やばい、まじやばい! 誰も彼女を止められない!
やばい、まじやばい!
何がやばいって、女子ラグビーのジャパン代表に選ばれたジェシー・キニスキー・グレート・ヤマガタ。
もういったいどこまでがラストネームなんだか、ミドルネームなんだか、なんだかよくわからない。
誰も彼女の突進を止めることができない!!
ジェシーは元プロレスラーの元男性。
身長2メートル02、体重133キロの超巨体。
100メートルを11秒02で駆け抜ける瞬発力、ベンチプレス320キロ、計測不能な背筋力と握力、無尽蔵のスタミナで、長年大日本プロレスリングの無敵の帝王として君臨していた。
それが突然の性自認が実は女性だったのカムアウト。そして電撃引退と性転換手術。
どんな熱烈なジェシーファンだって、このジェシーの大変身は予想すらできなかった。
青春を捧げてジェシー命だった私は、正直泣いた。
そんなジェシーが、女子ラグビーの日本代表サクラフィフティーンに選出されたと発表されたのが、南アで行われた国際大会の直前。3年前のこと。
性転換手術に加えて、12ヶ月間のホルモン療法を受けテストステロンレベルが基準値の10ナノモル/リットル未満に維持されていたことから、国際ラグビーボードのトランスジェンダー女性の参加資格基準を完璧に満たした「女子選手」として認定されての選出だった。
これには、もはやプロレスファンの枠を超え、世間の誰もが驚いた。
私もびっくり。駅まで行って号外をもらってきた。
ジェシーは高校までラグビー一筋のラグビー小僧。
花園には3年連続出場。高校日本代表にも選ばれた有名選手。
プロレスでの12年間の長いブランクはあったとは言え、女子ラグビーなら即戦力になるだろうって私は確信した。
もちろん、体格、筋力が女子選手のレベルを遥かに超えてる(普通の男性ラガーマンのレベルですら軽く超えている)ジェシーが出るのは、フェアじゃないんじゃないかって声もあるにはあった。ネットを中心に。
だけど、今の時代、そういう批判は表立っては誰もできなかった。
日本の女子ラグビー始まって以来の話題性もあって報道陣が殺到した羽田空港をジェシーは満面の笑顔で南アに出発した。
当然、私も南アに飛んだ。
国際大会でのジェシーの活躍は想像以上に圧倒的だった。
ジェシーがボールを持つと、もう誰も止められない。
1対1、1対2ならタックルに来た相手選手を2メートル近く吹っ飛ばして突き進む。
3人、4人がかりでジェシーに絡みついて止めようとしても、20メートルは相手選手を引きずったまま進んでしまう。
巨体なうえに1メートルは超えるジャンプ力でハイパントでのボール争奪戦は無敵。
ジェシーがジャッカルに入れば、測定不能な握力でボールを強奪。
ディフェンスでは突進してくる相手をガチっと受け止めると、相手を抱えたまま自陣内から敵陣深くまで運んでしまう。
もう手がつけられない。
そのうえ相手チームは失神者、怪我人が続出。
試合開始20分弱で、相手選手たちはジャパンと戦うことが恐怖以外の何物でもなくなってしまったのが、観客席から見ていた私にもわかった。
そして、試合開始前から始まっていたジェシーに対する大ブーイングも次第に無くなって、スタジアムは水を打ったような静けさになっていた。
結局、負傷交代に指名された相手のリザーブ選手が出場拒否に至ったところで、ジェシーは自ら退場した。
これ以上自分が出ての試合続行は良くないってジェシー自身が判断した。
わずか30分足らずで、初のトランスジェンダー選手の歴史的な戦いはそこで終わった。
でも、ジェシーの優しさ、フェアネスさに私は泣いた。わんわん泣いた。
そして、一生ジェシーについて行こうって誓った。
世界の女子ラグビー界は、ジェシーの出現で、これからはトランスジェンダー選手中心の時代になるだろうって見方をする人もいるけど、トランスジェンダー選手の参加資格基準の見直しをまずすべきだという人もいて、今後どうなるかわからない。
ジェシーみたいなスーパーサイヤ人同士が戦う女子ラグビーも見たい気がしないでもないけど、生まれつきのオンナが活躍できない女子ラグビーなんて意味が無いように思う。オンナとしては。
あれからジェシーは女子プロレスに転身した。
今や無敵の女王として活躍している。
総合格闘技にも進出して、そっちでも連戦連勝中。
ジェシーの得意技は、2メートルの高さから相手をマットに叩き落とすパワーボムだったけど、女子には危険過ぎるので封印してる。
なので今はひたすら裸締で相手を絞め落としてる。
私はそっちの方がよほど怖いと思う。