デビフレ7 従属
私はキュミルの頭に手を置き、静かに祈り始めた。
神聖な言葉が唇を離れ、それぞれが空気を揺らしながらキュミルの中に深く入り込む。
キュミルの身体はふるえ、目は閉じられた。そして次第に、彼の呼吸は深く、規則正しくなった。
神への感謝の言葉を述べ、キュミルが犯した罪に許しを与えた。「汝の罪を許そう」
この瞬間にキュミルは恐怖から解放された。
儀式が終わり、キュミルはゆっくりと頭を上げた。その瞳には以前の恐怖の痕跡はなく、代わりに新たな生を始める決意が見えた。
私は彼に微笑んだ、これが新たな始まりだということを示すために。
「これで自由だよ、キュミル」私はそっと告げると、彼の瞳からは感謝の涙がこぼれ落ちた。
その瞬間にキュミルに身体は光り輝いた。
身体は徐々に細く、小さくなり、やがて少女の姿へと変わった。
キュミルの変貌は、美しく神秘的で、まるで魔法のようだった。明るい光の中で、その顔は、恐怖から解き放たれたばかりの純粋さと安堵を表していた。
しかし、私はその変化の意味を理解していた。
私に従属することを選んだ悪魔は、今後自分が最も生きやすい姿を選んだに過ぎない。
他者に愛されながら生きる方法を選んだ証だった。
私は静かに頷き、彼女の選択を尊重した。
それは彼女自身が道を選び、自分の生を生きるという決意を示した意思の現れだ。
彼女の姿が、どれほど人間らしいものに見えるかは関係ない。重要なのは、彼女が自分の意志で選んだ道を歩み始めたという事実だった。
"キュミル、君の新たな姿、新たな人生を祝福するよ。"
私は彼女に微笑んだ。彼女もまた、私の言葉を受けて優しく笑った。その笑顔は、新たな人生への希望と期待に満ちていた。
孤独な悪魔に行く宛など有るわけもないので、私は実家の教会に彼女を連れて行く事にした。
ジェミニマは、バラックスに戻ると言う。
別れ際に、「キュミルは大丈夫だろうか?」と尋ねて来た。
悪魔と人間は根本的に生き方や、考え方が違う。
実際、人間社会に順応出来る悪魔はほぼ居なく、大半の悪魔が再び自我を暴走させ、その度に罰を受け改心する。
結局、何度も暴走を繰り返しながら人間に従属して生きて行くしか無い。
協調性が無い悪魔達が、数で圧倒的に有利な人間に逆らいながら生き続ける場所は、この国には無いのだから。
私はキュミルには聞こえないくらい小さく「当面は大丈夫だと思う」と答えた。