パートのおばちゃんになってみた 1,411 文字
5年前に株でもうけて都内に小さな会社を立ち上げた。
業種を言ったら多分特定される。
なので、何をやってる会社かは秘密。
従業員はパートさん達を含めて現在35人。
私は会社のオーナーだけど、社長は旦那になってもらった。
いやいや勤めていたコンサルを辞めれて、旦那は嬉しそうだった。
難しい経営判断はオーナーの私がすることにしてるけど、日々の経営は旦那に任せている。
そして先月から、私は身分を隠して時給1350円のパートのおばちゃんとして自分の会社の総務で働くことになった。
自分の会社の中の様子を見てみたかったし、純粋に労働者として働いてみたかった。
・・・というのは嘘。
旦那にそう言っただけ。
義母がなんやかんやと理由をつけて家にやって来るのよね。
それがすごくうっとおしかった。すごいストレス。
旦那にしてみれば大切な母親でも、私にしてみれば趣味も話題もまったく合わない赤の他人のババアに過ぎない。
義母は息子が会社を立ち上げたと思ってるもんだから(嫁が立ち上げたなんて夢にも思わないらしい)、鼻高々。そして私を能なしの専業主婦だと思ってるもんだから、息子ちゃん自慢しまくりの、遠回しに私のこと下げまくり。
だからパートに出ると言えばもう義母とは顔を合わさなくて済むようになるって思った。
もちろん私がどんな会社のパートに言ってるかは義母には教えてないし、これからも教える気はさらさらない。
うちの会社は新しい会社なので、平社員も幹部クラスもほぼ全員が転職組。
前田という前職は外資にいた56歳のぼーっとした太っちょのおっさんが総務・経理部長。
自動車会社から転職してきた鴇田という48歳のすけべオヤジが総務課長。
その下に前職は生命保険で営業事務をやっていた36歳の平社員の鴨下さん。おしゃべりですごく作業効率の悪い人。
そして42歳のパートの私。鴨下さんの指示で働くという立場。
誰もこの会社の大株主の顔なんて知らないし、会社では旧姓だし、社会保険関連で使う本名もありきたりの名字なので、誰も私がこの会社のオーナーだなんて気づかない。
総務は人員が少ないうえ、課長の鴇田のバカが全然働かないので、毎日何かとすごく忙しい。
だけど、総務にいると会社全体の動きや、役員も含めて各人の仕事への取り組み、性格、キャラクター、人間関係がよく見えて、毎日がすごく面白い。
何より面白いのが、旦那の評判。
経営手腕については、コンサル出身のくせに管理会計をまるで理解してない事には超びっくらこいたけど、まあまあ及第点というところ。
私の耳に入ってくる旦那の評判は・・・
”あの頭、ヅラじゃね?”とか(バレてるよ、あなた)
”社長のダジャレちっとも面白くねー!”とか(受けてるのは、あなただけよ)
”社長ってオンチだよね”とか(これもバレてるよ、あなた)
とても気の毒で旦那に言えないわ。
一つだけ嫌なのは、部長の前田からも課長の鴇田からも時々セクハラを受けること。
さすがに触られはしないけど、「最近、いつエッチしたの?」ぐらいな事は連中は平気で言う。ここは昭和なのか???
お酒の席では露骨にモーションまでかけられる。
すごくキモい。
連中は立場の弱いパートのおばちゃんなら何を言ってもいいと思っているらしい。
そういう事言うとさすがに怒りますよ! って、私ももうおばちゃんだから今のところ適当にあしらってはいるけど、そのうちクビにしてやるつもり。
私の沸点が意外と低いことは、連中はよもや知るまい。