戦後の余波で、今よりも革命運動が頻繁に起こっていた。
私がまだ幼い頃に、空港が占拠されたり、訪問中の外国政治家が人質にされる事件などのニュースを見た記憶がお蘇ってきた。
特に印象的だったのは、犯人たちの母親が警察の包囲網から拡声器を使って息子たちに投降を呼びかける映像だ。
その光景は子供ながら異様に感じたのをよく覚えている。
それらの出来事が頻発していた時期と同じ頃に、この孤児院の出身者たちの一部が革命組織を立ち上げ、大きな事件に関与した疑いが持たれた。
母を含めて孤児院全体が警察の調査に協力してた時期があったという。
ちょうど私の父が殺された時と同じ頃だ。
母の話によると、十字架の執行者だけでなく、政府組織や特権階級に対して怒りを抱いている者は数多く存在していた。
それらが時代の流れと絡まり合い、一つの炎となって革命暴動に発展して行ったようだ。
特権階級の虚栄と欲望、政府組織の腐敗と無策、そして政府組織防衛を担って居た十字架の執行者
誰もが自らの正義を信じた結果だったのだろう。
この孤児院の出身者が、アルマティの母が亡くなったテロ事件に関与したかどうかは不明であるが、当時の国内は革命運動によって、荒れていたということだった。