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デビル・フレンド27 演技

朝の務めを終え、キュミルの様子を見に教会本部へと向かった。

暴力事件を起こしてから学校を停学中の彼女は、シスター・アンジェの元で、教区内の清掃など朝から一日中奉仕活動に従事している。

受付でスケジュールを確認すると、教会近くの公園で設備の点検や清掃を行っている事が分かった。


直接連絡して、居場所を聞いても良いのだが、出来るだけ彼女の素の部分を知りたいと思い、敢えて連絡はしなかった。

ちょうど、お昼休憩の頃合いなので、今の生活環境について、不満な点がないかなどの満足度を聞く良い機会になるだろう。

教会近隣にある公園は結構な広さがあり、木々が生い茂る自然公園だ。

とは言え、大体の清掃する場所や、トイレや水飲み場などの整備をする必要が有る場所は限られているため、それらの要所付近を探して回った。

芝生が整備された幼稚園園児や、幼児と遊ぶ母親達が良くいる場所の少し奥のベンチの上に腰をかけて話しているキュミルと、エクソシスター・アルマティの姿を見つけた。

近くには、幼い子供達と話をしているシスター・アンジェの姿も見える。

恐らく幼稚園児達と交流を深めているのだろう。

近くには保育士と思われる、私とそう年齢の変わらないエプロン姿の女性の姿も、ちらほら見えた。


2人に話しかけようと、歩み寄る私に気付いたキュミルが一瞬驚いた様に、私を見た。

キュミルの視線を追い、私に気付いたアルマティは、ベンチから立ち会釈をした。

2人がどんな会話をして居たか分からないが、キュミルの表情を見る限り、簡単な世間話程度の様に感じた。

アルマティが、調査の為にキュミルに接触する事は予想してたが、これほどまでに迅速に行動するとは、さすがエクソシスターの称号持ちだと感心した。

私は2人に簡単に挨拶をして、どの様な会話をして居たのか探りを入れた。

アルマティが、エクソシスターである事を隠してる可能性も有るので、顔見知り程度の態度で接する様に心がけた。

私が気さくに片手をあげ、「やぁキュミル、調子はどうだい?」と軽口を叩くと、素っ気なく「普通」と答えられ会話は終了した。

キュミルは故意に私とアルマティを見ない様にし、2人の関係性に探りを入れる様に意識を集中してた。


能力者は、普通の人より洞察力と言うか、感の様なものが鋭いので、基本的に隠し事は出来ないと思った方が良い。

嘘をついてる事がバレると信頼関係に影響が出る。

隠し通すべき重要事項以外は、自分から積極的に開示し、始めから相手に、隠し事があるとの疑問を抱かせない様にして、本質を探らせないのが定石だ。

疑われた時点で見抜かれると思い、そもそも疑わせない様に、行動しなければならない。


今、隠し通すべきと思われる事項は、アルマティがエクソシスターである事と、キュミルが教会に目を付けられてる事。

そして、私の任務が、キュミルが呪われた悪魔か、産まれながらの悪魔かを調査する事だと、知られない様にする事だ。

これをキュミルに悟られて、情報を隠されると、正当な判断が出来なくなり、実質的な任務の失敗を意味するからだ。


私は、アルマティに「この前は教区会議でお会いしましたよね?」と尋ねた。

彼女は、にこやかに微笑みながら「アンリさんお久しぶりですね」と答え、すぐに続けて「実は今日から、彼女のモンテッソリープログラムを担当する事になったんです」と、彼女の表情が一層明るくなった。

私は彼女の笑顔に圧倒された。驚きで、引き攣りそうになる顔の筋肉を必死に伸ばしながら、「そうでしか!」と平静を装い明るめに返した。

内心ではよくも、こんなに明るい笑顔で、いけしゃあしゃあと、嘘が付けるモノだと感心した。


しかし、アルマティのその立ち居振る舞いから、今後の役割分担が見えてきた。

彼女がキュミルに対する調査と聴取を担当し、私がキュミルの日常生活を監視する役割に回るという形になるのだろう。

私はほんの一瞬、寂しさと同時に微かな悔しさを感じた。

しかし、アルマティの抜群の演技力を見れば、彼女が私よりも遥かに能力が高いことは明らかだった。

合理的に考え、彼女の抱く筋書きが、最も効果的だと感じ、自分の役割を全うすることに集中しようと決意した。


そろそろ休憩も終わりの頃合いだと感じ、「それじゃキュミル、また夕飯で!」と挨拶をして、その場を後にした。

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