自動車ディーラーの整備士不足の深刻さをデータで一気に見る
自動車ディーラー特化の採用支援コンサルティングを行っている小島です。
今日は、ディーラーの収益約50%を支えると言われるアフターサービスの要、自動車整備士の人材不足事情についてまとめたいと思います。
自動車整備士の不足率は近年上昇しており深刻化しているのですが、どのくらい深刻化しているかを数字で把握されておりますでしょうか。
自動車整備士採用がどれほど深刻なのかを改めてデータ的側面から見てみましょう。
整備士不足は、どのくらい深刻なのか
整備士の求人倍率について
求人倍率というのは、1人あたりに仕事量が何件あるかの倍率です。1を超えると採用難、下回ると就職難と言われ始めます。コロナ前の2019年の日本は、歴史上まれに見る採用難時代で全国平均は1.6を超え、世界的にも非常に高い求人倍率の時代でした。
景気が戻り始めている22年10月時点でも1.4に到達するペースまで来ています。
下記のグラフから、この7年で一気に日本が採用難時代に突入していることがわかります。
採用難が今度日本に起きる理由は、総人口の減少が開始していること、労働世代人口の20歳〜65歳ゾーンの人口が同じく減少していること、一方で労働機会は比例して減らないトレンドであるためです。労働人口を必要とする機会(需要)に対する、労働人口(供給)が間に合わない流れが長期化すると予想され、ここから日本は大きな構造改革がない限り人材不足による採用難時代となります。
自動車ディーラーは日本にトヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スズキ、ダイハツ、三菱と国産メーカーに加え、海外ブランドなど多数存在し20,034店舗を構えています。
国家資格の自動車整備士資格を持つ整備士は、2020年時点で約33万4千人です。それとは別に資格を持たない自動車整備の工員が6万5千人います。職場はいずれも自動車整備工場や、自動車販売会社(ディーラー等)がほとんどです。
しかし、全ての資格保有者が整備士業をやっていないことが整備士不足の1つの原因です。なんと50.6%しか本業の整備士をやっておらず、半数が整備しをやっていないゴースト整備士のようです。
私の感覚では、これからさらに整備士は別の業界へ転職していくと予想しています。特に若い整備士は、早く別業界に行けばキャリアを積み上げられます。さらにコミュニケーション能力などのビジネス的能力が高い方はすぐに給与も上がっていきます。50%も整備士資格の稼働率があるからと安心していてはいけない数字かつ実態です。
引用元によってデータは変わりますが、こちらのサイトでは通常のサラリーマン業との比較で大きな差が出ています。士業の国家資格職であり整備士が重要と言われる世の中であっても整備士の給与は低いです。これではさすがの整備士の方が別業界へ動きたくなるのも当然な話です。
整備資格資格保有者 約33万4千人→50%稼働 16.7万人→全国の店舗数20,034→1店舗当たり8.3人配置可能という計算です。
この数字を見る限りでは、簡単ではないですが、どうにか店舗運営をできそうな数字にも見えます。気合と根性でどうにか運営できるかもしれません。
しかし、現実は全然違うようです。
22年2月の読売新聞の関連記事によれば、整備士の求人倍率は4.58倍と全国平均倍率をはるかに超えています。1人の整備士資格者に対して、4.58件の求人=働き先があることを意味します。すごく高い数字です。
この4.58倍は、職種別の求人倍率順位の中でも7番目の高さです。
ITソフトウェアエンジニアの不足状況や、外食レストランでのスタッフ不足などがメディアでは大きく取り沙汰されますが、それ以上に整備士不足は深刻なことがわかるかと思います。
正直私も自動ディーラーの採用に関わるまでは、整備士不足の深刻さについてはそこまで感じていませんでした。ここまで求人倍率が高いとも思っていなかったというのは実態で、ほとんどの一般の方がそう感じているのではないかと思います。理由は、マスメディアではあまり整備士不足のニュースが取り上げらないからかと思います。(多数取り上げられない理由がある気もしないわけはないです)
正直、よく人材不足を取り上げれる介護業界、ドライバー業界、外食業界に比べても大きく不足度が高いというは問題ですし、自動車産業=日本のNo.1産業であることを考えるとすぐにでも解決しなければならないテーマだと感じます。
毎年の整備士資格取得者数について
加えて気になるのは、整備士資格取得者の数です。
残念なことに、今日本の整備士資格取得者数は年々減少しています。日本自動車整備振興会連合会によると、自動車整備士試験(学科)の2018年の合格者数は30,525名、2008年(平成20年)の試験申請者数は3万6630人、1993年(平成4年)は約7万2600人と、下げ幅は鈍化するも、この30年で半減しています。下のグラフは国土交通省の1年間の整備士試験への申請者と合格者のデータです。
求人倍率的に考えれば、4.58倍ですから、採用の1/2は新資格合格者から取りたいと考えれば2.25倍の約68,500人の合格者がいないといけなくなります。それがいなければ、新卒だけでは足りなく、中途人材でどうにかしないといけないわけです。中途人材で各ディーラーがどこまで採れているのかについては長くなりますので、別のブログ回で書きたいと思います。
ディーラーの粗利の50%を作るのが、アフターサービス
整備士不足は、どの程度経営的なインパクトを生むのでしょうか。
売上数字を作っているのは、営業のイメージが強いですが、実態は整備士が非常に重要なことがわかります。むしろ整備士がいなければディーラーの利益が大きく短期的に落ちる経営構造になっています。
1社平均の売上高では車両販売が、約80%を占めているものの、原価を除いた粗利ベースでは約50%に留まっています。つまり、そのもう半分の粗利50%はアフターサービスが占めているというわけです。ディーラーにとっての整備士によるアフターサービスが既に収益の要となっているかがわかります。しかし、その整備士求人倍率が4.58倍というわけです。
人口減トレンド、自動車メーカーの売上の大半はグローバルで占めていることを考えると、ここから日本国内の自動車需要が右肩上がりに逆転することはないと思われますが、日本の国策である自動車産業である以上、可能な限り国内の自動車販売は落としたくないはずです。
トヨタのウーブンシティ構想も日本でやりますし、やはり各社が日本をベースとした会社ですので日本のマーケットは重要であることに当分変わりはないと思います。
そんな中で、今後5年〜10年で進むEVシフトによる根本的技術の変化、それに伴う自然な反動を考えると、ディーラーの整備士たちのよるアフターサービスのオペレーション体制がどこまで耐えられるのかについては非常に心配です。日本の自動車産業の新車販売のほとんどがディーラーで販売、アフターサポートをされていることを考えると、時間の問題で整備士不足による問題が増えてくることは間違いないでしょう。
車検依頼をしても「申し訳ないですが、別の店舗に行ってください」、「預かった車の返却は数ヶ月後になってしまいます」なんてことが頻発するのでしょうか。車社会の地方などで起きたら、大問題だと思います。
残念ではありますが、整備士不足問題の兆しが起きており、昨年21年にはトトタ系ディーラーで不正車検が起きています。おそらく見るべきところは見ているので、事故につながる故障は起きないと思いますが、車を乗る1個人としては少し怖いと思います。
意外に盲点なのが、整備士学校の点在位置の偏りと、人口分布
整備士の資格取得者が1年に約3万人いたとしても、47都道府県の平均的に分布しているわけではありません。当然、県別の学生人口の偏りと、整備士学校があるかないかの偏りが存在します。
整備士不足の点でさらに大事なのが、整備士学校が多くある県と、人口が多い県に整備士候補生が集まるということです。
当然ですが、学校が少ない県には、学生が集まりたくても集まりません。さらに人口の多い首都圏から地方へ引っ越すとなると学生としても負担が大きく、簡単にはできません。
しかし県内人口に対する自動車利用率が高いのは間違いなく地方県の方です。地方圏の若者人口は減っているにも関わらず、学校数も少ないというは非常に厳しい負のスパイラル構造になっていると言えます。
1つの具体的な例が福島県です。
福島県では、整備士学校が6校あり、今年度の卒業生は約110名です。
ディーラー企業数は17、店舗数は244店舗です。明らかに福島県内の学校だけでは足りていないことがわかるかと思います。
これは福島県だけではなく、地方県の各所で頻発しており、本格的な対策が必要になっています。
下記は参考データとなりますが、国土交通省が出している整備士養成施設のデータ一覧です。
次回のブログでは、具体的な採用の対策について話していきたいと思います。簡単には採用のできない整備士、営業職の採用戦略はどうすればよいのか等を取り上げていきます。
最後に
並行して、自動車ディーラーの皆様からの相談も受け付けております。
・採用戦略
・本格的な採用不足解消に向けて
・ウェブ採用戦略
・新卒採用について
・中途採用について
など多数受けております。
現在、社数限定(かつ、残りの枠が僅少)ですが、ご興味のある方はお気軽にご連絡を頂けますと幸いです。もし連絡を希望される方はLinkedinアカウントまたはメールアドレスよりいただけますと幸いです。
小島 慶之
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