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やばい、まじやばい! さえないパパが、市庁舎のてっぺんでまさかの大演説をやらかした  4,607 文字

やばい、まじやばい。
何がやばいって、うちのさえないパパが市庁舎のてっぺんに登ってまさかの大演説をやらかした。

うちのパパはほんとにどこにでもいる普通のおじさん。見た目はね。
でも、超のつく映画マニア。
Youtubeなら10分で済むような話を、2時間近くもテレビを占領して、あーー、やっぱりいいなぁー映画はとか言ってる。
そのくせネットフリックスとか大嫌いで(じゃあ、見るなってあたしは言いたい)、映画は映画館で見ないとダメだなとか訳のわからないことも言う。

パパは学生時代から映画ばかり見てたんだって。
だから、頭の中にはこれまで見たいろんな映画がいっぱい詰まっている。
全然似合ってないのに、私から見たらホントにさえない、頭もちょっと寂しいおじさんなんだけど、昔からさらっとキザなこと言う。映画の主人公気取りで。

君の瞳に乾杯!
(カサブランカ)

なんて超臭い台詞を初デートで言われて、うちのママはコロっとダマされたんだけどね。
まあ、どっちもバカだよね。

いつか自分で映画を作るのがパパの夢だったんだって.。いかれてるわ。
最近はスマホ使ってYoutubeで配信できるから、せっせとスマホで動画撮って、Youtubeにアップしてる。
だいたい何かの映画の登場人物になりきって、独白してるパターン。バカでしょ。
再生数13とかで、それ自分で見た回数じゃんって思うけど、パパ的には大満足。だって、気分はもう映画監督 兼 主演俳優なんだから。
あんだけ機械音痴だったくせに、今じゃスマホ使って生配信までしだしたから、びっくり。
でも、いったい誰が見てるか謎だけど。

そんなパパのいかれ度合いが完全に振り切れちゃたのは、家の階段を踏みはずして二階から転げ落ちて頭を打ったのが原因。
救急車を呼ぶ我が家史上最大の騒動になったんだけど、結局、大きな怪我はなくて、顔にいくつか擦り傷とおでこに大きなタンコブができたぐらい。

で、頭を打ってるから念のため2~3日入院しましょうってことになった。
・・・はずだったんだけど、翌日の昼頃にパパはお医者さんの着る白衣姿でひょっこり帰って来た。
まさか帰ってくるなんて思ってかったから、あたしもママも超びっくり。
病院が近所なので、看護師さんの目を盗んで先生の白衣を勝手に着て、どうどうと歩いて帰って来ちゃったみたい。

ママが「パパ・・・大丈夫なの?病院抜け出して来ちゃって?」って聞いたら、

家族と時を過ごさない男は決して本物の男ではない。
(ゴッドフォーザー)

 やれやれ、また映画狂いのキザなセリフかよって思った。あたしは。
で、ママが聞いたの。「ホント、大丈夫? 昨日あなた、階段から落ちたのよ。覚えてる?」って。

一度あったことは忘れないものさ。思い出せないだけで。
(千と千尋の神隠し)

落ち込んだりしたけれど、 私は元気です。
魔女の宅急便)

あたしはパパはなんかいつもと違うなと思った。だって、キザな台詞じゃないもの。
でも、ママはニコニコ。 「そうなの? じゃあ、お昼だし、何か食べる?」って聞いた。 
え? おかしいと思わないの、ママ?
そしたらパパが

何を食うかじゃなくて、大事なのは誰と食うかだろう。
(深夜食堂)

パパからそんな上から目線で言われたことないからママはびっくり。
「パパ、それどういう意味?」って聞いた。
そしたら、パパが

考えるな、感じろ!
(燃えよドラゴン)

ママもようやくこれはちょっ変って気づいたみたい。超鈍いよね。
「パパ、やっぱり変。すぐ病院に戻って!じゃないと死んじゃう!」

人はみんな死ぬが、 本当に生きた人は少ない。
(ブレイブハート)

とか言って、パパは外に飛び出して行っちゃった。裸足のまま、白衣で。

それからの足取りはよくわからないんだけど、一つだけはっきりしてるのは、パパが最初に会ったのが、隣の勝山さんの奥さんだったってこと。そう、近所の噂好きのスピーカーババア。
ちょうどパパが玄関を出たところで、興味津津でうちを覗いてた勝山さんと鉢合わせになったみたい。
「あらー、もうお身体大丈夫ですの? あたくし他人事には思えなくて、もう心配で、心配で。」
そしたらパパが

皆、自分の人生を歩んでいるんだ。君のじゃない。
(打撃王)

君のような 炭水化物を食べる人間に、その服を着る資格はない。
(プラダを着た悪魔)

もうそれで勝山さん超ご立腹。 確かに勝山さんは炭水化物取り過ぎって体型なんだけど。
人が心配してやってるのになんて言い草だって、さっそく近所に言いふらしていたわ。あのクソババア。

家を飛び出して2時間後、パパが現れたのが、パパの勤める20階建ての市役所の屋上のフェンスの外。 
パパは市役所の総務課の主任なの。
パパの格好は一言で言うと”よれよれ”。白衣はどこかに脱ぎ捨てたのか、よれよれのスラックスに薄汚れた白のタンクトップ(というかランニングシャツ)だけ。そして裸足。

市役所の人が建物のヘリに立ってるパパに気づいて、あわてて警察と消防に通報。
パトカーと消防車が何台も駆けつける大騒ぎになった。
あたしとママも市役所から連絡をもらって、電動チャリで駆けつけたよ。さすがに。

市役所の周りは、通報で駆けつけたパトカー、消防車。上空には報道ヘリコプター。それに騒ぎを聞きつけて野次馬達がじゃんじゃん集まって来てた。
みんな固唾を呑んで屋上のパパを見上げてた・・・ なんてことは一切なくて、みんなスマホでパパを下から撮りまくり。
パパをフレームに入れて自撮りしてる人までいた。

ママが警察から渡されたメガホンでパパにいろいろ話しかけるんだど、遠いし、周囲がワイワイ、ガヤガヤうるさすぎて全然パパに声が届かない。
困ったわねー なんてママが言ってたら、パパがスマホを右手に持って自撮りしながら、何か話し始めた。

おーい、聞こえないよー なんて声があちこちから上がってた。

そしたら、 おーーーー!あの人、生配信やってんじゃん って野次馬の中の高校生っぽい子が騒ぎ出した。

そう、パパが生配信を始めちゃったんだよ。屋上で。
もう、それからはみんな自分のスマホに釘付け。
あたしもパパのライブ配信ページ見たら、超どアップで無精髭に擦り傷だらけの顔のパパが映ってた。
エックスで拡散されたみたいで、もう2万7千人がライブ視聴中になってた。

そして、パパの大演説が始まったの。

俺はニューヨーク市警のジョン・マクレーンだ。聞こえるか。
(ダイ・ハード)

もう野次馬、大爆笑。

愛してるとは死ぬほど言ったけど、謝ったことは一度も無かった。
悪いが君から妻に伝えておいてくれ、謝っていたと。
(ダイ・ハード)


それ聞いて、ママが目をうるうるせてた。

私の声が聞こえている人々に私は言う。「絶望するな」と。
(独裁者)

スプートニクに乗って宇宙に飛ばされたライカ犬のことを思えば、
僕の不幸なんてちっぽけなモノだ。
マイライフ・アズ・ア・ドッグ)

みんな人生が何かを忘れてる。生きる素晴らしさを忘れている。
思い出す必要がある。
普通に暮らし普通に生きてることがどんなに尊いか。
(レナードの朝)

自分のすることを愛せ。
ニュー・シネマ・パラダイス) 

君は 自分の人生を生きる為に 生まれてきたんだ。
(サウンド・オブ・ミュージック) 

君は君であるために産まれてきたのに、
なぜ君はみんなに合わせようと一生懸命なんだ。
(ロイヤル・セブンティーン)


最初はワイワイ騒いでいた野次馬もこのへんから静かになって、パパの言葉に耳を傾けだした。


人生は必ずしも 思うようになるとは 限らない。
ローマの休日)

人生に確かなことなんてない。それだけが 確かなことなんだ。
(ビューティフル・マインド) 

過去は終わってしまった。未来はこれからどうにでもなる。
だから、大事なのは現在だ。
ロークン・フラワーズ)

金は必要だが、重要ではない。
ナイト・オン・ザ・プラネット) 

幸せを買ってるわけじゃない。不幸を金で追っ払っているだけさ。
(サイコ)


このへんから、もう誰もしゃべらなくなった。みんな、真剣にパパの言葉を聞いている。


限界を知ってしまうかもしれない10年後に決断するよりも、
今決断した方がいい。
(ハイスクールミュージカル3)

考えすぎると人間は臆病になる。
(コクーン)

列車がどこへ行くかよりも 「乗る」と決めることが大切なんだ。
(ポーラー・エクスプレス)

やってしまったことは決して後悔しない。
だけど、やらなかったことに対して後悔してしまうんだ。
(エンパイア・レコード)

目を開け、 口を開くな。
(ゴッドファーザー)

やるか、やらないか。やってみるなんて言葉は存在しない!
(スターウォーズエピソード5/帝国の逆襲)

道を知っていることと実際に歩くことは違う。
(マトリックス)

決断すべきことは、我々に与えられた時間の中で何をするかである。
(ロード・オブ・ザ・リング)

人間は
自分の運命を自分で切り開いていくべきだ。
(アラビアのロレンス)

君の骨はガラスでできているわけじゃない。
人生にぶつかっても大丈夫だ。
(アメリ)

僕は人生を贈り物だと考えている。
(タイタニック)

僕たちは皆一緒に時間を旅している。人生という時間を。
そこでベストを尽くすしかない。
その旅が素晴らしいものになるように。
(アバウト・タイム)

今日という日は、残りの人生の最初の日なんだ。
(アメリカンビューティ-)

自分の価値を信じるなら、迷わず前に進め。
(ロッキー・ザ・ファイナル)

思いあがりは 若者の特権だ。
(ペリカン文書) 

今を生きろ 若者たちよ。すばらしい人生を つかむのだ。
(いまを生きる) 

That's All I Have To Say About That.
私が言いたいのはそれだけだ。
(フォレスト・ガンプ) 


スピーチが終わったら、やんやの大喝采、拍手。拍手。 
泣いてる人までいた。
ライブ視聴者も12万人になってた。


スピーチの後、パパは警察に保護されて二週間入院した。
その間、本人はずーーーと映画の話しかしなかった。もう完全に頭いっちゃってた。

でも、パパが市役所を辞めたのは、そのせいじゃない。
パパが次の市長選に革新系の候補として出ることになったから。しかも大本命。(本人はまだよくわかってないっぽいけど。)
市役所の上での大演説でパパがやってたYoutubeチャンネルがすごい評判を呼んで(再生回数が1000万回を軽く超えた)、革新系の特に全国のLBGT支援団体から熱烈な応援をもらうことになっちゃったんだよね。

なぜかって? 
パパは自分のチャンネルの冒頭で毎回ずっとこう叫んでたのよ

僕は偏見に挑戦する!  偏見を持つすべての人に!
 (炎のランナー)

どうせ昔の映画の台詞かなんかなんだろうけど、市長のセクハラ辞任での選挙なので、ばっちりはまったって感じ。

パパは、ユダヤ人を含むいかなるマイノリティへの偏見、差別とも戦うとか訳のわからないことを言ってる。(パパって自分が100年ぐらい前のユダヤ人設定になってんじゃないの?ってママと話してるけど、それはあたしとママの二人だけの秘密。)

パパが市長になったら、県内で最初に同性婚を認めることになりそうだし、男女の他に第三の性(トランスジェンダー)も認めることになりそう。
積極的に難民も受け入れるとも言ってる。

そしたら、うちの市に全国からもそして世界からもいろんな人が集まってくるんじゃないかな。
なんか楽しそうになってきた。

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マジバイ
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