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デビル・フレンド13 叱り方
午後の日差しはすでに衰え始めていた。赤く燃える太陽は、まるで自分の心を映し出すかのようだった。
教会へと向かう、通り慣れた道のりは、何も変わらないのに、自分の心情だけが普段とは異なり、薄暗いモノクロームの世界を生きてる感覚に陥った。
頭の中は混乱していた。悔しさ、怒り、やはり悪魔はこんなものかと言う諦め。
さっきまで喜んでくれて居たジェミニマに、この事を伝えたら、どんなに悲しむか想像すると、胸が苦しかった。
そして何よりキュミルへの心配。全てが複雑に絡み合い、一つの大きな波となって私の心を揺さぶっていた。
教会の門をくぐり、急いで彼女が待つ教室へと向かった。
既に授業は終わり、人気を感じない物静かな教会に、時折カラスの鳴き声が響いて居た。
ノックをして部屋に入ると数人の教師と、シスター・アンジェの姿が目に入った。
彼等の視線の先には、項垂れる様に憔悴して地べたに座りこむキュミルの姿があった。
その顔は険しく、しかし何より混乱と恐怖に満ちていた。その姿を見て、私は自分の心が、酷く痛むのを感じた。
それが、キュミルを慰めようとする気持ちから来ていたのか、あるいは無意識のうちに行動し、その後で後悔する、悪魔特有の自制心の欠如を見せつけられた事への、絶望感からくる痛みなのか。私には分からなかった。
久々に会ったシスター・アンジェは、何一つ変わらないままだった。子供の頃から知っている、まるで母親のような温かな面影のままだった。
私はシスター・アンジェを見て事後処理の話をする為に、声を掛けようとしたが、彼女はそれを静止する様にキュミルに視線を移した。
つられる様に私もキュミルを見た。
キュミルの後悔と哀しみに、打ちひしがれる顔を見て、自分が彼女に何をすべきなのか考えた。
思いっきり殴りつけるべきなのか、まず謝罪させるべきなのか。
彼女の身柄引受人として、何をすべきなのか、まるで考えが纏まらなかった。
エクソシストとして悪魔狩りを専門に行う私には児童心理学や、教育の知識など無い。
教会には、シスターや神父、こう言う問題を解決する専門家が沢山居るのだから、その人達に任せるつもりで居たからだ。
それでも、何か声をかけるべきだと肌で感じた。
シスター・アンジェならどうするだろうか?
私が幼かった頃に、喧嘩をして怒られた経験がある。その時に彼女が何て言ったか、思いだそうとした。
どれほど考え込んでも、思い出せそうにないので「シスター・アンジェ」と、声を掛けて助けを求めたが、彼女は無視する様にキュミルを見たままだった。
誰も助けてくれそうにない。だから、自分がどうしたいかを決めるしかなかった。
もう一度キュミルの顔を見つめ、もし彼女を殴りたくなったら殴ると、心の中で強く誓った。そして再び、彼女の瞳を見つめた。
自制心が効かず突発的に行動して、後で反省する悪魔を何度も見て来た。
奴等が幾ら、後から反省した所で壊された物や失った物は決して元には戻らない。
こんな馬鹿どもを駆逐し滅ぼす為に私はエクソシストになったのだ。
いつも、いつも思って居た。
本当はこの世の全ての悪魔を皆殺しにしたいと。
それが出来れば世界は平和になるんじゃ無いかと思って居る。
それでも孤独に打ち拉がれてるキュミルの顔を見ると、私には、彼女を責めることはできなかった。
私はキュミルを抱きしめた。
体温が低くひんやりした感覚と、僅かに震えてるのを感じた。
そのまま少し抱きしめ続けると、身体が暖かくなって行くのを感じた。そして、一緒に問題を解決しようと語りかけた。
私はシスター・アンジェに連れられ別室で今回の事件の詳細を聞く事になった。